44 ネズミ野郎の末路
俺は、生まれたての朝日のような、キャルルの笑顔を見て思った。
……やっぱり、あの『ヤッてもいいよ宣言』は、寝言だったんだろうな。
こんなフレッシュ笑顔の女子高生が、あんなエロい単語を素で口にするとは思えない。
早まらなくて、よかったかも……。
それにゴメンな、キャルル……心の中で、『ビッチ』だなんて言ったりして……。
などと、人知れず安堵したり、謝罪していたりしたら……。
パンにバターを塗っていたキャルルが、変わらぬ笑顔で俺にパンを差し出して、
「ダーリン、はいどーぞ! モリモリ食べて、ビンビン元気になって、今日もいっぱいラブラブして、バンバンあーしたちをヤッちゃうし! ね、ユズっち! ユズっちもダーリンにヤラれたいよね!?」
問題の単語をカジュアルに使い出したので、俺は思わずコーヒーを吐き出しそうになってしまう。
「はい! よくわかりませんけど、旦那様にしていただけることなのでしたら、わたくしはいつでもどこでも、なんでも大歓迎です!」
ユズリハまで汚れなき笑顔でそんなことを言い出したので、俺はとうとう鼻からコーヒーを吹いてしまった。
「ブフォッ!?」
「だ、大丈夫ですか、旦那様っ!?」「あっはっはっはっはっ! ダーリン、黒い鼻血出してるし!」
ゲホゲホとむせながら、嫁たちに背中をさすってもらっていると、スマホが鳴った。
『人生ガチャ』の通知ではなくて、着信だった。
相手の電話番号だけが表示されているので、電話帳に未登録の相手だ。
誰だろうと思って出てみると……淫魔のハスミだった。
「よくこの番号がわかったな」
『ご主人様のバイト先の、工場の社長さんから聞いたの。軽く色仕掛けしたら、あっさり教えてくれたわ』
ハスミの声は、スマホを通しても、しっとりと濡れているかのようだった。
でも、そんなことよりも……。
あのハゲ野郎、人の個人情報をバラしやがったのか……。
相手がハスミだからよかったものの……。
今度会ったら、また蹴っ飛ばしてやらなきゃな。
「それで、何の用なんだ? 精気のおかわり要求か?」
隣で聞いていたユズリハが『精気』という言葉を耳にした途端、身体を強ばらせていた。
どうやら、昨日の女子トイレでの出来事を思い出したらしい。
『それもあるけど、面白い情報がいくつかあるの』
ハスミの言う『面白い情報』。
そのひとつ目は、たしかに面白かった。
昨日、俺にパシらされたネヅオが出勤停止処分になったらしい。
理由は、『女子更衣室から服を盗んだから』。
俺が昨日、ネヅオに巫女装束の調達を頼んだところ、ヤツはありえない速さで俺の所に持ってきた。
いったいどんな手を使って調達したのか、不思議でしょうがなかったんだが……。
ヤツはなんと、会社の他部署のコスプレ趣味な女子社員のロッカーから拝借したらしい。
なぜ、部署の違う女子社員が、巫女装束を持っているを知っていたのかというと……。
ヤツは常習的に、女子更衣室に忍び込んでいたそうなんだ……!
いつもは更衣室に人のいない時間を狙ってやっていたそうなんだが、今回は俺の依頼を時間内にこなすため、白昼堂々忍び込んだ。
そして偶然、ひとりの女子社員と鉢合わせ、乱闘になったらしい。
ネズオはパイプ椅子を振り回してその女子社員をノックアウト、盗んだ巫女装束で走り出し、俺のところに持ってきた。
それらの悪事の一部始終がバレてしまった、というわけだ。
ヤツは会社の取り調べに対し、「僕は悪くない! 悪いのは、『モンスターバスティング課』のアイツだ!」の一点張りだったらしい。




