52 心眼
嫁たちは入浴モードに入ってしまったようで、風呂場からは水音が漏れ聞こえてくる。
彼女たちが風呂から出たら、出かけるとするか。
今日は近所の『権化堂マート』で行なわれる、ヒーローショーを覗きに行く予定だ。
開始は午後3時からなので、まだ時間はたっぷりある。
俺はのんびりとした気持ちで、『人生ガチャ』の画面をいじくっていた。
レベルアップした『ラッキースケベ』の威力はよくわかったが、他のスキルはどんなのなんだろうな。
手にいれたスキル一覧の中から、『神夢想流』をタッチしてみると、
『居合術の流派、七段相当の腕前』
と説明が表示された。
中二病っぽい名前だと思ったら、剣術スキルだったのか。
どんな流派かは知らんけど、七段っていうとかなり強いんじゃないか?
それに、よく考えたら俺はモンスターバスターなんだから、剣で戦うってのもアリかもしれないな。
次に『AV人間』をタッチしてみると、
『見聞きしたものが自動録画される』
……どういう意味だ、コレ?
と思っていたら、アプリの画面内に、ビデオカメラのようなアイコンが現れた。
タッチしてみると、サムネイルのようなものがいくつか並んだ。
俺は息を呑む。
これは、さっきの『ラキスケ』……!?
サムネイルをタッチしてみると、俺の視点で、嫁たちがすっ転んでザ……牛乳まみれになるシーンが、スマホいっぱいに映し出された。
4K映像なんて目じゃない生々しさで、しかも声までちゃんと入っている。
す……すげえっ!
『AV人間』ってのは、『アダルトビデオ人間』じゃなくて『オーディオビジュアル人間』のことだったのか!
見たり聞いたりしたものが自動録画されるだなんて、めちゃくちゃ便利じゃねぇか!?
今のところは盗撮くらいしか用途が思いつかないけど!
いちばん期待していなかったスキルだったのに、思わぬ高性能。
俺はすっかりテンションが上がってしまう。
最後にワクワクとタッチしたのは、『心眼』。
『目を閉じると、半径4メートル以内にある、すべてのものを見渡すことができる』
……これも、いまいち意味がよくわからんな。
ためしに説明どおりに目を閉じてみると、
……ぶわあっ!
脳内に、パノラマ映像が現れた。
両目で見る世界とは違う、ドーム状の世界が広がっている。
映像はなんてことのない、俺を中心とした自室の中だったのだが、すごかった。
なんと、普段は鏡でも使わないと絶対に見ることのできない、背後の風景があったんだ……!
自分の背後が見られるというのは、思いのほか新鮮だった。
こりゃ、すげえっ……! まさに『心眼』だ……!
まるで武術の達人にでもなった気分だ……!
しかしこのスキルの本領は、こんなものではなかった。
ふと、華やかな声のほうを見やると……。
なんと浴室の壁が、透けてるっ……!?




