表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/72

07 工場長を殴る

 『人生ガチャ』に現れた、『ミッション』という新たなる項目。

 いよいよゲームっぽくなってきたな、と思いつつ、確認してみると……。



『ミッション:工場長を殴れ!』



 という文字の上には、今の俺にとって不倶戴天の敵ともいえる、オッサンの顔が……!


 俺は工場で、パックの刺身の上にタンポポを乗せるアルバイトをしている。

 いわゆる『ライン工』というやつだ。


 画面に出ていたのは、俺を毎日のようにいじめる、工場長だったんだ……!


 工場長は背が低くてハゲていて、出っ歯で耳がとんがっている。

 仕事中、俺のラインにやって来ては、タンポポの位置が悪いだのと、甲高い声で喚き散らすんだ。


 まさか、現実(リアル)の工場長を、殴れっていってるのか……!?


 いやいやいや、いくらなんでもそんなこと、できるわけないだろう!

 殴りたいと思ったことは数え切れないほどあるけど、そんなことをしたら、一発でクビだ!


 しかしミッション説明画面には、そんな俺を悩ませる、とんでもない一言が書いてあった。



『ミッション中は、無料のガチャが引けません。また時間切れでミッションを失敗すると、このスマホと、それまでに引いたガチャはすべて没収されます』



 無料のガチャが、引けない……!?

 それは俺にとって、息をするのに金を払えと言われているのも同然だった。


 他のゲームアプリで遊べばいいだけのことだが、俺はもう、この『人生ガチャ』にすっかりハマっている。


 しかしそれ以上に、俺を追いつめていたのは……。

 ガチャの、没収……!


 ということは、いまここにいる、スク水JKもいなくなるということ……!?


 美人局だとわかっていても、そんな理由でいなくなるのだけは嫌だ!

 だって、大魔法使いもかくやという俺の人生に、初めて現れた女の子なんだぞ!


 俺の脳裏に、ユズリハとの思い出が走馬灯のように走る。


 それは、今日の朝から昼までという、わずかな時間の出来事でしかなかったが……。

 オブラートのように薄く、無味無臭だった俺の人生において、もっとも濃密で、味のある出来事の連続だった。


 今だからこそ白状しよう。

 彼女といっしょに食べたカップ麺は、今まで食べたどんなものよりも、美味しかった……!


 俺は決意とともに、スックと立ち上がる。


 いまの月給12万の仕事と、JKの嫁……比べるまでもない……!

 それに、どうせガチャに捧げた人生だ、ガチャで棒に振るのも悪くないっ……!



「ユズリハ! 俺は今から工場長を、殴りに行ってくるっ!」



 俺の大声にびっくりして、ユズリハは細い肩をピクンと震わせる。



「はっ、はひっ! ……あっ! そ、それでしたら、わたくしもお供させてくださいっ……!」



「いいけど、その格好で付いてくるの?」



「えっ? あっ!? す、すみません……! や、やっぱり、お留守番をさせていただきます……」



 俺が突っ込むと、彼女はシオシオとしおれていた。


 俺は部屋を飛び出すと、猛ダッシュで近所にある工場に向かう。

 今日は俺は非番だが、平日なので工場長は工場にいるはずだ。


 案の定、ヤツはコンベア走る場内にいた。

 俺の次に気に入らないアルバイトを、蹴り飛ばして怒鳴り散らしている。


 俺は、ツカツカとヤツの元に歩いてく。



「工場長、いままでお世話になりましたっ!」



 そして、振り向いた拍子のヤツの顔面に、



 ……ズドォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーンッ!!



 ワンパンを、ブチ込んだっ……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ