69 大団円
『フリュゥン……。アレは、妖怪を通り越して貧乏神だったね。あんなババア、触るだけでボクの運気が下がってしまう。まぁ、ボクのトイレットくらいにはなったけどね。しかし今日のようなステージイベントになると、干からびたカエルみたいなババアばかりで、もうトイレットにもならない。拭いたあとのトイレットペーパー以下さ』
観客たちは言葉を失ったまま、モニターを見つめている。
フリュンヌは鏡に映ったガマガエルのように、全身を脂汗でびっしょりにしていた。
「ふりゅんっ!? ちっ……! 違うなら! あ、あれは、あのゴミ野郎の卑怯技れ、えー、えーっと……。そ、そう! ぜんぶCGなのらっ! このボクが愛するレディたちに、あんなことを言うわけがないのらっ!」
しかしその言葉に、もう説得力など微塵も残っていない。
ファンたち、特にオバサンたちは、鬼嫁のような顔でフリュンヌを取り囲んでいた。
「陰では私たちのことを、こんな風に思ってただなんて……!」
「トイレットペーパー以下だなんて、許せないわ!」
「あっ……見て! インカネーションの頭!」
「あっ!? 角みたいなのがあるっ!?」
オバサンのひとりから指摘され、慌てて額を頭を覆い隠すフリュンヌ。
暴露のショックで、とうとう最後の本性まで曝け出しちまったようだな。
俺は言ってやった。
「そうだ! ソイツは淫魔……! 女を騙す悪いモンスターだったんだ! お前たちは、ずっとそのクソ野郎に騙されてたんだよ! さぁ、いまこそファンのみんなの力を貸してくれ! みんなでそのクソ野郎を袋叩きにするんだっ!」
そうなると、あとはもう急転直下。
大スターの株は、紙クズ同然のストップ安を記録する。
そのいちばんの被害者である、オバサンや子供たちは暴徒と化していた。
大損をこかされたトレーダーのように、ワッとフリュンヌに襲いかかる。
バキドカグシャという打撃音にまざって時折、息継ぎをするように出てくるフリュンヌ。
「ふにゅぅぅぅーーーんっ!? たしゅけてっ! たしゅけてぇ! ころしゃれるっ!? ころしゃれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
その顔は、遊園地の屋上で配られる風船みたいに、真っ赤に腫れあがっていた。
俺の心の中に、ずっと沈殿していた想いは、それでだいぶ晴れた気がする。
さっぱりした気持ちで処刑台にあがると、俺の嫁たちの拘束をほどいてやった。
すると間髪入れず、嫁たちは泣きながら俺にだぎゅっと抱きついてくる。
「ああん、ダーリンっ! あーしらが人質に取られたとき、なんで武器を捨てたし!? そんなの、マジありえなんですけどっ!? あーしらのことなんてほっといて、アイツをやっつけてほしかったのにぃ! うわぁぁぁぁーーーんっ!」
「はいっ! キャルルさんのおっしゃる通りです! 旦那様の身になにかあったら、わたくしたちは生きていけませんっ! うわぁぁぁぁーーーんっ!」
俺の胸に顔を埋め、おいおいと泣くキャルルとユズリハ。
ふたりの頭を、俺はよしよしと撫でてやる。
キャルルの髪はふわふわで、ユズリハの髪はさらさら。
どっちも高級な布地みたいで、同じ人間の髪とは思えないほどに手触りがいい。
立ち上るシャンプーの香りも、俺と同じものを使っているとは思えないほどの爽香。
それはまるでふたつの花束を抱えているようで、俺はクランクアップしたスターのような気分に浸っていた。




