20 ワンパンKO(しかも軽め)
ネヅオは俺の顔を見たとたん、なんだか少し若返ったように見えた。
俺と同じで高校時代を思い出したのだろうか、当時のようにさっそく難癖をつけてきやがった。
「お前なんかが俺の部下になるだなんて、ツイてねぇなぁ! っていうかリンドウ様、このヘタレを本当に『モンスターバスティング課』の課長にするんですかぁ? コイツ高校の時、ずっとパシリにさせてたんですよぉ! 『パシリ課』とかのほうがいいんじゃないですかぁ!?」
聞かれてもいない武勇伝を一方的にまくしたてるネヅオ。
「んで、時間内にパシれなかったら、全裸で落書きされたうえにベランダに吊されて、全校生徒の笑い者になってたんですよぉ! 惨めっすよねぇ! まぁ、ソレをやったのは僕なんっすけどね! ちょっと昔はワルをかじってたもんで、ハハッ!」
ヤツの言うことは事実だ
しかしヤツは主犯というわけじゃなく、DQNに加勢してただけの取り巻きに過ぎない。
過去を脚色までして、自分を良いように見せたいだなんて……。
完全に、こじらせたオヤジになっちまったな。
ネヅオはここぞとばかりに俺をディスってくる。
リンドウと部下たちにいい格好を見せたいのか、急にシャドーボクシングなんかを始めやがった。
「シュッシュッ! なんだか当時を思い出してきたなぁ! 僕、高校の時はちょっとボクシングをかじってまして! プロからのスカウトもあったんですけど、断ったんですよねぇ! 昔はこうやって、このヘタレ野郎をサンドバッグにしてたなぁ! ……シュッ!!」
ネヅオはいきなり俺の顔に向けてパンチを放ってきた。
しかもふざけてはいるものの、結構本気なやつを。
そして俺は、自分でも信じられなかったのだが……。
反射的に、身体が動いていた。
俺は自動防御装置が働いたかのように、ヤツのパンチを腕でガードしていた。
そして気付いたら、自動迎撃装置が働いたかのように……。
流れるような動きで、ヤツの顔面に正拳を叩き込んでいた。
でも本気なやつじゃなくて、おふざけ程度の軽めなやつを。
しかしそれでも格闘技経験のない素人には強烈だったのか、ネヅオは鼻血とへんな悲鳴を吹き出しながら、ブッ倒れてしまった。
俺がガードしてからの出来事を、一連の言葉で表すとしたら、
「せいっ!」 バキャッ! 「チュウッ!?」
コントの三段オチのように、見事なまでの滑稽さであった。
どのくらい滑稽かというと、土下座していたネヅオの部下たちの間からも、クスクス笑いが漏れるほどに。
俺は血のついた拳を見つめる。
そして、『人生ガチャ』で見た、技能の説明文を思い出していた。
……もしかしてこれが、『空手三段相当の腕前』……!?
その最初の被害者になったネヅオは、俺の足元でダラダラと鼻血を流していた。
「なっ、なんだコイツはっ!? いきなり殴りかかってくるだなんて、正気かっ!? リンドウ様もごらんになられたでしょう!? 今すぐコイツをクビにしてくださいっ!」
さっきまでワル気どりだった彼は一転、急に社会人ぶって俺を批難しはじめる。
それは彼の部下もドン引きするほどの情けない姿であった。




