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21 特命課の特権

 リンドウは俺とネヅオのやりとりを静観していたが、あまり興味がない様子だった。

 彼女は優雅な溜息とともに、巻き毛のツインテールをかきあげると、



「ふぅ、歓迎の寸劇はこれで終わりでして? でしたら総務部長、あとのことはお任せいたしますわ」



「そ、そんな、リンドウ様っ!? このヘタレ野郎は、上司である僕に暴力を振るったんですよ!?」



 するとリンドウは、ドブネズミを見やるような流し目を、ネヅオに向けた。



「そういえば、ふたつほど伝え忘れておりましたわ。まずひとつめ、『モンスターバスティング課』は各支社に出向することもあるでしょうから、便宜的に総務部の配属にしただけなのです。でも本来の所属としては、本社社長室の『特命課』の所属になるのですわ」



 「とっ、『特命課』……!?」とざわめく社員たち。



「『特命課』はご存じですわよね? そこに所属している者は、たとえヒラ社員であったとしても、各支社の人間と、すべて対等の立場となる……! そう……! たとえ相手が、支社長であったとしても……!」



 どうやら『特命課』というのは、この『権化堂カンパニー』における、不可侵領域(アンタッチャブル)のような存在らしい。


 ネヅオは葵の紋所を突きつけられた悪代官のように、「そっ、そんな……!」と泣きそうな顔になっている。



「それともうひとつ、『モンスターバスティング課』には、モンスターを割り出すために、特権を与えておりますの。それを一言でいえば、『なにをしてもよい』……! そう……! たとえパワハラでもセクハラでも、恐喝でも強盗でも、暴力でも殺人でも……!」



 これにはネヅオだけじゃなく、その場にいた社員全員が「えええええーーーーっ!?」と驚愕していた。


 暴君ともいえる発表をした、リンドウお嬢様。


 彼女は仁君のような、戒めるような顔つきに変わると、俺をビシッと指さし、



「しかし、勘違いしてはなりませんわ! あなたの特権は、あくまで『権化堂カンパニー』に潜むモンスターを見つけ出すためのもの……! 多少の誤認被害には目をつぶりますが、成果をあげられないときは、それ相応の報いを受けていただきますわっ!」



 『権化堂カンパニー』の力は、どうやら俺の想像以上だったようだ。


 ハンターライセンスの試験を受けていない俺に、ハンターライセンスを与えたうえに……。

 殺人すらも容認する課の設立したうえに、その犯罪的ともいえる権限を、隠すこともなく社員に知らしめるだなんて……。


 俺は確信する。

 このお嬢様は、『持っているんだ』、と……。


 カンパニー内限定ではあるものの……。

 ひとりの人間を、超法規的な存在に仕立てあげられるほどの、権限が……!


 そのうえ、ひとりやふたり殺したところで、問題にならないような……。

 経済・政治・司法・マスコミ……ひょっとすると、軍事まで……。


 すべてを総動員して、もみ消せるだけの、恐るべき力が……!

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