表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/72

10 幸せなひととき

 ユズリハの作ってくれたスキヤキは、とんでもなくうまかった。

 スキヤキなんて食べたのは子供の頃以来だが、その時以上のごちそうに感じる。


 まず、肉がぜんぜん違う。

 俗に言う『霜降り』というやつなのだろう、白い脂がきめ細やかに入っていて、口のなかでとろけるんだ。


 そして何よりも、隣に超絶美少女な女子高生が座っていて、かいがいしく世話をしてくれている点に尽きた。

 小皿が空になると「よそわせていただきますね」と白い手を伸ばしてきて、鍋からバランスよく具材を盛ってくれる。


 ビールをあけるとすかさずお酌をしてくれて、まるで王様になったかのような気分だった。


 ……でも、それはそれで、なんだか落ち着かなかった。



「ユズリハは食べないのか?」



 すると彼女はそれが当然であるかのように、「はい」と頷くと、



「旦那様がお食事をお召し上がりになっているときは、そのお世話をさせていただくのが、お嫁さんのつとめです。わたくしは旦那様がお召し上がりになったあとに、いただかせていただきます」



「でも、昼のカップ麺は一緒に食ってなかったか? 俺よりも先に平らげてたけど」



 すると彼女は面白いくらいにうろたえる。

 「そっ、それは、そのっ……!」とわたわたしたあと、



「かっぷらぁめんさんが、珍しくて……つい、はしゃいでしまいました。すみません……」



 かくんと、細い肩を落としていた。

 そんな彼女が仕草がいちいち可愛らしくて、俺はつい頬が緩んでしまう。



「とにかく食事中の世話はいいから、これからは一緒に食べよう。だいいち、ひとりで鍋をつついてもつまらん」



 そう言われた彼女は、なぜか少し残念そうにしていた。

 しばらく逡巡していたようだったが、素直に頷き返してくる。



「で、でも……。あ、いえ、旦那様が、そうおっしゃるなら……」



 結局、ユズリハは俺の対面に座りなおし、いっしょになってスキヤキに舌鼓を打った。

 湯気の向こうで、上品な箸運びで白菜や春菊を口にする彼女は、異様に絵になっている。


 そしてつい見とれてしまい、目が合ってしまった。

 女と目が合うといつも嫌悪感丸出しの顔をされるのだが、彼女はそんな素振りは微塵もみせず、



「とってもおいしいです、旦那様!」



 見ていたこっちまで元気になるような、最高の笑顔をくれた。


 究極ともいえるパートナーと、至高ともいえるメニューの食事を終えた俺。

 無上の幸せを感じながら部屋でくつろいでいると、台所を行ったり来たりしていたユズリハが、



「旦那様、お風呂の準備ができました」



 彼女は食事の後片付けのついでに、風呂まで用意していたらしい。

 恐ろしいほどの手際の良さだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ