46 パシリ課新設
『着任初日から、さっそくインプを見つけたようですわね。ほめてさしあげますわ』
「……リンドウか」
『それに加えて、「権化堂マート」のフェアでも、最高益を叩き出したそうですわね。どうやらあなたは、見込んでいた以上の逸材だったようですわ』
お嬢様がどうやって俺の番号を知ったかはわからないが、彼女の力なら朝飯前だろうな。
せっかくなので、俺はついでの用事を頼むことにした。
「なぁ、ひとつ確認と、ふたつほど頼みがあるんだが」
『なんですの?』
「まず、確認のほうなんだが……。もし『権化堂カンパニー』内にいるモンスターを暴くことで、スキャンダルも一緒に暴かれるようなことがあっても、構わないか?」
これは、次なる標的を見定めたうえでのことだ。
もしフリュンヌが本当にモンスターなら、それが明るみに出た場合、少なからずとも『権化堂カンパニー』には痛手になるはず。
たとえ知らなかったことだったとしても、モンスターといえば、今や反社会的勢力以上の存在。
『権化堂プロダクション』にモンスターが在籍していたとわかったら、マスコミは喜んで飛びつくだろう。
しかしこの問いを受けたお嬢様は、あっさりしたものだった。
「かまいませんわ。たとえどんなスキャンダルでも、権化堂の前には風前の灯火にしか過ぎませんの。それで、頼み事というのは?」
どうやらお嬢様には、どんな火種でも揉み消す自信があるらしい。
たいしたもんだ。
でもこれで、お墨付きを貰ったも同然だ。
次はもっと、派手にやらかしても大丈夫そうだな。
俺は、気分よく話題を変える。
「俺のアシスタントをもうひとり増やしたいんだ。名前は『鳥頭キャルル』」
すると俺の隣にいたキャルルが「はーいっ!」と元気いっぱいに手を挙げた。
『今、声をあげた方ですわね? 構いませんわ、すぐに社員証を用意させましょう。それで、もうひとつの頼みというのは?』
「昨日、『権化堂マート支社』で会った、総務部長を覚えてるか?」
『ええ、ネズミのような男でしたわね』
「今、アイツは自宅謹慎中なんだ。たぶんこれから懲戒処分を受けると思うんだが、クビにはしないでもらえるか?」
『なぜですの?』
「ちょうどアイツをパシリにしたところだったんだよ」
『職務の遂行に必要ということですわね? なら、その者を「モンスターバスティング課」に移籍させましょう』
「いや、あんなヤツが俺の部下になるのはごめんだ」
『なら、総務部のなかに「パシリ課」を新設しましょう。そこに異動ということにすれば、他の社員も納得するはずですわ』
「それいいな。是非そうしてくれ」
『わかりましたわ。頼み事は以上ですわね? 今後、なにか私に用件があれば、この番号に掛けるとよいですわ。ただし、この番号は他言無用にすること、いいですわね?』
リンドウはそう言うと、さっさと電話を切ってしまう。
俺は計らずとも、女子高生社長に直通の電話番号を手に入れてしまった。
そしてこれは、世界でいちばん貴重な11桁かもしれない。
これはネットで見た噂なんだが、リンドウお嬢様へのホットラインは、アメリカ大統領でも手に入らないらしい。
表の権力者ではとても手が出ず、彼らを裏で操る権力者たちですら、喉から手が出るほどに欲しがっているという。
でも……。
ただの一市民でしかない俺にホイホイ教えるということは、たぶんその噂はデマなんだろうな。
それにしても、俺のスマホは朝から大忙しだ。
今まではバイト先の工場からしか掛かってくることがなかったのに、美女ペットとお嬢様女子高生との連続通話とは……。
これも、『人生ガチャ』のおかげかもしれないな。
なんて思っていたら、その『人生ガチャ』が反応した。




