45 新たな標的
そしてハスミのふたつめの情報。
こちらもこれまた、ニヤリとさせられるものだった。
『これは昨日、ご主人様と別れたあとに思いだしたことなんだけど……実は高校の頃、私と同じ「匂い」を感じる生徒がいたの』
「それってもしかして、お前と同じ『モンスターの匂い』、ってヤツか?」
『そうね。女のカン、とでも言うのかしら。……覚えてる? 同級生の、花輪フリュンヌっていう男の子』
「ああ、忘れたくても忘れられないな」
『花輪フリュンヌ』……!
クラスでもモテモテだった、いけすかないキザ野郎だ。
簡単に言えば、ハスミの男版と言えばわかりやすいだろうか。
ウェーブのかかった紫色の髪に、甘いマスク。
演劇部に所属し、花形スターだった。
俳優である日本人の父と、女優であるアメリカ人の母を持つという、ハーフのサラブレッドで、ヤツも俳優志望。
『集団疎開』では、『権化堂プロダクション』という芸能事務所に所属したようなのだが、鳴かず飛ばず。
今では、『正義の権化インカネーション』という特撮ヒーロー番組の主役をやっていて、それが主婦のオバサンたちに人気で、プチブレイクを果たしているらしい。
俺は、ヤツの名を聞いた途端、電流を流された実験動物のように、胸の中心がズキズキと傷んでいた。
「……なるほど、じゃあ次は、そのキザ野郎をあたってみることにするか。ヤツがいまどこにいるのかわかるか?」
『いま彼は、全国の「権化堂マート」を巡って、生でヒーローショーをやってるんですって』
『正義の権化インカネーション』は、『権化堂マート』がスポンサーになっている番組。
スーパーである『権化堂マート』に主婦と子供を呼ぶには、ヒーローショーはうってつけのイベントだろう。
『それでスケジュールを調べてみたんだけど、今日は近所の「権化堂マート」に来ることになっているそうよ。昨日、ご主人様が大活躍した「権化堂マート」に』
おお……! なんという素敵な偶然だろうか。
これはもう、俺に『狩ってくれ』と言っているとしか思えない巡り合わせだ。
高校時代の学園祭の演劇で、なぜか俺は『闘牛役』として駆り出され、フリュンヌ扮するマタドールにコテンパンにやられた。
それで俺は、ステージでマジ泣きして、許しを請ったのだが……。
その情けない姿に、観客は大爆笑。
フリュンヌはその大ウケが忘れられなかったのか、俺は卒業までの間、何度も『闘牛ごっこ』に付き合わさるハメになる。
ヤツは演劇部の他にもフェンシング部に所属しており、かなりの腕前だった。
逆らえば鳩尾を突かれ、それが死ぬほど苦しかったので、従うしかなかったんだ。
その時のことを思い出すだけで、胸が痛む。
でも、今は違う。
痛みは相変わらずだったが、表情は真逆。
俺は、スマホのマイクに当てた口元が緩むのを、止めることができなかったんだ……!
ハスミから、ヒーローショーの開催は午後3時からと教えてもらい、通話を終了。
スマホをテーブルに置こうとしたが、直後に鳴動。
またしても、見慣れぬ番号からの着信。
出てみると……それは、意外な人物だった。




