10 幸せなひととき
ユズリハの作ってくれたスキヤキは、とんでもなくうまかった。
スキヤキなんて食べたのは子供の頃以来だが、その時以上のごちそうに感じる。
まず、肉がぜんぜん違う。
俗に言う『霜降り』というやつなのだろう、白い脂がきめ細やかに入っていて、口のなかでとろけるんだ。
そして何よりも、隣に超絶美少女な女子高生が座っていて、かいがいしく世話をしてくれている点に尽きた。
小皿が空になると「よそわせていただきますね」と白い手を伸ばしてきて、鍋からバランスよく具材を盛ってくれる。
ビールをあけるとすかさずお酌をしてくれて、まるで王様になったかのような気分だった。
……でも、それはそれで、なんだか落ち着かなかった。
「ユズリハは食べないのか?」
すると彼女はそれが当然であるかのように、「はい」と頷くと、
「旦那様がお食事をお召し上がりになっているときは、そのお世話をさせていただくのが、お嫁さんのつとめです。わたくしは旦那様がお召し上がりになったあとに、いただかせていただきます」
「でも、昼のカップ麺は一緒に食ってなかったか? 俺よりも先に平らげてたけど」
すると彼女は面白いくらいにうろたえる。
「そっ、それは、そのっ……!」とわたわたしたあと、
「かっぷらぁめんさんが、珍しくて……つい、はしゃいでしまいました。すみません……」
かくんと、細い肩を落としていた。
そんな彼女が仕草がいちいち可愛らしくて、俺はつい頬が緩んでしまう。
「とにかく食事中の世話はいいから、これからは一緒に食べよう。だいいち、ひとりで鍋をつついてもつまらん」
そう言われた彼女は、なぜか少し残念そうにしていた。
しばらく逡巡していたようだったが、素直に頷き返してくる。
「で、でも……。あ、いえ、旦那様が、そうおっしゃるなら……」
結局、ユズリハは俺の対面に座りなおし、いっしょになってスキヤキに舌鼓を打った。
湯気の向こうで、上品な箸運びで白菜や春菊を口にする彼女は、異様に絵になっている。
そしてつい見とれてしまい、目が合ってしまった。
女と目が合うといつも嫌悪感丸出しの顔をされるのだが、彼女はそんな素振りは微塵もみせず、
「とってもおいしいです、旦那様!」
見ていたこっちまで元気になるような、最高の笑顔をくれた。
究極ともいえるパートナーと、至高ともいえるメニューの食事を終えた俺。
無上の幸せを感じながら部屋でくつろいでいると、台所を行ったり来たりしていたユズリハが、
「旦那様、お風呂の準備ができました」
彼女は食事の後片付けのついでに、風呂まで用意していたらしい。
恐ろしいほどの手際の良さだった。