38 恋人つなぎ
俺のふたりの目の嫁、キャルル。
彼女は出会って5秒で合体、といわんばかりに俺に密着していたのだが、街路樹のように立ちつくしているユズリハを見つけると、
「あっ! もしかして、あなたもお嫁さん!? うぇーいっ! とりま、よろしくぅ!」
まるで木から木へと飛び移るモモンガのように、ユズリハにぎゅむっと抱きついた。
「きゃあっ!? はっ、はひっ! も、申し遅れました、わたくしは愛染流ユズリハと申します……。きゃ、キャルルさんは、旦那様の、本妻様なのですね」
「ホンサイ? あ、ソレ知ってるし! とりま、じいちゃんとかがよく、庭でいじってるやつっしょ!?」
「えっ? あ……そ、それはおそらく、盆栽だと思うのですが……。本妻というのは、旦那様にいちばん愛されているお嫁さんという意味です。旦那様ほどの立派な殿方は、より多くのお嫁さんを娶って当然だと思っておりました。そしてキャルルさんのような美しいお方であれば、旦那様の本妻様に相応しいと思った次第です」
新しい嫁の登場に、ユズリハはショックを受けているのかと思いきや……。
ハーレムという概念については、意外にも理解しているようだった。
しかし真摯なユズリハの言葉を、キャルルは豪快に笑い飛ばした。
「あっはっはっはっ! ナニ言ってんだかぜんぜんわかんないし!」
再び唖然とするユズリハ。
彼女はむしろ、キャルルのあけすけ過ぎるキャラに面食らっているようだ。
「よくわかんないけど、とりま、一番とかどーでもよくなくない? ユズっちもあーしも、どっちもダーリンのお嫁さんなんっしょ? だったらとりま、みんなでラブラブすればいーじゃん! うぇーいっ!」
キャルルは両者の仲を取り持つように、俺とユズリハの手を引っ張って引き寄せた。
「ほらほら、とりま手ぇ繋いで! ……って、あっはっはっはっ! 普通に繋いでどーすんの! こーいう時は、恋人つなぎしなきゃ!」
キャルルはケタケタ笑いながら、俺とユズリハの指を絡め合わせ『恋人つなぎ』にした。
「これでよし、っと! じゃあ、ダーリンの反対側の手は、あーしと繋ぐし! とりま、これでみんなラブラブっしょ!? じゃあ、ダーリンのお家にかーえろ! カエルが鳴くからかーえろ! カーカー! ほら、ユズっちもいっしょに!」
「えっ!? は、はいっ! かっ……かーかー!」
「それ、カラスじゃねぇか」
「そだっけ? まーなんでもいいいっしょ! とりま、みんなでいっしょに!」
「「「カーカー!!」」」
俺とユズリハは、キャルルのペースにすっかり巻き込まれてしまっていた。




