54 ヒーローショーへ
俺は嫁たちの手当を受けながら、決心した。
この子たちに相応しい、立派な男になろう、と……!
いまの俺は、スマホアプリに諭されるほどに未熟な人間だ。
いくらガチャで引いた嫁とはいえ、そのうち愛想を尽かされるかもしれない。
だからこそ俺は……ふがっ!?
なんだか息苦しいと思ったら、俺の顔は包帯でグルグル巻きになっていた。
鼻血が出ただけなのに、ここまですることはないだろう!?
「すみません、でも旦那様の大切なお身体に、万が一のことがあってはいけませんので、このくらいは……。今日は付きっきりで看病させていただきますね」
「あっはっはっはっ! ダーリンの顔、ミイラみたい! あっはっはっはっはっ!」
なんて一幕があったが、俺はそのあと嫁たちを引きつれて外出した。
すると昨日の帰り道以上に、道行く人たちが避けていく。
まるで、頭のネジが外れたユーチューバーか何かに出くわしてしまったように。
無理もない。
今の俺は顔だけミイラで、両端にはサンバ衣装の女子高生を連れてるんだ。
キャルルはその格好に相応しく、踊りながら歩き、道行く人たちに手を振っている。
しかしユズリハは強制露出をさせられたお姫様のように、身体を覆い隠してもじもじ。
格好は同じなのに、大胆な大股歩きと、太ももをこすりあわせるような内股歩きで対象的だった。
そんな一貫性のない3人組が目の前に現れたら、誰だって道を明け渡すだろう。
せめて俺だけでも普通にいようと思い、途中で包帯を外した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
目的地は、昨日と同じ『権化堂マート』。
屋上あるイベントスペースを覗いてみると、今日のヒーローショーの設営の真っ最中だった。
スタッフのひとりが俺たちを見るなり、
「あっ! キミたち、今日の『ドンキーブル』と『インカガール』だよね!? 遅いよ! 早くこっちに来て!」
俺たちは違うと言う間もなく、控室の中に無理やり引っ張り込まれてしまう。
そして問答無用で、これから行なわれるヒーローショー『正義の権化インカネーション』についての説明を、一方的にまくしたてられてしまった。
主人公は俺の高校の頃のクラスメイトである、花輪フリュンヌ扮する『インカネーション』。
古代インカ帝国から蘇った正義の戦士という設定で、サーベルを武器に悪と戦う。
対する悪は『ドンキーブル』という、邪悪な牛の化身。
牛柄のボディペイントをした人間で、いつも悪巧みをしているのだが、毎度インカネーションに阻止されている。
『インカガール』というのはヒロイン役で、サンバ衣装を着ている女性。
いつもドンキーブルに捕らえられて人質になるのだが、最後はインカネーションに助けられる役割。
テレビ版ではインカガールは視聴者から募集されており、応募者の中から選ばれた女性が、派手なメイクにサンバ衣装を着て登場する。
そしてこれこそが、この番組の特異なところ。
『正義の権化インカネーション』は、週末の朝と平日の昼間、2回に分けて放送されているのだが……。
週末のAパートは、何の変哲もない、普通のヒーロー特撮モノとなっている。
しかし週明けにある、平日のBパートがとんでもない。
なんとBパートでは、インカガールが主人公。
夫役の男性と、インカネーションの間で揺れ、最後はインカネーションと濃厚なベッドシーンを繰り広げるんだ。
そう……!
Bパートは不倫をテーマにした、昼のメロドラマ……!
特撮ヒーローものというのは、イケメン俳優目当てで、オバサン視聴者の需要もあるそうだ。
Bパートでその需要をすくいあげ、これでもかと満たしてやったことで、この『正義の権化インカネーション』は爆発的なヒットを飛ばした。
まさに母子揃って楽しめる、国民的ヒーロー番組というわけだ。




