36 ハーレムガチャ
結局、俺が報酬として、受け取ったのは……。
インプのナスオを警察に突き出して、手に入れた10万円だけ。
俺は『モンスタバスター』になったんだから、これから金なんていくらでも手に入る。
アルバイトの金なんて、端金になるくらい、これからガンガン稼いでやるつもりだ。
ひと仕事を終えた俺は、『権化堂マート』を出て、ユズリハとともに自宅へと戻る。
気がついたらもう夕方で、街は会社帰りのサラリーマンや、夕飯の買い出しの主婦で賑わっていた。
もう、夕飯の時間か。
バイトしていた頃は、昼飯は食わなかった。
食わせてもらえなかった、というほうが正しいだろうか。
しかし今日は、食うのを忘れるほどに、夢中になってしまった。
『働く』、ということに……!
俺はオレンジ色に染まっていく世界を歩きながら、今日一日のことを振り返る。
昨日もそうだったけど、今日もありえない出来事だらけだったな。
一流企業でモンスターバスターとしてスカウトされたかと思えば、高校時代の同級生に3人も再会するだなんて。
しかも、当時のマドンナのおっぱいを揉んで、俺をパシリにしたヤツをパシリにして、俺をカツアゲしていたヤツをぶちのめした。
それどころか、その中のふたりはモンスターだったなんて……。
『人生ガチャ』をやっていなければ、俺は永遠にそのことに気付かなかったかもしれない。
そして永遠に、学生時代のトラウマに囚われ、この先なにをやってもうまくいかなかったかもしれない。
でも今の俺は違う『空手三段』で『フードコーディネーター』で……。
美少女JKの、嫁がいるんだ……!
俺は、三歩さがってついてくる長い影を眺めながら、すでに決意していたんだ。
背後にいる少女と、幸せな家庭を作ってみせる、と……!
それは鉄よりも固い誓いのつもりだったのだが、
……ピロリン!
スマホの画面を覗き込んだ途端、豆腐なみの柔軟さになってしまう。
『人生ガチャ』に、新たに現れていたのは……。
なんと……!
『嫁ガチャ』っ……!
俺の中に、迅雷のような戦慄が疾る。
……このボタンを押したら、どうなるんだ……!?
『着替えガチャ』の場合は、着替え対象となるユズリハの意思に関係なく、新しく引いた衣装が優先される。
そんなのはいくらでも拒否すればいいと思うのだが、なぜかユズリハはしない。
もしここで『嫁ガチャ』を引いたら……。
新しい嫁が来た、ユズリハは……!
そ……そんなの、誰が引くかよっ!
俺にはもう、彼女以外には考えられないんだよっ!
かわいくてやさしくて、家事もできて控えめで……おっぱいが、大きい……!
なぜか大昔から来たみたいに、現代の知識には疎いけど、一生懸命なじもうとしてて……。
そんな俺の夢から飛び出してきたような嫁、他にいるかよっ!
しかしふと、『嫁ガチャ』のボタンの下を見ると……。
見慣れぬ新しいガチャが増えていた。
それは、
『ハーレムガチャ』。
ボタンの下には説明文があって、『ふたり以上の嫁が欲しい場合は、こちらを引いてください』とある。
瞬間、豆腐のようだった俺の『決意』は、豆乳のように液状化する。
そして気がついたら、そのボタンをタッチしていた。




