29 ひな祭りフェア
俺は、女子大生をいびっているナスオを止めた。
ヤツは俺が『権化堂カンパニー』の『特命課』にいることをまだ知らないのか、俺の制止を聞き入れようとはしなかった。
「じゃあ、お前がかわりに弁償してくれんのぉ? チャリーン♪ 毎度ありぃ。でもそれができないんだったら、ひっこんでろよぉ。ガキの頃から言ってるっしょぉ? 金のないお前なんて、牛乳の染み込んだ雑巾よりも価値がないってさぁ」
今の俺には『権化堂カンパニー』系列企業のなかでは『なにをしてもいい』という特権を持っているので、その気になれば力ずくでわからせることもできたのだが……。
相手から手を出してこないかぎり、あまり暴力に訴えたくはなかった。
それじゃ、ヤツらと同レベルになってしまうと思ったからだ。
そして結局、どうなったかというと……。
アルバイトの女の子と一緒に『ひなまつりフェア』で働くことになった。
彼女の派遣期間である1週間のうちに、アルバイト代で50万円を払えれば無罪放免。
払えなかったら、俺と彼女と、ユズリハを含めた3人で『責任』を取るということになった。
ナスオは、『責任』の内容についてはナスオは言及しなかった。
しかし、俺の隣に寄り添っていたユズリハを見るなり、強引に彼女を含めた『連帯責任』にしようとしていたので、ヤツが何を考えているのか、おおよそ予想がつく。
ユズリハは巻き込まれたうえに、借金の保証人になったも同然の立場だったが、瞳を天の川のように輝かせていた。
「旦那様、パリンさん! わたくし、たくさんのお客様に買っていただけるよう、がんばります!」
『パリンさん』というのは、アルバイトの女の子の名前だ。
寝亀パリン。
おかっぱ頭に分厚いメガネという、同じ黒髪でも、ユズリハとは違った地味さの容姿の女の子。
ユズリハは見た目は地味だけど、すべてのパーツが完璧なせいか、まるでお姫様みたいに目を引く。
しかし彼女の場合はすべてが普通。村娘みたいに、ありふれた感じで全然オーラがないんだ。
彼女はいちおう女子大生らしいのだが、見た目はユズリハと同じくらい……いや、それよりも歳下のように見える。
なんにせよ、俺たちは3人で、50万円を稼がなくてはならなくなってしまった。
俺はせっかくだからと、同行していたハスミも巻き込んで、4人パーティにする。
売らなくてはならないのは、『ひな祭りフェア』の商品。
白酒やひし餅、ひなあられなどだ。
しかしこれが、まったくといっていいほど売れなかった。
考えられる理由としては、ひとつしか考えられない。
それは、イベントブースに併設された『節分フェア』の存在。
いまは1月なので、客の興味は、より近いイベントである『節分』のほうに向いてしまっている。
そのうえ、最近は『恵方巻き』などもあるので、『節分フェア』の売り場は大盛況。
ちなみに『ひな祭り』にも『ちらし寿司』を食べる風習があるが、『ちらし寿司』が売られるのは来月からだという。
だったらフェアも来月にして、バッティングしないようにしろよ、と俺は思ったのだが……。
それは、ナスオの悪巧みのひとつであったと、俺は後になって気付くこととなる。
いずれにせよ、いまの客足では1週間で50万円はおろか、1万円にも満たないんじゃなかと思うほどに、客が来なかった。
ユズリハとハスミという、美少女美女コンビが呼びかけても、スーパーの客はほとんどが女性なので、なびかない。
なにか逆転の一手はないかと、俺がすがったのは……。
もちろん、ガチャだ……!




