43 スッキリ?
俺は、生まれてこのかた感じたことのない、人生における『ボタンの掛け違え』を実感していた。
俺はもっと、ユズリハと関係を深めてから、『ハーレムガチャ』を引くべきだったんだ。
せめて、『卒業』してからにすべきだった。
ほんのちょっと、ボタンを押す順番を、間違えたばっかりに……。
俺は『大魔法使い』と『ハーレム王』という、両雄並び立たない肩書きを、併せ持つ男になってしまった……!
いくら期待されたところで、できるわけ、ないだろうがっ……!
相手は百戦錬磨であろうギャルなうえに、隣には、ユズリハがいるんだぞっ……!
もし下手を打って、俺が『初心者マーク』であると、バレてしまったら……!
ふたりとも愛想を尽かしてしまうのは、必定っ……!
……いや、でも待てよ。
逆に考えてみたら、どうだろうか。
相手は『ヤッてもいいよ』なんて言うくらい、乗り越えるハードルの低い『ビッチ』だ。
むしろ『脱・初心者チャンス』の相手としては、絶好……!?
しかも、『リーチ』といってもいいくらいの状況。
あとは、『一発』キメるだけ……!?
さらにうまくけば、ユズリハとも『マン貫』……!?
……なんか、ものすごいオヤジくさい思考のような気もするが……。
いずれにしても、俺は覚悟を決める。
……ヤルしか、ないっ……!
俺はいま両腕で美少女ふたりを抱いているので、身体の自由が効かない。
しかしすぐ隣には、ギャルの唇がある。
俺は一世一代の決意とともに、頭だけ動かして、彼女のほうを見た。
すると、血色のいい薄ピンクの唇が、目の前に飛び込んでくる。
それはまるで、剥き立ての桃みたいに、うるんとしていて、つるんとしていた。
俺は意を決して、むしゃぶりつこうとしたが……。
……ふうっ……。
と甘い吐息を、顔にかけられた。
「むにゃむにゃ……ダーリン……ヤッても、いい、よ……」
「……なんだ、もう寝ちまったのか」
俺の決断が遅くて、待ちきれなかったのか。
それとも囁きかけた時点で、もう寝言だったのか。
いずれにしても、それを確かめる術はなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
次の日の朝は、
……ジュゥゥゥゥゥゥゥーーーーーッ!
と、肉の焦げる音と匂いで目覚めた。
俺が身体を起こしたとたん、台所に立つふたりの美少女がすかさず振り返る。
「あっ、お目覚めになられたのですね。おはようございます、旦那様」
「うぇーい、ダーリン! スッキリしたっしょ!?」
深々と頭を下げるユズリハと、へんなポーズをキメるキャルル。
昨晩の俺はずっと悶々としっぱなしで、スッキリとは程遠い目覚めだった。
そして今日の朝飯の匂いは、昨日と違っていた。
そういえば明け方に『飯ガチャ』を引いて、『レア:アメリカンブレックファースト』というのを出した気がする。
その名のとおり、食卓に並んだのは、いかにもなメニュー。
トースト、サラダ、ヨーグルト、フルーツ、カリカリベーコン、ポテト、卵。
飲み物はコーヒーに紅茶に牛乳にオレンジジュースと、4種類もある。
昨日が旅館の朝食なら、今日はホテルの朝食みたいだ。
ユズリハはまるで、宝石をテーブル一面に広げたみたいに、目を輝かせていた。
「わぁ、素敵です……! 旦那様、今朝のお食事も、キャルルさんに作り方を教えていただきました。キャルルさんは、とっても博学で……。えっと、こちらの炒り卵さん、とっても珍しいですよね? 『すくすくえっぐ』さんというそうです」
それを言うなら、『スクランブルエッグ』な。
どうやらユズリハは、洋食の知識はさっぱりらしい。
「えへへー! あーし、こういう料理だったら得意なんだ! とりま、すくすく食べるし!」
キャルルは、昨晩の淫靡な雰囲気など全くなく……。
まぶしいほどの笑顔で、にぱーと笑っていた。




