61 真剣勝負
俺の嫁たちは実にフリーダムだった。
台本ではヒーローのほうに抱きつかないといけないのに、悪役である俺に抱きついてくる。
これにはさすがのフリュンヌも苦笑い。
「フリュン……! レディたちは、どうやら恥ずかしがっているようだ、でも、恥ずかしがることはないよ。さあ飛び込んでおいで、ボクの胸に……!」
「ちょっとぉ、せっかくあーしらがダーリンとラブラブしてるんだから、邪魔するなし! 超キモいんですけど!」
キャルルは演技をする気はさらさら無いようで、両手を広げて近づいてきたヒーローを突き飛ばしてしまう。
そのうえ、転ばせてしまった……!
すがすがしいまでの、台本ガン無視っぷりであった。
今までとはまったく違うショーの展開に、客席は騒然となる。
「なにアレっ!? インカガールたちがドンキーブルに抱きついてるわ!?」
「しかもインカガールが、インカネーションを突き飛ばすだなんて!?」
「いつもと真逆じゃない!?」
すると、それまでハケていた進行役のお姉さんが、再びステージに舞い戻り、
「ああっ! どうやらインカガールたちは、ドンキーブルの卑怯技『無理やり惚れさせ光線』で、インカガールたちの心を操っているようですっ! 2連続の卑怯技を受け、いまだかつてないピンチです!」
とっさに機転をきかせて、いまのおかしな状況をなんとか説明。
ストーリーを正常な流れに戻そうとしていた。
インカネーションもそのアドリブに乗っかる。
「フリュゥンッ! インカガールの力などなくても、ボクの目は気合いで元通りになった! さぁ、今度こそ、1対1で勝負だ、ドンキーブルっ!」
シュランッ……!
それまでは素手で戦っていたインカネーションが、ついに腰の剣を抜いた。
天井からのスポットライトを浴び、刀身がギラリと光る。
舞台用の模造刀ではなく、明らかに本物の輝きだった。
俺はすぐに察する。
……来たか……!
ヤツもついに、台本を無視した……!
ヤツはこれから、高校のときの学園祭を再現するつもりだろう。
俺を、あの剣でズタボロにしたあと、ステージ上で泣きながら土下座させる。
そして、許しを請う俺に、たっぷりと屈辱を与えて……。
最後に、殺すっ……!
あとはステージ中の事故だったことにすれば、この計画殺人は闇に葬り去られる。
ヤツが頭で思い描いているシナリオは、こんなところだろう。
だが、させるかよっ……!
俺は受けて立つように、ヤツに向かって叫んだ。
もう、演技はナシで。
「いいぜ……! 高校の時の決着を……今こそ、付けようじゃねぇか……!」
そして、俺も腰に携えていたものを引き抜く。
……シュランッ!
その、繊月のような刀身。
その、満月のような輝き。
さすがのキザ野郎も、気付いたようだ。
そう、ヤツが本物のサーベルで来るなら……。
こっちは本物の日本刀を、取り寄せておいたんだ……!




