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58 パシリ呼び出し

 俺はゆっくりと瞼を開け、瞑想を中断する。

 瞑想というのは気持ちを落ち着かせるためにするものだが、いまの俺の身体は熱く燃えていた。


 ……フリュンヌよ、お前は大きな勘違いをしている。

 お前は千年にひとりの大スターなんかじゃねぇ……。


 ただの、クソ野郎だっ……!


 そして、最大の過ちは……。


 この俺を、怒らせちまったことだ……!


 お前は、人をひとり殺したくらいなら揉み消してくれるという『権化堂プロダクション』がバックに付いているらしいな。


 だが、この俺はっ……!

 その『権化堂プロダクション』の親会社である、『権化堂カンパニー』が付いてるんだよっ……!


 それだけじゃねぇ……!

 俺には『人生ガチャ』があるっ……!


 見せてやるよ、『本物の力』ってやつを……!


 俺はスマホを取り出すと、電話帳アプリを開く。

 一画面におさまるほどの、わずかな連絡先から選んだのは……。


 パシリ課への、直通電話(ホットライン)……!



「おいっ、ネズオ! これから俺の言うものを用意して、権化堂マートの屋上まで、30分で持ってこい! ……なに? こればっかりは無理? つべこべ言うなっ! 1分でも遅れたら、屋上から全裸で吊してやるからなっ!」



 一方的に用件だけ申し伝えてのガチャ切り。


 前回、巫女装束を頼んだときは間に合ったが、さすがに今回のブツを30分で揃えるのは無理かもな、と思っていたら……。

 ネズオは30分きっかりで、控室のテントの中に滑り込んできた。



 ……ずべしゃあっ!



 まるでモヒカンのワルどもから車で追い回され、フルマラソンを走らされた後みたいに、半生半死の状態で。

 持っていた段ボール箱は、転んだ拍子に手放してしまい、俺のいる所まで滑ってきていた。


 俺は箱の中をあらためると、「よし、帰っていいぞ」とだけヤツに言う。

 しかしネズオは限界まで身体を酷使して注文の品を集めてきたのか、白目を剥いて気を失っていた。


 ヒーローショーのスタッフから運び出されるヤツを横目に、俺は衣装に着替える。


 今回の俺に与えられた役柄は、敵役の『ドンキーブル』。

 衣装は、ピッチリとした牛柄の全身タイツで、着るだけで変態度が跳ね上がるというシロモノ。


 キャルルは腹を抱え、脚をバタつかせるほどに大爆笑していた。



「あっはっはっはっはっ! なにそのド変態みたいな格好! 超ウケるんですけど! あっはっはっはっはっ!」



 かたやユズリハはクスリともしなかった。

 最大級の驚きを表すように両手を口で押え、キラキラした瞳をこれでもかと見開いている。



「ま、まあっ!? だ、旦那様……! とっても、とってもお可愛いらしいです……! ただでさえ素敵な旦那様に、このような一面がおありになっただなんて……! ああっ……! お可愛いすぎて、わたくしの胸は張り裂けそうです……!」



「あっはっはっはっはっ! こんなのにキュンキュンしちゃうなんて、ユズっちってば、マジありえないんですけど! ちょっとダーリン、モ~って鳴いて、モ~って! 恥ずかしがることないって! じゃあみんなでいっしょに鳴こっか! せぇーの!」



「「「モ~ッ!!」」」



 キャルルの音頭で牛の鳴きマネをしているうちに、ついにヒーローショーの開演時間となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] さて、正義のヒーロー気取りのアホを叩きのめしましょか。
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