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53話:早すぎるボス戦

 痺れる手と一瞬光った紫電に肌が粟立つ。

 この相手はまずい!


 私はすぐさま逃げ出した。

 幸い足は動く。痺れる手を見下ろしてそこに魔力の痕跡しかないことを確認した。


「魔法で魔法が掻き消えた? どういうこと? 私よりも強い魔力の放出だった?」


 私が用意していた眠り薬の魔法は散らされている。

 力負けするほど、込められた魔力に違いはなかったはず。


 私は適当なもの影を見つけて身を顰めた。

 場所はたぶん港の倉庫。まずはこの倉庫からの出口を探さなきゃ。

 と思って走り出した途端、後ろからまた電撃が放たれた。


「そうか、スタンだ!」


 言い換えると麻痺状態。ゲームの状態異常の一つ。

 スタンになるとそのターン、攻撃コマンドを入れていても無効になる。


「こんなとこばっかり同じなんだから…………!」


 私は電撃が当たらないよう走る。

 ターン制じゃないから一方的に攻撃されてる状況だ。


「防御力上昇、風属性耐性、速度上昇、回避上昇」


 走りながら私にできるのは、初級の援護を重ねがけすることだけ。

 相手が見えればデバフかけるのに!


「状態異常耐性、回避率上昇…………あ、出口!」


 援護以外の魔法をようやく使える。

 私は風属性で足を浮かせて滑るように移動し、倉庫内の敵の目から逃れた。


「加速!」


 ゲームなら一ターンだけ先制できる魔法。

 私が外へ出ると、後ろで電撃が放たれる。


 危ないところだった。

 今の加速してなかったら当たってたよ。


「って、しつこい!」


 外も荷物の山で、その間に逃げ込んでもまだ追ってくる。

 外はもう夕暮れで、私は電撃を避けながら港の中を逃げ回った。


「当たらなければ意味がないなんて言うけど…………」


 今の私は当たったら一巻の終わりだ。

 全属性でも治す自分が動けなくては意味がない。スタンになれば万事休す。

 こんな時、エリオットがいてくれたら。


「あ…………!」


 エリオットの探索魔法がかかったブローチを置いて来てしまった。

 余り離れるとエリオットに見つけてもらえないし。戻ろうかな?

 なんて迷いで、私は回避が遅れてしまった。


「きゃ…………!? あ、危ない!」


 足に掠めたけど、状態異常耐性のお蔭でスタンは回避できた。

 けれど息つく暇なく、また電撃が襲ってくる。


 なんとか逃げられているけれど、このままというわけにも…………。


「しまった!」


 電撃を避けて曲がった先は行き止まり。

 私は気づかない内に誘導されていたらしい。

 振り返れば近づく足音。

 私は可能な限り一番防御力のある魔法を描いた。


「防御結界」


 不意打ち備えて相手を待つと、現われたのは敵モブ。

 顔の見えない黒いフードって、よく考えたらそういう魔法のアイテムなんだ。

 だから誰が着ても恰好は敵モブにしかならない。


「…………あら、一言もなく私の動きを封じるおつもりかしら?」


 問答無用で魔法を放とうと動く相手に、私は時間稼ぎを試みた。

 正面からやり合っても敵わない、そういう相手だと私は知っている。

 今の私じゃ、レベルが足りないって。


「知らない仲でもないのに、顔を隠すだなんて薄情ね」


 無視していた相手の動きが止まる。


「それとも、子供の私ではわからないと侮っているのかしら?」


 言いながら私は隙を探す。

 飛んで逃げる?

 攻撃する?

 いつまで時間稼ぎをする?

 本当に助けは来る?


 必至に考えながら、私は相手の反応を探った。


「ここのところずっとあなたの魔力を身近に感じていたのに、気づかないはずないでしょう?」


 私の指摘に、顔の見えないフードの中で相手が笑ったようだ。


「そこを退いてくださらない、オーエン?」

「さすがはテルリンガー家でも類を見ない天才だ」


 オーエンは悪びれもせず顔を出す。

 相変わらずの笑顔に害意は見つけられない。


「いやぁ、追いかけて潜入したまではいいけど、君が捕まってるのを見つけてね」

「まぁ、そうなの。ではどうして攻撃してきたのかしら?」

「そりゃ、相手に怪しまれないように攻撃する振りはしなきゃ」

「ここまで追って来たのはあなた一人なのに、ずいぶん執拗に魔法を放っていたようだけれど?」

「捕まえたふりをして安全な所まで運ぼうと思っていてね」

「私に魔法で攻撃しようとしていたことに変わりはないわね?」

「そんな! 君を危険から遠ざけるための致し方ない選択だったんだよ!?」

「私のテルリンガー家での評価を知っていたのなら、協力してあの怪しい人たちを捕まえたほうが賢くはないかしら?」

「まさか、雇い主のお嬢さまにそんなことさせられるわけないよ」


 私たちは休みなく言い合って、笑い合う。

 私は海賊の不意もつけた速度で攻撃を放った。

 けれど私の攻撃が到達するより早く、オーエンは反撃の魔法を用意して打ち消す。


 ゲームで言えばレベル差による攻撃速度の違い、かしら?


「魔法を私に向けるのは何故?」

「反射的にね。ごめんよ。それより、安全な場所へ移動しよう」

「結構よ。私がなんの対策もなく独り歩きをすると思って?」

「…………何か託けをしたにしても、すぐには来ないさ」

「すでにこの場所へ向けて移動をしているはずよ」


 もう一度笑い合うと、今度は作り笑いじゃなかった。

 オーエンのほうが呆れたように笑っている。


「全く、どんな絡繰りだい? 君が毎日つけてる魔法道具なんて指輪くらいだったのになぁ」


 どうやら私は、身につけてるアイテムの有無は毎日観察されていたらしい。

 …………怖。


「あら、毎日同じ物をつけるなんてつまらないでしょう?」

「さすが魔法の大家ルール侯爵家令嬢。そんな贅沢想像もしなかったよ。やっぱり言うことが違うね」


 実際はエリオット謹製だから汎用性はないし、たぶん市場価値もそこまで高くない。

 ただ魔法道具は高価だからオーエンの言うこともわかる。


「…………この状況で時間を稼ぐ理由は救助の当てがあるからかな? まぁ、嘘を吐くならもっと別に気の引き方があるね」


 考えを纏めるようにオーエンは笑う。魔法は保持したまま。

 私の防御はすでに、さっきのオーエンの反撃で崩れてる。

 スタンを食らうかは、耐性による賭けでしかない。


「君は何故、あんな怪しい者を追ったのかな?」

「…………怪しいからでしょう」


 私の答えにオーエンは否定の意味を込めて首を振る。


「側にいて君はそこまで向こう見ずでも考えなしでもないことはわかってる。なら、追ったのには何か確信があったはずだ。追って、正体を見極めるべきだと考える根拠が」


 私が答えないと、オーエンは困ったように笑った。


「アリス嬢から色々聞いたよ。親身になって魔法を教えているとか」

「あら、お父さまから聞いていないの?」

「聞いているさ。君が全属性だとね。けれど、あの貧民の子供に魔法を使わせていたのはいったいどういう仕組みだい?」


 う、あそこから見られていたなんて。

 気づかなかった。けどやっぱりあのマチュは罠のために使われてたんだ。

 今のところ支配適性までは知られていないみたいだけど…………。


「アリス嬢の未来予知の苦悩を理解したそうだね」


 そこまで話してるなんて、よほどアリスはオーエンを信用したようだ。

 素直でいいと思うよ。うん、黒幕って知らなかったらそうなるよね。


「全属性の君が、だ。そうなれば答えは簡単だ。思えば君は僕と初めて顔を合わせた時から警戒していた。美味しいお菓子を上げる時以外、常に僕の様子を窺っていた」


 食いしん坊みたいに言わないでほしい。

 という不服が顔に出たのか、ちょっと小馬鹿にするように笑われる。


 瞬間、オーエンははぎ取るように表情を消した。

 突然の変化に驚きはない。だってその顔は、ゲームで見た。


「さて、君はいったい僕が何をする未来を見たのかな?」


 オーエンの体からは電撃が放出される。

 いつでも攻撃可能なその姿は、無言の脅しだった。


隔日更新

次回:悪役の猶予期間

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