40 大サービス
……ドサッ!
家の外に着荷の音がしたとたん、ユズリハとキャルルは、まるでインターホンを聴いた猫みたいに反応する。
キャルルは、来客大好きな人なつこい猫みたいに、ピャッと玄関に飛んでいく。
ユズリハも、さっそく立ち上がろうとしたのだが……。
玄関に行くためには、俺と手の離さないといけないということに気づき、真剣に悩んでいた。
時限爆弾の赤と青の導火線を選ぶときでも、こんな表情にはならないだろ、というくらいに。
そうこうしているうちに、キャルルが段ボールを抱えて戻ってくる。
「うぇーい! これ、グラタンセットだって!」
「ぐら……たん?」と、まるで初めて耳にした単語のように、首を傾げるユズリハ。
「なに、ユズっちグラタン知んないの!? あっはっはっはっ! 超ウケるんですけど! とりま、あーしが作るっしょ!」
「なんだ、お前、料理できるのか?」と俺は思わず口にしていた。
キャルルの見た目からは、とてもではないがお湯ひとつ満足に沸かせそうになかったからだ。
「ちょ、ダーリンなにそれっ!? これでも料理は得意なんだかんね! ホントはネイルしたいんだけど、料理に入るとヤダから、グッとガマンしてるくらいなんだから!」
手の甲を見せつけてくるキャルル。
そこには、短めに切りそろえられた、綺麗なピンク色の爪があった。
ユズリハは断腸の思いで、しかし未練たらたらに俺の手を離すと、
「わたくしも、お手伝いさせいただいてもよろしいですか?」
と立ち上がった。
そして、制服エプロンという王道と、巫女エプロンという変化球の、ふたりの美少女が台所に立つという、奇妙な絵面ができあがる。
やっぱりふたりとも美少女だけあって、料理しているところも恐ろしく絵になる。
ユズリハの、長い緋袴の裾と、足袋の間から覗く、白い足首がたまらない。
キャルルの、安産型のお尻がフリフリするたび、短いスカートから太ももの奥がチラ見えするのもたまらない。
……もし、俺にピアノが弾けたなら、この光景を歌にしていたに違いないだろう。
なんてことを考えているうちに、グラタンができあがった。
俺はこの時はじめて知る。
我が家にある電子レンジには、オーブン機能もあったことを。
今までコンビニ弁当を温めるのにしか使ってこなかったから、知らなかった。
そして、ユズリハは初めてオーブンというものを目にしたらしく、
「こ、こんな小さな箱が、焼き窯さんだったなんて……!」
と、初めて火を見た原始人のように驚愕していた。
今日の晩飯は、グラタンにバケットにサラダ。
盛り合わせの美しさが絶妙で、テーブルに並べるとまるで高級フランス料理のようだった。
しかし肝心の、お味のほうはというと……。
ギャルの作ってくれたマカロニグラタンは、とんでもなく旨かった。
全体にまんべんなく付いた焼き色に、端のほうがまだグツグツ煮たっていて、アッツアツ。
それをなんと、俺の両隣にスタンバイした美少女たちが、
「ふーっ、ふーっ! はいダーリン、あーんして!」
「ふぅ、ふぅ。はい、旦那様、お召し上がりください」
交互に食べさせてくれるという、サービス付き……!
「あーしさぁ、ダーリンができたら、とりまこーやって、あーんして食べさせてあげたかったんだよねぇ! 超ラブラブといえば、これしかないっしょ!」
「ご病気でもないのに、このようなお世話は失礼かと思ったのですが……。でもでも、とっても素敵ですっ! これが、『ちょうぶらぶら』というものなのですね!」
ユズリハも、だいぶ感化されているようだった。




