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31 逆転の一手

 ネヅオは15分きっかりに、俺の元へと滑り込んできた。

 俺の注文したのは結構特殊なモノなので、時間がかかるかと思ったのだが、間に合わせやがった。


 しかしその最中、何があったのかはわからないが、ズタボロになっていて半裸状態のうえに、全身アザだらけ。

 しかもここまで全力疾走してきたのであろう、水を被ったみたいに汗だくだった。


 まるで走ってきたメロスのように、俺の前で半死状態になっているネヅオ。

 これが物語なのであれば、暴君役の俺は改心し、彼と友になりたがるのであろうが……あいにくとこれは現実だ。


 もしこれが物語だったとしても……ヤツではなく、俺の物語だ。


 俺はヤツがしがみついている段ボール箱をひったくり、中身を改める。



「ちゃんと持ってきたようだな。もう帰っていいぞ。っていうか、売り場のど真ん中にいられると邪魔だから、さっさとどっかに行け」



 するとネヅオは、怒りに満ちた形相で、ぐっ、と拳を構えたが……。

 振り上げる直前で、俺に返り討ちにあったことを思いだしたらしい。


 背を向けてトボトボ去っていくヤツを見送りもせず、俺はバイト仲間たちに声をかけた。



「おい、ハスミ、パリン、ふたりとも、これに着替えてくれるか? ユズリハ、ふたりが着替えるのを手伝ってやってくれ」



 小一時間後、『ひな祭りフェア』に降臨したのは……。

 雅やかな衣装の、三人官女……!


 そう。

 俺はユズリハの巫女装束を見て、女たちを三人官女に仕立てるのを思いついたんだ。


 三人官女が巫女装束なのかは知らんが、見た目はかなりそれっぽい。

 というか、それにしか見えない。


 俺はさらに、桃の花の造花に、桃の香りをプラスして、三人官女に持たせる。

 そして『うれしいひなまつり』の歌を、スマホにスピーカーを繋いで流した。


 ユズリハが歌に合わせて、日本舞踊のような華麗なる舞いを披露する。

 見よう見まねで、ハスミとパリンも続いてくれた。


 彼女たちの踊りにあわせ、あたり一面に、桃の花のいい香りがいっぱいに広がっていく。

 イベントブースは、ひとあし早く春が訪れたかのような華やかさにあふれ、一気に『ひな祭りムード』に包まれた。


 するとどうだろう。

 いままでは通り過ぎるだけだった客が、次から次へと足を止め……。



「あら、素敵ねぇ」



「そういえば、桃の節句だなんて、すっかり忘れてたわ。昔は、毎年のようにお祝いしてたのに……」



「今年は、うちでもお祝いしてみようかしら……!」



 老若男女を問わず、俺たちの売り場に殺到……!

 さっきまでひとつも売れなかった『ひな祭りアイテム』たちが、奪い合うように売れ始めたんだ……!

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