35 鬼はそと
俺は計らずとも、高校時代に俺をカツアゲしていたヤツの正体を暴いてしまった。
インプのナスオは、淫魔とバレたハスミと同じく、見逃してくれと泣きすがる。
でも、精気をもらっていただけのハスミと違って、コイツが人間に対して行なっていた行為を許すわけにはいかない。
アルバイトの女の子を罠にはめてタダ働きさせたうえに、そのあとも脅迫して淫行に及ぶだなんて、完全に犯罪だ。
それに、ハスミと違って利用価値がなさそうだし……。
しかし俺は、俺の足元にしがみついてわぁわぁと泣きすがるヤツ見て、あることを思いついた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『権化堂マート』で行なわれていた『節分フェア』と『ひな祭りフェア』。
最初は『節分フェア』のほうが盛況だったのだが、俺のテコ入れで『ひな祭りフェア』が逆転した。
そして今は、『節分フェア』も『ひな祭りフェア』も大盛況になった。
それはなぜかって?
『フードコーディネーター』である俺が、どちらもテコ入れしたからだ……!
『節分フェア』には、新たなるブースが設けられていた。
鉄でできた檻がデンと置かれ、その中には、一匹のインプが震えている。
俺はメガホンを手にし、店の外にまで響き渡るほどの声で呼びかけた。
『さあっ! ただいま「鬼退治イベント」を開催しております! 『節分フェア』の商品をお買い上げいただいたお客様には、この升に入った豆を差し上げます! こちらにいる鬼に、好きなだけぶつけてください!』
あっという間に黒山の人だかりができる。
「ママー! 見て! 檻の中に、本物の鬼がいるよ!」
「アレはね、インプっていうとっても悪いモンスターなのよ」
「モンスターに豆をぶつけられるの!? ママ、買って買って!」
一瞬にして、『ひな祭りフェア』にも負けないほどの爆売れが訪れた。
この世界ではモンスターの存在は一般的になりつつあるものの、こうやって豆をぶつけられる機会なんて、ほぼありえないからだ。
檻のまわりはあっという間に豆を手にした客たちで囲まれる。
インプは怯えきった様子で、まわりの人間たちを見回していた。
「ギヒィィッ!? や、やめてやめてやめてっ! やめてぇ!」
俺はヤツの懇願を打ち消すように、大いに叫んだ。
『さあっ! それではみなさんご一緒に! 「鬼はーそとっ!」』
俺の音頭とともに、檻の中に一斉に豆が投げ込まれた。
客たちは大いに盛り上がる。
「鬼はーそとっ! 見て! あのインプ、苦しんでるわ!」
「悪さをしているモンスターをやっつけられるなんて、爽快ね! 鬼はーそとっ!」
「あれっ? いま、豆が光ったような? それに、爆発しなかった?」
そう。
豆だとぶつけてもあんまり痛くないし、見た目にも地味なので、豆の中にパチンコ玉と癇癪玉を混ぜておいたんだ。
そのおかげで、インプのリアクションは熱湯風呂に浸けられた芸人さながらだった。
「ギャァァァァンッ!? 痛い痛い! ギヒィィィィィッ!? 熱い熱いっ! ギャアアアアアアアアーーーーーンッ!! 痛い熱い痛い熱いぃぃぃぃーーーーーっ!!」
俺のプロデュースのおかげで、『節分フェア』と『ひな祭りフェア』は大・大・大成功に終わる。
蓋を開けてみれば、両イベントの売上は、なんと2000万円にものぼった。
食べ物だけでなく、高級なひな人形がいくつも売れたのが、その要因ともいえるだろう。
たった1日でこれだけの売上をあげたフェアは、『権化堂マート』始まってのことだそうだ。
壊したひな人形代の50万円は軽くペイして、歩合だけでもかなりのボーナスになった。
しかし俺とユズリハはその金を受け取らず、貧乏女子大生のパリンの給料に上乗せするように、スーパーのお偉いさんに伝えておいた。
そろそろ、やる気ゲージが尽きかけてきました…。
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