55話:予知された死
「お嬢さま! ご無事ですか!?」
「エリオット!?」
乱入者はエリオットで、炎の壁は私を守るためだったらしい。
まさかまた直接助けに駆けつけてくれるなんて。
「シャノン! 大丈夫?」
「アリスまで!」
エリオットの後ろから駆けて来たアリスは私に抱きついて無事を確認する。
でもそうやって現れたのは二人だけだった。
「お嬢さま、あの者は何者ですか?」
エリオットは炎の壁の向こうを睨んで私たちを背後に庇った。
こっちの様子を見るオーエンは、新手が現われないことを確認すると踵を返して走り出す。
「追います!」
「駄目よ、エリオット!」
私は両手でエリオットの腕を掴み止めた。
「あの人は私より強いわ」
「まさか…………!」
私が全属性だと知ってるからこそ、エリオットは否定しようとする。
でも真剣な私の顔を見て、エリオットは追うのを諦めた。
「…………お父さまたちは?」
「包囲を敷いておられるはずです」
「つまり、また先に来たのね」
私の確認に、エリオットは気まずい様子で目を背ける。
別に責めてない。いっそ一緒に怒られる相手ができて嬉しいくらいだ。
「でも、ブローチを盗られていたのに、よくここだとわかったわね」
「それは、アリス嬢が…………」
見ると、アリスは不安げに私を見つめていた。
そっか、私たちは二回目だけど、アリスは初めての経験だ。
私は安心させるように笑いかけた。
「助けに来てくれてありがとう」
お礼を言うと、アリスは途端に頬を染める。
「私がここにいると、どうやってわかったのかしら?」
「それは…………予知で…………。そ、それと最初に誘拐されたとわかったのは、シャノンを連れて行った男の子が戻ってきて、教えてくれたの」
回復魔法を教えたマチュが、いち早くアリスに報せたらしい。
そして合流したエリオットへ、私のいる方向を的確に指示したという。
「占属性はそんなこともできるのね」
これはゲームではなかった力だ。
あくまで魔法を使うのは戦闘フェイズだけだから、私は日常的な魔法の使い方はあまり知らない。
「お迎えが遅れて申し訳ございません、お嬢さま。馬車の馬が吐いてしまい、代わりの馬を手配していました」
エリオットが戻らなかった訳はそういうことらしい。
「戻るとお嬢さまがおらず、アリス嬢からの託けを聞き追いかけようとしたのですが。アリス嬢がすぐに旦那さま方に協力を要請すべきだとおっしゃって」
アリスの頼みで、エリオットは私を追わずに屋敷へ戻ったそうだ。
「よく従ったわね、エリオット」
半年前は単身で捜しに来たのに。
そう思ったら、エリオットは真剣な顔で私を見つめた。
「そうしなければお嬢さまに死の影が近づくと言われました」
「え?」
アリス見ると申し訳なさそうに俯いている。
えっと、私、死を予知されてた?
うわー…………。
「…………ありがとう、アリス」
「え?」
「私が死なないよう、エリオットと来てくれて良かったわ」
「そんな、あの、こ、怖くない?」
「死ぬのは怖いわよ?」
「そうじゃなくて、私の力…………死ぬかもなんて言われて、私のことが、怖くは、ない?」
そう言えば、アリス自身が予知能力を怖がってた。
死ぬかもしれないと言われて嫌われるとでも思ったのかしら?
素考えるとさっき私、オーエンに嫌われるような言動してたわね。
退いてくれたから良かったけど、すごく危ない言動だったんだ。
「シャノン、私、その…………」
「私に危険迫ってると知って、こうして危ない所に来てくれたじゃない。アリスを怖がる必要なんてないでしょう。助かったわ、ありがとう」
正直二人が来ても危ない状況に変わりはなかった。
それでも二人の存在でオーエンのほうから退いてくれたのは確かだ。
何より、独りで黒幕と対峙するより心はずっと楽になってる。
「死ぬなんて言われて、嫌じゃない?」
「意味もなく言われたらいやだけど、アリスはそうじゃないでしょ」
私の答えにアリスは唇を震わせた。
「ごめんなさい…………」
「どうして謝るの?」
「もっと前から、こうなること見えてた、私」
けれど、アリスは言わなかった。だからごめんなさいと。
「あぁ、そういうことだったの」
アリスは予知夢で悲鳴を上げて起きていた。
私はそれに対して、言われなくても責めないと言ったのはまだ記憶に新しい。
けど、それじゃアリスが納得しない。アリスは私の危険に対して口を閉ざしていたことに罪悪感を持っているようだった。
「アリス、結果良ければ全て良しよ。私はこうして無傷だもの。ねぇ、エリオット?」
「はい。僕からもお礼を言わせていただきたい。ありがとうございました」
「ほら。アリスの予知は悪いことばかりじゃないわ。また私が危ないことをするなら、次も助けてね」
「お嬢さま…………」
「う、うん!」
エリオットが呆れる視線を向ける中、アリスは勢い込んで頷いた。
「お嬢さま、まずお一人で行動なさるのをやめてください」
そう言うエリオットの声が本気だ。
「ごめんなさい。エリオットなら見つけてくれると思って」
「それはそうでも、まず僕を待つという安全策を講じてください。置いて行かないでほしいとお伝えしましたよね?」
素直に謝ったら怒られた。けどここは甘んじて受けよう。
「どうしてシャノンは笑っているの?」
怒られてるのに不思議とアリスは首を傾げる。
「エリオットを信頼してるからよ」
素直に答えると、エリオットはお説教をやめて黙る。
見ると、頬が赤くなっていた。
やっぱり頼られて喜ぶお年頃なのね。
「…………お嬢さま、この後は旦那さま方に叱られるんですからね」
「わかってます。今はまず合流しましょう」
ちょっと安心しちゃったけど、立ち話してる場合でもない。
私たちは移動を始めた。
「誰もいませんね」
倉庫街に物陰は多いけど、どうやら人影はないようだ。
エリオットが先を警戒しながら進む後に私とアリスが続く。
「敵は少ないはずよ」
「それでもお嬢さまが叶わない相手がいるのなら注意が必要です」
言いながら進むエリオットに頷いた途端、私は何かを感知した。
「これは…………魔法?」
「お嬢さま!」
足を止めた私は、突然エリオットに飛びつかれる。
足元に電気の有刺線が現われており、エリオットは身代わりになって私を突き飛ばした。
「くぅ…………」
「す、すぐに回復を!」
思いついて光る蝶をエリオットにつけると、パーティメンバーのステータス画面にスタン状態を表すマークがついてる。
これはオーエンの罠だ。追い駆けられないようにこんなもの用意してたなんて。
私がエリオットに向けて屈み込むのと、アリスが悲鳴を上げるのは同時だった。
驚いて振り返ったアリスは、私とは何か違うものを見てる。
そして正気づいたアリスと目が合った。
「シャノン…………危ない!」
今度はアリスが私に飛びついた。
思わぬ強さで腕を引かれて、背に庇われる。
「あぁ…………!」
「アリス!?」
振り返ると、アリスに電撃が襲っていた。
時間差の罠がもう一つ仕掛けられていたんだ!
足元から狙ってスタンにした相手を上から襲う電撃が仕込まれていた。
後からわかっても遅い。
私は後悔に歯を噛み締めながら、倒れるアリスを抱き留めるしかなかった。
GW毎日更新
次回:アリスの秘密