18 モンスターバスター就任
俺は、女子高生社長リンドウからのスカウトを承諾した。
ほぼ即答レベルの回答であったが、それには理由がある。
まずひとつ目は、俺はいま無職だということ。
遅かれ早かれ次の仕事を探さなくてはならない。
ならば、来た船に乗っかるに決まっている。
しかも、来たのはいつ沈むかわからない泥船じゃなく、超豪華客船。
だったら飛び乗るしかないだろう。
たとえ船内で死のギャンブルが行なわれていたとしても、だ……!
そして、次の理由として……。
実をいうと俺は以前、『権化堂カンパニー』にいた事があるんだ。
これは、だいぶ昔の話になるが……。
俺が通っていた高校は、金さえ払えば誰でも入学できる、バカ私立だった。
そんな底辺高を、『権化堂カンパニー』の会長が買い上げたんだ。
学校にいる人間まで含めて、丸ごと……!
会長は、生徒や教師を全員、『権化堂カンパニー』に就職させると言い出した。
もちろん強制ではなく任意であったが、断る者は誰一人としていなかった。
だって、無試験で世界に名だたる大企業に入れるんだぜ?
『権化堂カンパニー』は、一流大学を出た新卒でも難関と言われる超一流企業。
なのに、Fラン高校の生徒と、そこの三流教師を、縁故就職のごとく採用するだなんて、狂気の沙汰としか思えない。
しかし、うちの高校には金持ちの坊ちゃん嬢ちゃんが多かった。
もしかしたら会長は、ソイツらをまとめて『権化堂カンパニー』に取り込みたかったのかもしれないな。
当時のマスコミは、
『現代の集団疎開』
『学校まるごと人生バラ色』
『生徒全員が宝くじ1等を当てたような奇跡』
などと書き立てた。
そして、当時の俺は『権化堂カンパニー』に就職した。
しかしそこで、起こしてもいない失態を押しつけられ、部署を転々とするハメになる。
坂道を転げ落ちるかのごとく、下流のグループ企業に追いやられていき……。
とうとう正社員から契約社員に格下げになり……。
最後は末端の工場で、刺身にタンポポを載せるアルバイトにまで落ちぶれた。
……これで、わかってもらえたか?
俺がノーシンキングともいえる速さで、鼻持ちならないお嬢様のスカウトを受けた理由を。
そして、このお嬢様は話がわかるタイプのようで、ユズリハをアシスタントにしたいという申し出もすんなり受け入れてくれた。
彼女はソファの上で足を組み直すと、後ろに立っていたボディガードに鼻先だけで指示を出す。
「それではオファー成立ですわね。まずはコレをお渡ししておきますわ」
ボディガードは上着の内側から、ストラップ付のIDカードのようなものを取り出し、テーブルの上に置く。
そのとき一瞬、ガンメタルような黒光りがチラ見えしたような気がしたが、見なかったことにする。
それよりもカードのほうは、『権化堂カンパニー』の社員証だった。
俺の顔写真まで貼られているが、いつの間に撮ったんだろう。
「ユズリハさんのぶんはいま作らせておりますので、今日じゅうにはお渡しできますわ。ではさっそく、あなたの職務についてお話しましょう。でもその前に、場所を移したほうが良さそうですわね」
リンドウはさっさと立ち上がって応接室から出て行こうとする。
俺も後を追うと、ユズリハも仔犬みたいにちょこちょこ付いてきた。
足元には、四つん這いのままのハゲ社長がいて、
「ど、どうか、これからもこの工場をごひいきにしてくださいぃ~! ワンワンッ!」
捨てられた犬みたいに、俺たちのことを見送ってくれた。
しかしその途中、ドサクサまぎぎれにユズリハの足を舐めようとしていたので、蹴っ飛ばして追い払った。




