51 はじめてのキス?
身体に付いた自分の分ばかりか、相手のを舐めてあげるだなんて……。
ふたりとも、本当に食べ物を粗末にしないんだな。
俺はこんな時だというのに、エロい子……。
いや、いい子たちだなぁ、なんて思……。
うわけ、ないだろっ!!
なにこの無自覚エロス劇場っ!?
お前たちのほうがよっぽど『AV人間』だよっ!!
ここままふたりは世界一幸せな百合キスをしちゃうの!?
そんな世紀の瞬間を、砂かぶり席でおがめっての!?
そんなプレミアムシートのチケット、どこで売ってんの!?
ドラえもんに頼んだって出てこないよ、そんなの!!
俺はドライアイになるのも忘れ、ふたりの少女がやさしいドロレスのように絡み合う姿を凝視する。
それはキャルルが一方的に、ユズリハの顔を舐めまわしているだけなのだが、ドロレスの世界選手権のごとき見応えがあった。
そしていよいよ、クライマックスが訪れる。
キャルルがついにフォールするように、ユズリハを押え込んだのだ。
キャルル選手の潤艶でプルンとした唇が、ユズリハ選手の薄ピンクで控えめな唇に、ついに覆い被さる……!
しかし3カウントの直前、パッと顔が離れた。
ふたりはお互いの肩を抱いたまま、我に返った様子で見つめ合っている。
「……ユズっちってば、震えてる……。もしかして、キスまだなん?」
「き……キス、ですか? お魚さんのキスさんのことでしたら、口にしたことはございますが……」
「違うって! 魚のことじゃなくて、はじめてのチュウのこと! とりま、唇を合わせることっしょ!」
「あっ……接吻のことですか?」
「ちーがーう! そりゃ豆まきのことっしょ!?」
「いえ、わたくしが言っているのは、節分ではなくて……。あ、でも、殿方と唇を合わせたことは、いまだにございません」
「あっはっはっはっはっ! ユズっちってば、ファーストキスもまだだなんて、超ウケるんですけど! あーしと同い年でまだなんて、超ヤバくない!? イマドキは小学生でもしてるよ!? あっはっはっはっはっ!」
するとふたりはなぜか、揃って俺の方を見た。
目が合った瞬間、キャルルはニカッと笑い、ユズリハはカッと顔を赤くする。
「女の子同士のキスはノーカンっていうけど、とりま最初は本当に好きな人としたいよねぇ!」
「は、はい……。旦那様とのキスは、本当に憧れでして、毎晩……あっ、い、いえ、なんでもありません!」
「んじゃさ、残りはおフロ場で落とそっか、とりま行こっ、ユズっち!」
膜が張ったみたいに白い液で覆われたふたりの少女は立ち上がると、かたやスキップするように、かたや俺から逃げるように、風呂場へと向かっていく。
俺は蚊帳の外にいるような、そうじゃないような、不思議な感覚を味わっていた。




