17 スカウト
俺にとっては雲の上の存在のような、スーパーお嬢様。
思わず気後れしてしまったが、それを悟られないようにぶっきらぼうに問う。
「で、この俺になんの用なんだ?」
すぐさま「なんだその言葉遣いはっ!?」とハゲ社長にどやされたが、もうここのバイトじゃないので従うつもりはなかった。
リンドウお嬢さまも気にしていないようで、
「言葉遣いなどどうでもいいですわ。猿に言葉を教えるだけ無駄だと知りなさい。それよりも、さっそく本題に入りましょう」
なんだかムカつく言い回しだった。
ハゲ社長も「がっはっはっはっはっ! おっしゃる通りですな!」と大げさにバカ笑いしている。
ちょっとムッときたが、直後に告げられた『本題』で、その怒りも帳消しになってしまった。
「あなたの、人間に化けたゴブリンを見分けた眼力が欲しいのですわ。『権化堂カンパニー』で、『モンスターバスティング』をするのです」
『モンスターバスティング』というのは、俺が殴った工場長のように、人間に化けたモンスターを探して、捕まえたり退治をする行為。
一般だと通報までだが、ライセンスがあれば捕獲と殺害も可能になるそうだ。
そして、それらを生業にしている者たちのことを、『モンスターバスター』と呼ぶ。
「最近、企業には多くのモンスターが入り込んでいますの。それは反社会的組織以上の問題となっており、どこの企業も頭を悩ませておりますわ。そこでわたくしは、モンスター討伐のための専属部署を設立することにしましたの」
それで、だいたい事情は飲み込めた。
その部署とやらに、俺をスカウトしたいんだろう。
「『権化堂カンパニー 総務部 モンスターバスティング課 課長』。それがあなたに与える役職ですわ」
か、課長……!?
この俺が、いきなり課長に……!?
しかも課長ってことは、正社員……!?
ソレも、『権化堂カンパニー』っていえば、親会社中の、親会社……!
世界的企業の、総本山じゃねぇか……!
そこに入れることが、どのくらいスゴイことかというと……。
隣で聞いていたハゲ社長が「えっ、ええ~っ!」と驚愕したあと、いきなり俺の足元に這いつくばって、
「さっ、先ほどは度重なるご無礼、失礼いたしました! 私こそ言葉のわからぬ猿でございます! ウッキー! ……ウキッ!? なんという立派なお靴をお召しで!」
見え見えのお世辞とともに、プライドをかなぐりすてたような猿マネを始め……。
それどころか合成樹脂のサンダルに頬ずりしてしまうくらい、スゴイことなのだ……!
そんなことはさておき、リンドウお嬢さまは俺に決断を迫ってくる。
俺の答えはもう決まっていた。
「やってやってもいいぜ。ただしひとつ条件がある」
「なんですの?」
「ひとりアシスタントを付けてほしい」
「そんなことならお安い御用ですわ。どんな人材をお望みでして? いかなる条件であろうとも、全グループ企業から探し出して、部下に付けてさしあげますわ」
「いや、ソイツはもう見つけてる」
俺は背後を親指で示す。
そこに立っていたのは、もちろん……。
俺の嫁、ユズリハだ……!




