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57 瞑想

 俺と嫁たちのヒーローショーの出演が、正式に決まった。


 ユズリハとキャルルはサンバ衣装で着替えの必要はなかったので、パイプ椅子に座って台本を読んでいる。

 ユズリハは他人の台詞まで暗記するように一生懸命だが、キャルルはテスト勉強でもするかのようにやる気がない。


 そして、俺はというと……。

 着替えそっちのけで、瞑想に耽っていた。


 べつに、ステージを控えて緊張してたわけじゃない。

 パーティションを隔てた向こうにある、フリュンヌの楽屋を、心眼スキルで覗いていたんだ。


 フリュンヌの楽屋は俺たちエキストラのとは大違い。

 いくつもの花輪が飾られ、立食パーティのような豪華なケータリングが並んでいる。


 花形スターは革張りの椅子にふんぞり返りながら、紅茶を飲んでいた。



「フリュ~ン! あのビューティーフェイス、あのグラマラスボディ! 今回のインカガールは素晴らしいじゃないか!」



 フリュンヌの隣にはプロデューサーが立っていて、しきりに揉み手をしている。

 さきほど俺にクビを宣告して、取り消したヤツだ。



「はい! フリュンヌ様が若いエキストラを希望しておりましたので、特別に手配させました!」



「フリュ~ン。プロデューサークン、キミもだいぶボクの好みをわかってきたじゃないか。視聴者応募で来るのはババアばっかりで、もううんざりだったんだよ。ここのところ、妖怪みたいなババアばっかり抱いてきたから、ちょうどよかった」



「前回の撮影の時のインカガールは、とくに酷かったですからねぇ! それでも毎回、いちばんマシなのを選んでるんですけど……」



「フリュゥン……。アレは、妖怪を通り越して貧乏神だったね。あんなババア、触るだけでボクの運気が下がってしまう。まぁ、ボクのトイレットくらいにはなったけどね。しかし今日のようなステージイベントになると、干からびたカエルみたいなババアばかりで、もうトイレットにもならない。拭いたあとのトイレットペーパー以下さ」



「わっはっはっはっ! 干からびたカエルとは! 拭いたあとのトイレットペーパーとは! お上手ですねぇ!」



「フリュ~ン。でも今回のインカガールこそ、ボクが跨がるにふさわしい、最高級のトイレットさ。プロデューサークン、それに見合う最高のステージを用意してくれたまえ」



「もちろん! 打ち上げのあとにはホテルを用意してあります! 終わったらいつものように、私たちのほうにも回してくださいね! イヒヒヒ……!」



「フリュン、考えておこう。それと今回のステージだが、テレビ撮影用のサーベルを使いたいんだ」



「えっ? 模造刀じゃなくて、本物を使うということですか?」



「そうさ。そのほうが()も、やられ甲斐があるというものだろう」



「あっ!? もしかして、テレビ撮影の時みたいに、事故に見せかけて殺すつもりですか!? そ、それはちょっと……! テレビ撮影の時は部外者がおりませんので、いくらでも撮影中の事故ということにできますけど、大勢のファンが集まるステージとなると……!」



「フリュゥン……ボクを誰だと思ってるんだい? 千年にひとりの大スターと呼ばれる、花輪フリュンヌだよ? 『権化堂プロダクション』の社長だって、ボクには頭が上がらない。一匹のゴミを殺した後始末くらいなら、いくらでもやってくれるさ」



 ヤツは、表向きは貴公子のように振る舞っていたが、楽屋に入ると一転、ずっと邪悪な笑みを浮かべていた。

 その顔は『キザ野郎』というよりも、まさに『クソ野郎』と呼ぶにふさわしい。



「フリュ~ン! たとえスタッフの前とはいえ、このボクに恥をかかせたらどうなるのか……。大勢のファンが観ている前で、思い知らせてやるのさ……!」

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[一言] モンスターはコロコロしましょう
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