表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/72

64 心眼、そして

 進行役のお姉さんが引っ込んでからというもの、『権化堂マート』の屋上は、異様な騒乱に包まれていた。

 多くの観客が注目するステージ、その奥にある一段高い所にある処刑台には、サンバ衣装の女子高生たちが縛り付けられ、怒鳴ったり泣き喚いたりしている。


 彼女たちが見下ろしていたのは、ステージ中央にいる、ドンキーブルこと俺。

 かつては手下だった、多くの戦闘員たちに囲まれていた。


 しかも今の俺は、砂かけ攻撃によって目が開けられない状態に陥っている。


 戦闘員たちはインカネーションと戦っていた時と違は素手だったが、いまは木刀を持っていた。

 輪の外には、彼らを指揮する、正義の味方インカネーションが。


 そのインカネーションがついに、高らかに勝利宣言した。



「フリュ~ン! 今回のドンキーブルクンは、なかなかやるようだったが、やはりボクのほうが一枚上手だったようだね! いまやドンキーブルクンは、高校の時のようにひとりぼっちなのさ! おおっと、よく考えたら今のキミは、目が見えないんだったね! キミはいま、多くの者たちに取り囲まれているのだよ!」



「モーッ!」



 戦闘員たちは、独特の鳴き声で応じる。


 返事がドンキーブルの手下の時のままなんだか……。

 正義の心に寝返ったという設定なら、そこの所も変えとけよ……。


 俺は内心、そんなツッコミができるくらい落ち着いていた。

 傍から見たら、あとはもうやられるしかないような、絶体絶命ピンチだというのに。


 なぜそんなに余裕があるのかというと、俺にはなにもかも、丸見えだったからだ。

 背後には戦闘員が何人いるのか、俺の嫁たちがいまどんな表情をしているのか。


 それだけじゃない。

 客席にいるオバサンや子供たちが、息が詰まりそうなほどの視線で、俺たちを見上げている姿まで、バッチリと。


 そう、これも『心眼』のスキルのおかげだ。

 だからここまで落ち着いていられる。


 俺はゆっくりと呼吸を整えながら、中段に構えていた日本刀を、腰の鞘にしまった。

 すると、すぐさま嘲り笑いが割り込んでくる。



「フリュリュリュリュンッ! どうやら勝てないとわかって、降参するようだね! マヌケな牛クンでも、そのくらいの知能はあるようだ! それじゃあ、無様な土下座を見せてもらうとしよう! 高校の時のようにね!」



 俺は、刀の柄に軽く手を置いたまま答えた。



「気付いてるか、キザ野郎。今のお前……完全に悪役だぞ」



 すると客席から、わずかなクスクス笑いが漏れる。

 どうやら観客の中にも、気づいていたヤツがいたようだ。


 それはごくごく一部のようだったが、それでもフリュンヌは許せなかったらしい。

 すぐにカッとなると、



「フリュウンッ!? なんだと!? このボクはいつでもヒーローさ! 昔も、そして今もな! こうなったら、身体でわからせてやるっ! 高校の時のようにな! さぁ、かかれっ!」



「モーッ!」



 ニセヒーローの号令一下、襲いかかってくる手下たち。

 数にして、10人ほどか。


 俺めがけて、一斉に振り下ろされる木刀に「キャアアアアッ!?」と八方から悲鳴がおこる。

 と同時に、



 ……シャキィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 旋円が、俺のまわりで一閃。



 ……ズドォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!



 戦闘員たちは、見えない爆風を受けたように吹っ飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 昔も今もヒーロー? いいや違うね。お前はヒーローではない。 ヒーローとは名もしれない誰かを助けるか、大切な人を守る。 例え、理不尽な出来事が降りかかろうとも、強大な敵が立ちはだかろうとも、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ