53 光渡し
俺の数メートル先には、この世にはありえない風景が広がっていた。
浴室の壁はぽっかりと穴が空いていて、そこには……。
翼のない、天使たちが……!?
いや、それはもちろん俺の嫁たちなのだが、もうそうとしか見えなかった。
サンバの衣装すらない、一糸すらまとわぬ姿は、隠すものなどなにもない。
羽衣をまとっているかのような泡がまとわりついている程度。
それも本当に大事なところだけ、ごくわずかに。
ホールケーキのような大きさな乳房の先頭に、生クリームのようにちょびっと盛られた泡。
泡の奥には、ショートケーキのイチゴのようなアレが隠されているに違いない。
股間は水着のスリングショットのように、わずかな泡があるのみ。
お尻はもう丸出しで、剥きたての白桃のようだった。
俺は目を閉じたまま、這いつくばって浴室に近づいていく。
勢いあまってゴチンと柱にぶつかってしまったが、かまわずに。
嫁たちは俺に見られているともしらず、無邪気にふざけあって、洗いっこをしている。
まるで男の想像する、女子寮の風呂に潜入したかのような気分だった。
そしてついに、世紀の瞬間がやって来る。
今日は、本当に世紀の瞬間ばっかりだが、今度こそは期待を裏切らないはずだ。
手桶に汲んだお湯で、天使たちの身体の泡が、今まさに洗い流され……。
とうとう、本当に生まれたままの彼女たちが……!
俺は浴室の壁に激突する勢いでかぶりつく。
そして、心臓が止まりそうになった。
泡は、たしかに無くなっていたのだが……。
胸と股間には、光の筋のようなものが差し込んで……。
俺は思わず声を大にしていた。
「なっ、なんじゃ、こりゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
なんで肝心なことだけ、こんなになってるんだよっ!?
これじゃまるで、『光渡し』じゃないか!
DVDを買えってのか!? そういうことなら、すぐ買ってやるよ!
どこで売ってるんだ、オイッ!?
俺はずっと閉じていた瞼を開け、手元のスマホを睨みつけた。
ショッピングサイトの『マラソン』のリンクでもあるのかと探したが、なかった。
かわりに、
『心が未熟なうちはここまでです。もっと心を鍛えましょう』
俺の邪心を見透かしているような、ムカつく一言が……!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
浴室の壁に八つ当たりするように、頭をガンガン打ち付けていると、嫁たちがビックリして、バスタオル一枚で飛び出してきた。
「どうしたのダーリンっ!?」
「ああっ、旦那様のお顔、血まみれですっ!」
「きゅんきゅん箱あるよね!? どこ!?」
「薬籠さんでしたら、こちらです!」
嫁たちはバスタオル姿のまま、古い救急箱を引っ張り出してきて、俺の手当をしてくれた。
そのかいがいしさはまさに翼のない天使で、こんな彼女たちを覗こうだなんて、俺はなんて心が汚れているんだと思った。




