25 マドンナとの取引
俺の高校時代の同級生は、なんとモンスターだった……!
となると当然、ある疑問が湧いてくる。
「お前は、高校の時からずっと淫魔だったのか?」
「当然よ」と微笑むハスミ。
彼女は正体がバレたあとでも変わらなかった。
空を飛んで逃げることも、牙を剥いて襲ってくることもせず……。
ただ俺の腕のなかで、いい女のままだった。
そして、さすがは魔性の女だけあって、舌の根も乾かぬうちに交渉してきた。
「モンスターは生まれた時からモンスターなの。でも、悪いモンスターばかりじゃないわ。だから、私を見逃してくれない?」
彼女は自分がいいモンスターなのだと、言外ばかりか行動でも主張してくる。
触手のように艶めかしい指を、俺の首の後ろに回して絡め合わせると、
「私はね、モンスターといっても悪いことは何もしていないわ。少しの精気を、人間から貰っていただけ……。見逃してくれたら、いっぱいイイことをしてあげる」
俺は彼女の膨らみを掴んだまま、思案に暮れる。
鏡ごしには心配そうな顔で、ユズリハが見つめている。
俺は視線で、背後にいる嫁に「心配するな」と伝えると……。
目の前にいる第2号に、ハッキリと言ってやった。
「『してあげる』だと? 今のお前は、そんなことを言える立場じゃないだろう? 俺がその気になれば、お前をこのビルから突き落とすことだってできるんだぞ?」
握り潰すほどにギュッと力を込めてやると、ウッと呻く淫魔。
「ううっ……! わ、わかりました……! あふぅ……お、お願いです……! 私を助けてください……! そのためだったら、なんでもしますから……! ああんっ!」
身もだえしながらの命乞いに、俺は勝利を確信する。
「よし、じゃあ俺の下僕になれ。そしたら見逃してやる
「し、下僕……?」
「そうだ。お前は高校の時から、理事長や校長をたらしこんで、好き勝手やってたんだろう? どうせこの会社でも重役連中と寝て、この会社を思いのままにしてるはずだ」
「えっ? 高校の頃も今も、そんなことはしてないけど……ウウッ!?」
「だったらやるんだ。重役連中をたらしこんで、この会社に他にもいるモンスターの情報を集めて、俺に流すんだ」
「わ、わかったわ……!」
「なんだ、ずいぶんアッサリと承諾するんだな。仲間を売るようなマネをして、平気なのか?」
「別に、モンスターは仲間じゃないわ。あなたたちでいうところの『人類』っていう括りでしかないもの。それに群れを作っているモンスターもいるようだけど、私は一匹狼なの」
「なんでだよ?」
「だって、モンスターって気持ち悪いんだもん。私の姿は人間とほぼ同じでしょう? だから協力するなら人間のほうがいいと思って」
「よし、そういうことなら契約成立だな。今後は俺のために働……」
俺の言葉の最後は、彼女の人さし指によって遮られてしまった。
「ううん、まだ決めたわけじゃないわ。ひとつだけ、約束してほしいことがあるの。これだけは、どうしても譲れないコト」
俺は目の動きで「なんだ?」と返す。
「淫魔は人間の精気がないと生きていけないの。だから定期的に、精気をちょうだい。もちろん痛いことじゃなくて、とっても気持ちのいいことだから安心して」
俺はすっかり自分のペースに持ち込んだつもりでいたが、その一言でグラついてしまう。
こ……コイツに精気をあげるということは……。
もしかして、コイツと……!?
俺は高校時代の高嶺の花だった少女が、手の届く所まで降りてきたような気がして、一気に緊張してしまった。
俺が、こんな美女と、定期的に……!?




