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16 女子高生社長

 俺はユズリハと一緒に家を出て、かつてのバイト先である工場に向かっていた。


 家族以外の女と一緒に外出するのは何年ぶりだろうか。

 というか、生まれて初めてかもしれない。


 俺の、初めての同伴外出となった女は、文字どおり三歩下がってついてきている。

 歩きながら後ろを見やると、彼女はなぜか俺の服の袖に手を伸ばしかけていた。


 俺の服の袖をつまもうかどうしようか、白い指をさまよわせている。

 しばらくして俺の視線に気付くと、ピャッと指を引っ込めてしまった。


 相変わらず、奇行の多いヤツだ。

 それに、



「その格好で出歩くのは、恥ずかしくないのか?」



 すると彼女は、まるで我が家に帰ってきたような、落ち着いた微笑みを見せる。



「はい、お気遣いありがとうございます。こちらの衣装でしたら、恥ずかしくありません。わたくしには合っているようです」



 俺が『着替えガチャ』で引き当てたのは『巫女装束』だった。

 これまたコスプレだったが、ユズリハにはとてもよく似合っている。


 さながら、神社から飛び出してきたかのように。

 たぶん、顔立ちが和風系の美少女だからだろう。


 白いワンピースなどを着て、洋館の深窓に佇んでいる姿も良さそうだが……。

 平安時代の、すだれみたいなのの向こうに座っているほうが絵になりそうだ。


 そしてそんな美少女が巫女装束で現代社会を練り歩いているものだから、ものすごい注目度だった。

 道行く人々は、誰もが恋に落ちたかのように頬を染め、振り返っては後ろ姿を見送っている。


 今のユズリハはポニーテールではなく、長い黒髪をうなじのあたりで束ねていた。

 清らかさの象徴のような白衣に、目にも鮮やかな緋袴。


 和装なので身体の線が出にくいはずなのに、胸だけはしっかりと膨らみがわかる。

 清楚な顔立ちからは想像もつかない、『脱いだら凄そう』系のギャップがまたたまらない。


 もし神社に行ってこんな巫女さんがおみくじを売っていたら、男なら行列必至だろうな。


 なんてことを考えているうちに、バイト先に着いた。

 ウチから歩いて十五分くらいの所にある食品加工工場。


 入り口には社長が待ち構えていて、



「おおっ! 来たか! 社長がお待ちだぞ!」



 アンタが社長やないか、と突っ込みたくなるのを抑えて、ひっぱられるままに付いていくと……。

 一度も入ったことのない、来客用の応接室に案内される。


 ソファにはすでに先客がいた。

 名門高校らしきブレザー姿の女の子で、ふんぞり変えるようにして座っている。


 彼女の両隣には、スーツ姿の屈強なボディガードが控えていた。

 もうその時点で、只者ではない雰囲気がプンプンだ。



「あなたが、ゴブリンを倒したというアルバイトですのね」



 俺はその女の子とは初対面だったが、見覚えがあった。


 金髪の巻き毛をリボンでツインテールにした髪型、キッと吊り上がった青い瞳の目。

 強気なビスクドールのような顔立ちの、その少女は……。


 権化堂(ごんげどう)リンドウ……!


 なぜ名前まで知っているかというと、彼女は『女子高生社長』としてネットなどで有名だからだ。

 世界企業である『権化堂カンパニー』の会長の娘で、彼女もいくつかのグループ企業を経営している。


 かくいうこの工場も、すぐ隣にある『権化堂マート』に食品を卸している。

 簡単に言えば彼女は、『親会社の社長』みたいなもんだろう。


 そりゃウチの社長がここまで取り乱すのも無理はない。

 こんな小さな工場など彼女のひと息で、社長のハゲ頭のように一瞬にして吹き飛んでしまうからだ。


 俺はユズリハと同じくらい歳下の女の子相手に、緊張してしまった。

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