26 求められたモノ
俺の首に腕を回したまま、離れようとしないハスミ。
トロンとした瞳と、ウルンとした唇を、せがむように向けてきている。
学生だった頃には、どれだけ頑張っても得られなかったリアクションだ。
悩ましい声が、俺をさらに悩ませる。
「……いいでしょう? 下僕になる手付けとして、精気をもらっても……。さっきも言ったけど、ぜんぜん痛いことじゃないの。肌と肌をぴったり寄せ合って、ひとつになる……とっても気持ちいいことなのよ……。あぁん、もう我慢できない! いますぐここで、ひとつになりたいの……!」
「い、いますぐここで、ひとつになるっ……!?」
俺の頭はそのワードだけで、カアッと熱くなる。
まるで未知の処理をやらされているCPUのごとく。
それはいったい、どんなことなのか……!?
いやもう、ひとつになるっていうのは、意味はひとつしかないっ……!
長年守り続けてきた、大魔法使いの座から退く瞬間、ついに……!
しかも女子トイレで退任という、歴史に刻まれるであろうほどのシチュエーションで……!
喉がカラカラになって、生唾を飲み込むと、ごくんっ、と喉が鳴った。
呼応するように、ハスミの艶めかしい首筋が、こくんっ、と動いた。
彼女がぎゅっ、と胸を押しつけてくると、鼓動が逃げてくるかのように、せり上がってくる。
俺の身体をすでに支配下に置いているかのように、そのわずかな変化までもが伝わったようだ。
「うふふ、ドキドキしてる。私もいま、ドキドキしてるの。ふたりの鼓動が重なり合ったということは……。契約成立、ね……!」
悪魔からのその問いに、俺の頭は俺のものではなくなったように、ゆっくりと上下に振れた。
次の瞬間、悪魔は背伸びをする。
女の子から背伸びをされてキスをせがまれるのは、男のやりたいことリストの100に必ず入る項目だ。
俺は磁石で吸い寄せられるように、迎えにいったのだが、あと少しで触れ合うといったところで、
……しゅるんっ!
衣擦れの音だけを残し、ハスミは俺の腕から離れていった。
そして彼女が向かった先は、なんと……!
俺の背後にいた、ユズリハっ……!?
ハスミはぎょっとするユズリハにもかまわず、抱きすくめて頬ずりをしている。
「あああーーーんっ! かわいいかわいいかわいいっ! なんてかわいい子なの!?」
ユズリハは全身の毛が逆立つくらいにビックリしていた。
「えっ、ええっ!? えっえっえっえっ!? あっあっ、あのあのあの、あのっ、ハスミさんっ!?」
「ああん、私ばっかり名前を呼んでズルい! アナタ、お名前はなんていうの?」
「あっ、す、すみません、申し遅れました。わたくし、愛染流ユズリハと申します」
「じゃあ、ユズちゃんね! 初めて見た時から、ずっと頬ずりしたくて我慢できなかったのーっ! ああん、かわいい子のほっぺたは、やっぱり全然違うわぁ! この会社にいる女の子の誰よりも、気持ちぃぃ~っ!」
好物にありついたかのように、ハイテンションで頬ずりするハスミ。
ドギマギしたまま、されるがままになるユズリハ。
美少女ふたりがムニムニと頬ずりして変顔になっている。
しかし、鏡を見て気付いた。
キス顔の途中で止まったまま、呆然と立ち尽くしている俺のほうが、よっぽど間抜けだというのを。
……ピロリン!
『ミッション達成!』
『チャレンジ達成! モンスターを下僕にした』
『パワーアップガチャチケット 2枚ゲット!』




