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55 ターゲット接近

 俺たちが今回のヒーローショーの悪役とヒロイン役に間違われてしまった理由が、これでわかっただろう。

 ユズリハとキャルルが、インカガールと同じサンバ衣装を着ていたからだ。


 きっとスタッフが、エキストラ会社が派遣したアルバイトかなにかと間違えたんだろう。


 でもちょうどいい。

 俺はステージが始まったら乗り込んでいって、フリュンヌのヤツの化けの皮を剥がしてやるつもりでいたんだ。


 だったら出演者として乗り込んだほうが手っ取り早い。

 ショーはかなりの人気のようで、興奮したオバサンが乱入しないよう、客席との間に警備員たちが張り付くというからな。


 俺は嫁たちとも示し合わせて、ヒーローショーに参加することに決めた。


 控室の中で台本を確認していると、ついにヤツが現れる。

 そう、今回のターゲットである、花輪フリュンヌ……!


 スタッフ一同は直立不動になって、フリュンヌを出迎えていた。

 どうやらヤツは、ここでは大スターらしい。


 専用の控室に通される途中、俺たちのいる所で立ち止まると、



「レディたちが、今日のインカガールかい?」



 キザな流し目で、品定めをするように、嫁たちをジロジロと見る。

 のっけから失礼な態度に、キャルルはバカにするようにフンと鼻を鳴らしていたが、ユズリハはバカ丁寧に頭を下げていた。


 ヤツは学生の頃から変わっていない、気持ちの悪い声で唸る。



「フリュ~ン! おめでとう、レディたち。レディたちはいま、神の祝福を受けたほどの幸運を、手に入れたのだよ」



 そして「なぜだかわかるかい?」と、謎めいた微笑みを浮かべながら、俺の嫁たちに近づいていく。



「なぜならば、この大スターであるボクに抱かれるのだから……!」



 宝塚の男役のように、大げさな身振りで両手を広げた。

 やがてその腕は自身の身体を抱きしめ、悩ましげな声をあげる。



「フリュゥン……。いや、不幸かもしれないな。だってボクに抱かれたあとは、今まで付き合ってきた男と、これから付き合う男がゴミにしか見えなくなるのだから」



 やおら悪戯っぽい表情に変わり、アイシャドウの引かれた瞼で、パッチリと星のようなウインクを飛ばす。

 ヤツは俺には目もくれないが、傍から見ているだけで胸焼けがしてくる。


 ヤツのひとり芝居は続く。



「でもボクに出会ってしまった以上、カウントダウンは止められないのさ。こうやって、ハートの起爆スイッチを、押してしまった以上は、ね……!」



 ヤツは歯の浮くような台詞とともに、指先でキャルルの胸を突こうとする。


 それはヤツが学生時代からやっている、口説きのテクだった。

 口調だけでなく、行動までワンパターンなんだな。


 俺はすかさず飛び出していって、ヤツの手首を掴む。



 ……ガッ!



 キャルルの先っちょに触れる寸前で、ヤツの指は止まった。



「俺の嫁に手を出すな、キザ野郎っ……!」

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― 新着の感想 ―
[一言] すごい既視感を感じます。
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