33 ナスオの企み
俺はナスオに呼ばれて、『権化堂マート』のバックヤードにいた。
まわりには、俺たち以外誰もいない。
「こんな所で何の用だよ?」と俺が切り出すと、ヤツはペッと唾を吐き捨てた。
「『ひな祭りフェア』をあんな風にしたの、お前の仕業でしょ? 俺がちょっと目を離してたからって、余計なことしないでくれるかなぁ?」
「余計なこと? こっちは売上をあげてやってるんだ。お前としても喜ぶべきなんじゃないのか?」
元はといえばパリンを助けるためにやったことだが、よく考えたらコイツの手柄にもなるんだった。
しかしナスオはさもウザそうに唸る。
「ああもう、わかんないかなぁ? 俺のつまみ食いを、邪魔するなって言ってんだよねぇ」
それで俺は、おおよその事情というか、コイツの悪巧みを察した。
「もしかして、お前は……パリンに最初から壊れているひな人形を押しつけて、高額の弁償を迫ってたんだな?」
「チャリーン♪ その通りぃ。その様子だと、高校ん時にお前にやったことも、ようやく気付いたみたいだねぇ」
高校時代、コイツと初めて知り合ったとき、コイツはやたらとフレンドリーだった。
家にまで招いてもらったのだが、そこで俺は、飾ってあった高級そうな花瓶を壊しちまったんだ。
正確には触ってもないのに割れたんだが、俺が壊したことにされて……。
それで、親に黙っているかわりに、在学中のあいだずっと、弁償させられ続けた。
カツアゲという形で……!
ヤツはそうやって、ずっと他人を落とし入れて生きてきたのだろう。
罪を重ねすぎて麻痺してしまった犯罪者のように、下卑た笑い声をあげるナスオ。
「キキキキキ……! 季節イベントを早めに行なって、若い子のアルバイトをひとりだけ派遣してもらってるんだよねぇ。あとは、その子に返せないくらいの借金を押しつければ……! キキキキキキ……!」
ヤツは俺に近づいてきて、馴れ馴れしく肩に手を置いた。
「女の子はタダでこき使えるし、終わったあとは俺の下半身を潤すのにも使える……! しかもイベントブース自体はそのまま残して、おばさんパート連中をシフトさせれば、ムダが全然ないってワケ……! キキキキキキ……!」
ハロウィンのカボチャのように、ニタァと笑う。
「そういえば、お前が連れてたJK、お前の彼女? その様子だと、まだ食ってないみたいだねぇ。俺が最初に食ってやるよぉ。んで、残飯としてマワしてやっからさぁ。……もちろん嫌とは言わないよねぇ? 高校ん時、ワンパンで俺に沈められてた、お前がさぁ……! キキキキキキ……!」
ヤツは俺の耳元で、こう囁いた。
「チャリーン♪ 毎度ありぃ」
俺は、相手から手を出してこない限りは、手を出さないつもりでいた。
でも、気付いたら指は握り拳をつくり、いつのまにか動いていた。
そして、俺はなにもしていないのに、勝手に……。
拳はヤツの顔面にめりこんでいた。




