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15 バイト先からの呼び出し

「すごいです、旦那様! 旦那様にそんな特技がおありになっただなんて! とってもかっこいいです!」



 調子に乗った俺は、大技である飛び上がっての上段蹴りを繰り出し、天井を突き破ってしまった。

 「きゃあ!?」と息を呑む悲鳴に、ようやく我に返る。



「だ、大丈夫ですか、旦那様!? お怪我はありませんか!?」



 シュバッと滑り込んできて、俺の足をさすってくれるユズリハ。



「ああ、俺はなんともない。しかし、参ったな、天井に穴を開けちまった」



 見上げると、パラパラと砂埃こぼれる風穴の向こうで、ネズミ一家が覗き込んでいた。

 どうやら、一家団欒を邪魔してしまったらしい。


 しょうがない、今日一日は、天井の修理に費やすか……。

 と思っていたら、スマホが鳴った。


 『人生ガチャ』からの通知ではなく、着信だった。

 発信名の所には『バイト先』とある。


 うわぁ、よりにもよって工場からかよ……。

 今になって金一封を返せとか言ってきそうで、嫌な予感がプンプンだったのだが……。


 とりあえず出てみると、それはなんと工場の社長からで、電話口で血相を変えているのがわかるほどに慌てていた。

 用件はシンプルで、「いますぐ出勤しろ!」とのことだった。


 どうやら、俺になにか大事な用があるらしい。

 俺はA級バックラーの技能も持っているので、ここは無視してもよかったのだが……。


 なんとなく興味があったので、出向いてみることにした。



「呼び出されたから、ちょっと出てくるわ」



 なおも俺の足元で、靴磨きの少年みたいに俺の足をフーフー吹いているユズリハに向かって言うと、



「はい、わかりました。それでしたら、あの……わたくしもお供させていただいてもよろしいですか?」



「いいけど、その格好で付いてくるのか? ……って、このやりとり、昨日もやったような」



 するとスマホがまたしても鳴る。

 今度こそ『人生ガチャ』の通知だった。


 そこには、ユズリハの気持ちを汲んだかのような、例のガチャが……。



『着替えガチャ』



 昨日もそうだったように、これを引いて出てきた衣装に、ユズリハは着替えるんだろう。

 よくわからんけど、そのあたりに彼女の自由意志はないらしい。


 もしこのガチャを引かなければ、どうなるんだろうか。



「なぁ、もしこの『着替えガチャ』を引かなかったらどうなるんだ?」



 ユズリハに尋ねてみると、彼女はキョトンとした表情を返してきた。



「きが……きがえちゃん、ですか? あの、すみません、わたくし、無学なものでして……。その『きがえちゃん』というのは、何なのでしょうか?」



 とぼけているというよりも、本当にわかってないみたいだったので、言い方を変える。



「外からの着替えが来なかったら、どうするんだ?」



 するとようやく合点がいったようで、



「はい、わたくしはお外に届いたお荷物を受け取って、旦那様にお尽くしさせていただくお嫁さんです。お着替えが来た場合は必ずそれを身に付け、こない場合はずっと同じ格好をさせていただきます」



 なるほど。

 となると結論としては、『着替えガチャ』引かなかったら、ユズリハはスクール水着のままなのか。


 正直このままでもいい気がするけど、彼女は俺の視線でなにかよからぬことを察したのか、



「あっ、あの、すみません、旦那様……。この水着さんは、わたくしのはしたない身体をお見せしてしまい、大変お見苦しいと思いますので……あの、できましたら、新しいお着替えをお恵みいただけると、大変ありがたいのですが……」



 困り顔であうあうしている彼女を見ていると、なんとなく可哀想になってきたので……。

 俺は、『着替えガチャ』のボタンを押した。

今日はもう一話掲載したいと思います。

次回、新ヒロイン(?)の登場です!

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