39 ハーレム王ふたたび
俺は帰宅途中、スナック感覚でふたり目の嫁を娶ってしまった。
そして再び、街角に王が降臨する。
ユズリハはそこらのアイドルが霞むほどの美少女、キャルルはそこらのモデルがくすむほどの美少女。
どちらも男の視線を捉えて離さない、タイプの違う美少女……。
そのふたりと『恋人つなぎ』をして歩いている俺は、傍目にどう見えると思う?
そう、『ハーレム王』……!
通りすがりの男たちは、まずユズリハとキャルルに目を奪われ、仕事や学校帰りで疲れた顔を明るくする。
スラム街の少年が、ショーウインドウのトランペットを見るような、憧れに満ちた瞳になる。
そして、彼らがどうがんばっても手の届かない存在の中心に、俺という男がいるとわかるや……。
目の前でトランペットを買われてしまったような、絶望に満ちた表情になる。
その頃には俺は、悠々と彼らの前を通り過ぎていて……。
うらやましさ全開の、恨み言を背中で聞くのだ。
「あ、あんな可愛い女子高生と、恋人つなぎだと……!? しかも、ふたりと……!?」
「しかも、ひとりは天使みたいに清純そうで、ひとりは小悪魔みたいにエロそうだなんて……!」
「いったい、いくら金を積んだら、あんな子たちと、あんな風に手が繋げるんだ……!?」
……俺は一円たりとも彼女たちには払っていない。
ただ、ガチャを引いただけだ。
しかも、無料の。
でも、俺は教えない。
言ったところで信じてもらえないだろうし、言った時点でこの最高の夢から覚めてしまうような気がしたからだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
俺のアパートに着くなり、キャルルは大爆笑した。
「なにこの部屋、超ボロいんですけど! とりま、超ウケる! あっはっはっはっはっはっ!」
住み慣れた我が家を笑われるのは嫌なものだが、不思議と嫌悪感はなかった。
彼女はボロいのをバカにしているわけではなく、純粋に面白がっているのが伝わってきたからだ。
その証拠に、キャルルは真っ先に部屋にあがりこむと、まるで新居を探検する猫みたいに、あれこれ見て回っていた。
そのたびに、賑やかな笑い声が、あちこちから聞こえてくる。
その間、ユズリハはずっと赤くなってうつむいたまま、モジモジしていた。
しかし、俺の手だけはきゅっと握りしめたまま、離そうとしない。
「夢みたいです……」とか「ずっと、こうしていたいです……」と、蚊の鳴くような声で、ブツブツつぶやいているのが聞こえる。
心の声が漏れ出しているかのような声だったが、おそらく本人は気付いてないようだった。
なんだかよくわからないが、俺はユズリハと手を繋いだまま、スマホを見る。
『人生ガチャ』の画面には『飯ガチャ』が出現していた。
そういえば、夕飯どきだったな。
改めて思いだした俺は、さっそくガチャを引く。
ルーレット演出のあとに出てきたのは、
『レア:グラタンセット』
だった。
なんだ、グラタンか……。
と俺は思ったのだが、とんでもなかった。
まさかこの、ホワイトソースで具材を焼いただけの料理が……。
桃源郷の温泉に浸かるような幸せに、俺を導いてくれるとは……。
この時の俺はまだ、知らなかったんだ……!




