52話:二度目の慣れ
(自分会議始めまーす)
(はーい。やっぱり罠でしたー)
私は目隠しされて運ばれる暇さに自問自答を始める。
敵四人に囲まれて、抵抗せず馬車で移動中だった。
降ろされた場所から歩いている時に、香ったのは海の潮。
(目隠し以外は前回と同じね。馬車移動で港って)
(相手魔法使いだしね。やっぱり子供とは言え魔法使いを攫うなら魔法を使える人間じゃなきゃ危ないからじゃない?)
今回私を攫った全員が魔法使いだ。
そして四人の内二人は、以前路地で見た相手と同じ属性と適性。たぶん同一人物だと思う。
(ゲームの敵モブってことは、やっぱり密輸絡みかしら?)
(ゲームだと、ルール島の物品を盗んで売りさばいてるんだよね)
(お父さまたちは密輸の証拠を押さえたくて船荷を探っていたのね)
(うーん、だとしてさ、アリスの両親が関わってると思う?)
(これも悪魔の証明よ。関わってないなら関わってない証拠なんてないもの)
(となると犯人捕まえて関与がないことを吐かせなきゃ、アリスの予知夢が実現しちゃうか)
私は今、硬い椅子に座らされている。背もたれもあるし木の椅子かしら?
なんて思っていたら、目隠しが取られた。
目の前には相変わらず怪しいフードを被った敵モブがいる。
「それで? お名前を聞いてもよろしいかしら?」
私は顔の見えない敵モブに笑いかけた。
途端に敵モブはざわざわと囁き合う。
あ、六人に増えてる。ちょっと多いなぁ。
「え、怖…………笑った?」
「じょ、状況はわかってるのか?」
なんで敵モブが戦いてるのかしら?
「えぇ、誘拐でしょう?」
「わかっててこれか?」
「いったいルール侯爵家はどんな教育をしてんだ」
それ海賊のマルコとニックにも言われたわ。
まぁ、誘拐されて澄まし顔の小学生は気味悪いか。
「おい、持って来たぞ」
はい、七人目。
手に石つきの縄がある。これはルール島の盗品を扱ってるで確定かな。
「子供のための物を、ひどいことするわ」
私の呟きの意味を理解して、敵モブが一斉に驚いた。
「これが何か知ってるのか?」
「おい、やっぱりルール侯爵がここに来たのは」
「ば、ばれてるんじゃないか?」
「あら、ばれていないと思っていたの?」
私の言葉に面白いほど動揺する。
なんだか敵の割に小心者ばかりのようだ。
「なんでこんなに余裕なんだ?」
「例の指輪は…………してるな」
「だったら魔法使えないはずだろ」
「それは、誰に聞いたのかしら?」
私の声にしまったと言わんばかりに肩を跳ね上げた。
私の装身具の中でも指輪と断定するなら、私のすぐ近くに内通者がいるんでしょう。
十中八九オーエンだけど。
この指輪はめたのもオーエンだけど。
ついでにこの敵モブを仕切ってるのもオーエンだけど。
(思ったより人数多いのどうしようか?)
(動揺している今、指輪を壊すほうがいかしら?)
今回人助けの意味もあったけど、最悪指輪を壊せるから捕まったところがある。
無抵抗だから今のところ無傷で済んでいるのは、前回の誘拐で学んだことだ。
(それもいいけど情報聞き出したくない?)
(上手くいけばオーエンの関与を吐かせられそうな気はするわ)
(だよね。あんまりストーリー変えたくないけど…………)
(でもアリスが不幸になるのは…………)
(見過ごせないもんね!)
(それにバタフライエフェクトでイベントに変更があるかもしれないものね)
『幻の皇太子妃』を手に入れた経緯を思えば、何処にイベント潰しのバタフライエフェクトが転がってるかわからない。
「ともかく装身具は指輪以外取るぞ」
敵モブは意見を一致させて、私のただのアクセサリーを取っていく。
けれど商家の娘に装ってつけていたブローチはエリオット作。
どうやら敵モブも触って気づいたようだ。
「げ、これ魔法がかかってる」
「くそ、子供にこんな高価そうな魔具持たせるなよ」
触っただけで気づいたということは、王姪令嬢しかり、アリスも魔法教える間しかり、この国の者は魔法を気配では察せないしかり、となると。
「あら、ニグリオン連邦で育ったのに今さら珍しくもないでしょう?」
「な、なんでわかって!?」
「もう、こえーよ!」
「なんなんだよ、この子!」
心霊現象みたいにドン引かれる。
攫っておいてそれはひどくない?
「もう箱開けて強いの出せよ!」
「そうだ! この石つきより強いのあっただろ!」
「あの手錠、売約済みじゃなかったか?」
「ここで逃がすと売約済みも何もないだろ!」
箱とやらを開けるためにちょうど良く三人がこの場を去る。
バールを持って行ったから、たぶん箱は釘打ちされた荷箱を開けるんだろう。
「あらあら、密輸品に手を出してまで私を恐れるなんて」
「お、おい! ルール侯爵は何処まで知ってるんだ!」
ちょっとかまをかけたら直球で返ってきた。
誘導尋問とか知らない風なのは、マルコとは違うみたい。
(実は何も知りませんって言ったらどうするんだろう、この敵モブたち)
(こんな状況で自らの価値を下げる必要はないわ)
誘拐二度目で早くも慣れた女子高生気分の私に釘を刺す。
もちろん素直に答える気はない。
そしてこの好機を逃す気も、私にはなかった。
「私、誘拐は二度目なの」
「は?」
「あ、マルコのとこで聞いたぞ」
「あら、マルコのお知り合い? 元気にしているかしら」
親しげに言ってみると、わかりやすく困惑してくれる。
「会うことがあったら伝えてくださる? あなたたちのお蔭で、私一部界隈では傷物扱いになっているって」
「へ?」
「下賤の男と余人もなく密室にいたなら、そう判断されてしまうのよ。ご存じ?」
なんの話か分からないみたいで、素直に首を横に振る。
少なくとも敵モブは貴族に関わりがないことはわかった。
そして海賊と繋がってるらしいことも。
島からの密輸なんだから船がなくちゃ成立しない。つまりこの敵モブたちは海賊を雇って荷を運ばせている可能性がある。
「もちろんこの状況も、私の純潔を疑われる大変な事態なの」
「いや、いくら美人でも、なぁ?」
「妹と同じくらいの子供なんて」
「あらそう。けれどもう遅いのよ」
私は指輪を壊すために魔力を高めた。
途端に、指輪は今までの磁石のような接着力を失くして指から抜ける。
「え…………?」
「あ、指輪が!」
音を立てて落ちる指輪に気づかれた。
私はすぐさま風の魔法で縛られた椅子ごと上へと逃げる。
浮遊じゃなく上昇だから一時的なもの。それでも石つきの縄は不意を突かれた敵モブの手から離れて無効化できた。
可能な限り長さを残して私は縄を焼き切った。
「た、高い!? 今の一瞬でどれだけの魔法を使ったんだ!?」
「なぁ、今、属性がおかしくなかったか? 風だよな? でも火を出してなかったか?」
「それではおやすみなさい」
私は落下を和らげながら、上から眠り薬を散布した。
バタバタと倒れる音に、荷箱を開けに行っていた敵モブが戻って来る。
「どうした!?」
「あ! あのお嬢さまは何処に!?」
なんて言ってる間に、私が撒いた眠り薬を吸って倒れた。
上空の椅子の上でゆっくり落下しながら様子を見るけど、この七人の他に気配はなし。
「どうしてかしら?」
私は下に降りて、突然取れた指輪を拾う。
かかってる魔法にはなんの変化もない。
不思議に思いながら、ポケットに指輪を入れて私は敵モブに近づいた。
「さて、石つきの縄で縛って。えい」
「ぐへ!?」
七人を同時に縛った状態で無理矢理に魔力を放出させると、突然の苦痛に目を覚ましてしまう。
「あら? 状態異常が治ってしまったわ」
「ひぃ! なんだこれ!?」
「ではもう一度」
騒ごうとする敵モブを眠らせようとすると、私の手を紫電が貫いた。
「あう!? くぅ…………これは、スタン状態?」
視界の端に浮かぶ状態異常アイコン。
そして近づく足音が、新手の登場を物語っていた。
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