30 パシリゲット
『人生ガチャ』は今はミッション中だったので、無料のガチャは引けなくなっていた。
俺は残った所持金の10万円を使って、『パワーアップガチャ(有料版)』を引く。
これで、いまの閑古鳥を追い払ってくれるような、すごい技能が出てくれればと思ったのだが……。
出たのは、
『アルティメットレア:フードコーディネーター(5)』
『フードコーディネーター』の技能……?
なんだこりゃ、と思いつつ、項目をタッチしてみると、
『食品関係のプロデュースの才能。技能ボーナスとして、プロデュース対象の売上が、ランダムで500%以上アップする』
『フードコーディネーター』という項目名からは、胡散臭い印象しかなかったのだが……。
プロデュースしたものの売上が5倍以上アップって、かなりすごくないか?
そして、今の俺にはその技能が身についているというのか?
通りすがりの客が一瞥もくれない、白酒やひし餅、ひなあられを売りつける能力が……。
俺は売り場全体を見渡してみた。
『ひな祭りフェア』とディスプレイされた空間を、改めてよく見てみると……隣の『節分フェア』とは雲泥の差だった。
向こうは、マネキンで作った鬼が飾り付けされていて、本物と見紛うほどの迫力なのに、こっちはショボイひな人形がふたつ、剥き出しで置いてあるだけだ。
三人の女たちの呼び込みも、虚しく響き渡るばかり。
唯一、ユズリハだけは巫女装束という変わった格好をしているので、たまに立ち止まってくれる客はいるのだが、売り場までは来てくれずにスルーしていく。
それで、俺の頭の中に、天啓のようなヒラメキが轟いた。
すかさずスマホを取り出して、俺の所属の総務部に電話をかける。
部長のネズオに取り次いでもらって、俺はひと息に用件を伝えた。
「おい、ネヅオ。いまから俺が言うものを15分以内に、隣にある権化堂マートのイベントフロアまで持ってこい。なにに使うのかなんて、お前が知る必要はない。いいか、他のヤツに持ってこさせるんじゃなくて、お前自身が持ってくるんだ。なにせお前は、俺の『パシリ』なったんだからな!」
電話口の向こうではネヅオがゴチャゴチャ抜かしていたが、一方的に用件だけ伝えて切った。
学生時代、俺をパシリに使っていたヤツを、大人になってからパシリに使えるってのは、なかなか爽快だ。
たて続けに、『人生ガチャ』からの通知が届く。
『チャレンジ達成! パシリを手に入れた』




