32 まさにチートスキル
『節分フェア』と『ひな祭りフェア』の集客は、一気に逆転。
いままで栄華を極めていたあちらさんは、人っこひとりいない。
かたや俺たちの所はバーゲン会場さながらの状態で、押すな押すなの大賑わい。
人混みがさらに人を呼んで、ちょっとしたプチパニック状態になってしまう。
3人官女だけではとても手が足りなくなったので、隣から人を引っ張った。
「おい、そっちのオバサンたち! こっちの売り場に協力しろ! バイト代のことだったら、俺がナスオのヤツに言って分配してやるから、手伝ってくれ!」
『節分フェア』にいた、パートのおばちゃんたちにも協力してもらう。
彼女たちは大勢いるうえにベテランだったので、多くの客をあれよあれよという間にさばいてくれた。
すると次の問題として、在庫の欠品が露呈する。
せっかく客を集めたのに、売るものがなければ50万の売上に届くはずがない。
俺はまた、『権化堂マート支店』に電話する。
今度はネヅオではなく、物流管理の部長に繋いでもらった。
「おい、お前が物流管理のお偉いさんか? いますぐ隣の権化堂マートに、ひな祭りフェアの商品を持ってくるんだ! いいな! それに、来月売る予定のちらし寿司やケーキとかも手配しろ! 部署が違う? だったらお前がその部署に交渉して、持ってくるんだ! 俺からの命令だと言え!」
物流管理の部長らしき男は、脂ぎった顔が想像つくようなオヤジ声だった。
最初は横柄な態度だったが、俺が『特命課』の人間だとわかると、
「はっ、はいぃ! い、いますぐに倉庫の在庫をそちらに手配させていただきますぅっ!」
すると支社の人間たちが総動員されたのか、5分も待たずに在庫の入った台車がいくつも運び込まれてくる。
そこから少しして、俺がかつてバイトしていた工場のヤツらが、ちらし寿司やケーキを持ってきてくれた。
工場のハゲ社長は、俺を見るなり這いつくばって、
「ご用命をいただき、ありがとうございます! ラインを全部ストップさせて、ちらし寿司やケーキを作らせました! これからもどうか、私めの工場をよろしくお願いいたします!」
俺のサンダルをベロベロ舐めだした。
俺はさらに調子に乗って、『権化堂カンパニー』の子会社の玩具メーカーから、ひな人形まで取り寄せる。
すると驚くべきことに、何十万とする高価なそれまで、飛ぶように売れた。
すげぇ……!
これが『フードコーディネーター』の技能の力か……!
まさに、チート技能じゃねぇか……!
これなら50万円くらい、あっという間だな……!
などと勝利を確信していると、
「……ちょっと、いいかなぁ?」
フロアの隅にある物陰から、こいこいとナスオが手招きしていた。




