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89話:未来を告白する

 魔法女王とは、ルール島の古い風習の中で生まれた呼び名らしい。


「かつて巫女はその魔力から最大戦力として各氏族の象徴的な存在だった。ルール島で掘り出された魔石は十二個。魔石を持つ氏族が生き残り、ルール島には十二の族が定着した。今も領地が十二分されてるのはその名残りなんだよ」


 お父さまにそんな説明を受けながら想像してみる。

 私レベルの魔法使い十二人が争う様子を。


「…………被害が、すごいことになりませんか?」

「そうだ。だから我々の先祖も考えた」


 暮らしさえままならなくなる被害を生む魔法の撃ち合いなど自滅でしかない。

 魔力の放出ができずに自滅するから、精霊も無闇に巫女に死んでほしくはなかった。


「知恵を出し合った結果、代表者として十二の族を取りまとめる王を選出することが決まったの。そしてその際、精霊はルール島の平和と繁栄の象徴となったのよ」

「平和と、繁栄…………?」


 メアリ叔母さまの言葉に私は思わず疑問符を浮かべてアーチェを見る。

 大切な話をしているはずなのに、起きる気ない。しかもしれっと影に潜ろうとするのを私が何度か止めていた。


「そのことなのだが、シャノン。過去数度、悪に傾いた精霊は現れたと残されている」

「そんな精霊を止めるのも魔法女王の役目なの」


 精霊憑きの叔母さま曰く、ようは精霊が力を発散すればいいとのこと。

 魔導書などの媒体を使わず最も効率的に力を発散する方法、それは戦闘だ。


 ゆえに魔法女王と呼ばれる巫女は、巫女の中で最も戦闘能力に優れることが求められるらしい。

 戦闘能力と言っても魔力の高さや攻撃力じゃない。巫女同士の喧嘩の仲裁や統率、用兵の才や声望の高さなど時の魔法女王によって違ったそうだ。


「表の権力者は国王。そして魔法という文化の権力者は魔法女王だったんだ」


 それがルール島の歴史。そしてここに魔法学校ができた素地だという。


 メアリ叔母さまは自分を指して苦笑した。


「さっきも言ったとおり私は女領主になったけれど、複数適性があるだけで魔法女王ではないの。チャス曰く、精霊全てに認められることはないだろうって」


 メアリ叔母さまのように、この島には他にも巫女がいる。

 魔法女王と認められるほど、戦闘能力が抜きんでているわけではないそうだ。


「あれ? メアリ叔母さまは支配適性じゃないんですか?」

「確かに、メアリも幼い頃から適性が安定しなかったな。言われてみればそうかもしれない。シャノン、良く気づいたね」

「いえ、お父さま。以前精霊が憑く条件を聞いたらアーチェがそう言ってました」

「そうだったのね。基本的に精霊憑きの特徴は複数適性と言われていたけれど、もしかしたら全員支配適性なのかもしれないわ」


 巫女たちと交流のあるメアリ叔母さまも賛同してくれた。ただし全属性は私だけらしい。

 だからすぐに支配適性がわかったということもある。

 何せメアリ叔母さまが使える魔法は一属性のみ。同じ属性で適性の違う人と一緒の時に魔法を使う状況にならなければ適性を映せるかはわからない。


「アルティスがあなたに魔女になることを持ちかけたのなら、それだけの素養があるということよ」

「シャノン、魔法女王についてそのアーチェという精霊に聞いてみてくれないか? どうも悪に偏ったために怠惰に浸っているんだろう。シャノンにしか答えないようだ」


 お父さまが目の前で言ってもアーチェは答えない。同じ精霊のチャスにさえそうなのだ。

 私がお父さまの質問を繰り返してようやく欠伸交じりに答えてくれた。


「どうしてこんな時まで怠惰なの?」

「シャノン、聞いてほしいのはそれじゃない」

「僕が何か言って変わることもないしね~」

「私、魔法女王になれるの?」

「生きてたらね~」


 嫌な言い方。

 私がアーチェの解答を伝えると、お兄さまが反応する。

 私に死亡フラグが立っていることを知っているからだ。お兄さまに語ったあの時、アーチェは影の中で聞いていた。


 そう言えばそのことに関して何も言われてない。

 アーチェにとって私の死亡フラグは死活問題のはずなのに、契約と魔導書制作以外はほぼほったらかしだ。


「あなたも五十年放置でまずい状態なんでしょう? 自分のためにもやる気だしてよ」

「…………まだ、その時じゃないよ」


 本気を出す時じゃないって? 中二病みたいなこと言って。


 私がアーチェを持ち上げて話していると、お兄さまが肩に手を乗せた。


「シャノン、言ったほうがいい」

「お兄さま?」

「その精霊は生きているならと言ったんだろう。なら、君の状況は長い時を生きた精霊から見ても危ういということだ」

「そんなこと、ありますか?」


 単にアーチェにやる気ないだけじゃない?


 お兄さまの表情は真剣そのもの。別に茶化すわけじゃないけど、言ってどうするつもりなんだろう?

 まだお父さまがオーエンの裏にいる可能性がある。

 貴族的な腹芸はできる人なのだ。

 クラージュでルカール伯を案じながら密輸協力を疑っていたように。


「シャノンの懸念もわかる。けれど将来の状況と今回の事件を思えば今手を打つべきだ」

「今回の? ミックのことですか?」

「あれは、我が家の名を貶めようとする者がいたんじゃないか?」

「ロバートいったいなんの話だ?」


 お父さまが堪らず私たちの会話に横やりを入れた。

 その顔には心配の感情しか見えない。

 けれど女子高生だった私はゲームで悪役と目されたルール島領主の存在を知っている。

 お父さまをシャノンとして信じてはいる。けれど『不死蝶』を知るもう一人の私が信じ切れないでいた。


「シャノン、君がマイケル・ジョーンズを助けなかったらどうなっていたと思う?」


 言われてみれば、私が関わらなきゃミックの冤罪は確定していただろう。

 ルーカスが言うようにお父さまが関わっていたという噂と共に。


 領民からもお父さまは誤解されているようだった。そこに来てミックの冤罪なら、さらに株は下がるはず。

 そしてオーエンが関与を臭わせたことが、お兄さまの懸念を肯定している気がした。


「それにシャノンは僕にも言ってないことがあるだろう?」

「…………どうしてわかったんですか?」


 オーエンのことは誤魔化しきれないからひたすら黙っていたのに。


「兄の勘。とは言え、君が言わないほうがいいと判断したなら尊重しようと思ってる。ただ、君が入学するまでにこんなことが続くなら、取り返しのつかないことになる前に手を打ったほうがいい」


 お兄さまの言うことももっともだ。今回のようなことはお父さまの協力がなければ私では介入できなかった。


 それにオーエンは今回の事件は潜るためだと言っていた。

 潜った後また動くとしたら、今後も同じことがあるかもしれない。


「ロバートくん、シャノンくん」


 黙ってたメアリ叔母さまの婿、アントニスが優しく声をかけて来た。


「なんの話かはわからないけれど将来を懸念しての話なら、大人を頼ることをしてくれ。長く生きてるだけ対処の仕方を教えられることもあると思うんだ」


 深刻な顔をして話し合う私たちを気遣うための言葉に、気持ちが揺れる。

 そこにお兄さまが確信に満ちた声で囁いた。


「きっと、知らずにいるとお父さまとお母さまが後悔なさる」


 言われて両親を見れば、苦しそうに私を見ていた。

 そうか、子供が死ぬ可能性があることを知らずにいるなんて辛いに決まってる。


 でも死亡フラグを全て潰せばいいと言うものでもない。

 私の知る未来を全て根本から変えてしまえば、対処できるはずの死亡フラグさえ対処できなくなる可能性がある。

 私はバタフライエフェクトで少し変えて、結果をハッピーエンドにしたい。


「…………でしたら、全てをお話はできませんが、お父さま方のお力をお貸しいただけるような部分だけでも、いいですか?」


 思い返せばお父さまのクラーケン退治で夏イベは潰れた。

 だったら領主として対処できるイベントは他にもある。


 私は深呼吸してできるだけお父さまとお母さまのショックが少ないよう言葉を選んだ。


「私は自分の未来を見たことがあります。魔法学校に入学し、数々の問題を起こして周囲に迷惑をかけ、そして死罪を賜るという未来を」


 言葉を選んでも、部屋の空気は凍り付く。


「シリルが、未来予知の力を持った友人が言っていました。何度も同じ夢を、未来を見ると。経過や出てくる人は違っても必ず同じ不幸な未来を告げる夢。私の未来も、起こる事件や関わる人物は違うのです。けれど、最後にはほぼ私は死に等しい罰を受けます」

「…………どうして」


 お父さまが声を絞り出す。

 お母さまは私の前に座って手を握ってきた。


「それは、本当のことなの?」

「わかりません。あれが未来だと思い込んだ私の妄想かもしれない。けれど、夢に出て来た人たちは、確かにこの世界に生きてる。私はジョーとアンディ、シリルの未来を、出会う前から知っていました」


 お母さまは何か言おうとして何も言葉が出て来ずに、ただ気持ちを伝えるように抱き締めてくる。

 叔母さまは険しい顔で精霊に声をかけた。


「チャス、未来を変えることは可能?」

「できるしできない。未来は定まっていないから変えられる。けれど未来はまだ来ていないから現在では手出しができない」


 アントニスも予想外の話に考え込んだ。


「予知と言えば北の帝国だけど、この国とは関係が良くない。北の帝国で秘蹟と呼ばれる予知についての知識を得るのは難しいだろうね」

「だとしても、すぐに予知に関する文献を集めよう。無駄かもしれないが」

「いいえ、お父さま。お父さまはすでに私の死の未来を変えてくれてます」


 あまりに深刻な顔をしているので、私は思わずクラーケン退治のこと話す。


「そんなところに繋がるのか。いや、対処しないままなら確かに入学後くらいに熱さに強いクラーケンが南下していてもおかしくはなかった」

「シャノン、その死に繋がる事件を全ておっしゃい。全て私が潰します」


 覚悟を決めた顔をするお母さまを、お兄さまが止める。


「シャノンにも考えがあって言わなかったんですから、まずは聞いてあげてください」


 その場の全員に目で促され、私はバタフライエフェクトを起こすために全ての未来を話さないことを告げた。


隔日更新

次回:蝶の行方

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