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ウィートボード公爵家のジョージ

ジョー視点

 出遅れた。

 それが今年の夏の俺の感想だ。


「なんだい、ジョー。いきなり呼び出して」


 この夏ルール島で起きた冤罪事件に巻き込まれたアンディが、俺と向かい合ってソファに座る。


 冤罪事件ではシャノンと一緒に巻き込まれたことを手紙で知った。

 まずいことになると思って駆けつけ、事件は解決したんだけど…………。

 俺にとってはもっと重大な問題が発生していたことを、はっきりと目の当たりにすることになったんだ。


「アンディ、シャノンと排水施設の中で何があった?」


 簡単なかまかけで、アンディはあからさまに動揺する。

 確信はあったけど、やっぱりかよ。


「エリオットはシャノン心配しすぎて気づいてなかったけどな。俺からしたら目つき違うからバレバレだ」

「め、目つき…………?」


 アンディは俺から視線を外して戸惑った。


 アンディ本人も心当たりはあるけど、そこまでの変化があったことには無自覚だったらしい。

 藪蛇か? いや、こうなったらもう自覚してるよな。

 だったらとことん掘って何があったか聞き出してやろうじゃねぇか。


「なんで今さらシャノンに惚れたんだよ」

「惚…………!? いや、そんな…………い、今さらって、なんだよ?」

「いや、誤魔化せてねぇから。今まで別にアンディ、シャノンのこと友達以上に好きじゃなかっただろ」


 ずばり言い当てると、アンディは不機嫌そうに黙る。


 答えないからこれも無自覚かと思ったら睨まれた。

 ふーん、そこは自覚あったか。

 で、俺に気づかれてたこと知って自棄になったな?


「なんでそう言い切れるんだい、ジョー? まさか人の心が読めるなんて言わないだろ」

「だって、アンディが最初にシャノンに抱いたのは競争心だったじゃないか」

「う…………そ、それもあるけど、シャノンが好ましいのは本当で」

「俺が触ると怒ってたのも、エリオットがすっごい睨んでてその内手を出すとわかってたから先に止めてただけだろ」


 シャノンとエリオットに出会ってすぐは、主従だと思ってた。

 まぁ、最初からシャノンはともかくエリオットはその気があったわけだけど。

 だから問題にならないようアンディが先に俺を諌めてたのはわかってる。


 つまりアンディが俺を抑制してたのは、目下に対する貴族的な気遣いであってシャノンを思ってのことじゃない。


「シャ、シャノンに求婚したのが嘘だったとでも?」

「いや。助けられたし実力も見た。あの才能を手に入れたいなら婚約が手っ取り早い。それに俺に先越されるの不服だったんだろうし。父上たちも乗り気だったし」


 公爵家に生まれたからには結婚も政略だ。

 それを責めたつもりはないんだけど、アンディはまた黙る。

 まぁ、図星なんだろう。


 実際アンディはシャノンに好意はあったけど今とは違う友情止まりの思いだ。

 俺への対抗心と家を思う真面目さ、それと罪滅ぼしが他に思いつかなかったとかだろ。


「エリオットに聞いても二人きりになったのは町長宅での捜索の時だけって言うし。怖がるシャノン見て意識したか、シャノンの水着見て意識したのか?」

「…………うるさい!」


 あ、怒った。

 これは…………。


「…………当たりか」

「うるさい…………」


 どちらも図星だったみたいで、アンディは真っ赤になってた。


 俺はそんなアンディから顔を背けてソファに身を投げ出す。


「俺もシャノンの水着見たかった!」

「…………君の素直さには感嘆するよ」

「それ絶対褒めてないだろ」

「当たり前だ。公爵家の者として放言が過ぎる」


 アンディとじゃないと言わないっての。

 さすがにシャノンに言うとエリオットに黙らされそうだしな。


 あいつシャノンのことになると使用人らしくなくなるから。

 本当、普段は生まれ忘れそうなくらいなのに、シャノンが絡むと途端に俺たちと張り合ってくるんだから面白い。


「で? 何があったんだよ?」

「まだ聞くのかい? 勘弁してくれ」

「気になるだろ。今まで口では求婚しててもその気なかったのに、いきなりシャノンに熱視線送ってんだから」

「そ、そんなにあからさまだったか?」


 おー、無自覚。

 それで気づいてないシャノンもシャノンなんだけどな。


「目がめちゃくちゃ、俺を見ろって言ってた」


 アンディは顔を覆って俯くけど耳が真っ赤なの見えてる。


 そのまま何か言ってもくぐもってて聞こえ辛いって。


「なんだ?」

「だから! ジョーは、い、いつシャノンを好きになったんだよ!?」


 俺を睨むアンディには本気が見える。

 これは答えたら答えてくれそうだと俺の勘が言った。


「父上たちの話を盗み聞きした時」

「は? それは、つまり、出会ってすぐ?」

「俺さ、だいたいこうだと思ったことは当たるんだよ」

「まぁ、そうだね」


 すっごい嫌そうに肯定された。

 当たるんだからしょうがないだろ。


「で、シャノンに会った時、こいつとはあんまり関わり合いにならないなと思ったんだ」

「は? まさかそんなことで。…………もしかして、君の勘を外したから?」

「そう。シャノン相手だとことごとく外れるんだ。いつもならこうしないといけない! ってくらいに思うのに、シャノンだったまぁいいかって程度でさ」

「よくわからないけど、ジョーにとってシャノンは初めてのイレギュラーだったわけか」

「うん、シャノンのことはいちいち予想外でさ。一緒にいると目が離せないし、次何があるかワクワクする」

「それは、恋なのかい?」


 なんでかアンディは責めるように俺に問い質した。


 ほらな、食いついた。

 やっぱりアンディには勘がぴったり当たるんだよ。

 なのにシャノンが相手になるとなかなか当てられないし、当たったかどうかもいまいち自信がない。


「君こそシャノンを遊び相手としてしか見てないんじゃないのかい?」

「あぁ、一生遊ぶように楽しく過ごせる相手ってことだろ」

「は?」

「そんなのシャノンしかいない気がするんだよな。勘が働かないと断言できねぇけど、なんか普段ないこの回りくどい感じがちょっと癖になる」


 アンディは穴が空きそうなほど俺を見た後、頭を抱えた。


「…………ジョーの趣味がわからない」

「いや、考えても見ろよ。シャノンは一人だぜ」

「え、あぁ、それはそうだろう? 誰だって世の中には一人しかいない」


 これは通じてないな。


「すでにエリオットなんてのが側にいるんだ。シャノンに恋してもらえるチャンスはそれだけ減る。その上でシャノンが選べるのは一人だけ。その一人だけに自分が選ばれたいと思うのはおかしいか?」


 言い直した俺に、アンディは顎に指を当てて考え込んだ。


「俺たちは継嗣だ。そう生まれたんだから結婚は絶対。だったらやっぱり一番難関を手に入れて満足したいだろ。…………って、なんでそんな呆れた顔してんだよ?」

「あー、うん。なんとなくわかった。周りと競うこと込みでシャノンという女性がジョーにとっては理想だったわけだ」


 アンディは諦めたように首を振ってみせた。

 その上で、俺に真っ直ぐ目を向け直す。


「僕はシャノンがいなかったら死んでた。なのにそのシャノンも水に濡れて不安で震えてたんだ。そんな相手を愛おしく思わないわけないだろ。僕はシャノンを守れる自分になって好きになってもらいたい」

「おー、かっこいい」


 アンディの決意に拍手を送ると睨まれる。

 本気で言ってるのに茶化してると思われたみたいだ。


 俺は本気でアンディの決意には賞賛を送るつもりだ。

 その上で、アンディにもエリオットにも負けないようにシャノンを恋に落とす方法を考えるのが楽しいんだ。


 さて、この夏は出遅れたけどこれからどう挽回しようか。

 まずはエリオットとアンディの鼻を明かす抜け駆けでもすることにしよう。

 さぁ、面白くなってきたぞ。


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