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5話:二人は死亡フラグ!?

「エリオットが過保護になった気がするの」

「そうですね」


 着替えを手伝ってくれてる赤毛のエイミーが笑顔で肯定した。

 やっぱり私の思い過ごしじゃないんだぁ。


「走って転んでお怪我をなさって、目が覚めれば記憶がないとなれば当たり前では?」


 青い瞳のブレンダが、エイミーから引き継いで髪を結い始める。

 靴の用意をする金髪のケリーは少し考えるような声を上げた。


「うーん、ですけど、エリオットとお嬢さまがいつも一緒なの、今さらじゃないです?」

「そうなんだけど、ベッドから起きてから階段では手を引くようになっちゃって」


 もはやこういう女性以外立ち入り禁止の状況じゃなきゃ、エリオットが常に側にいるようになってる。


「私の側を離れれば、もっと素晴らしい主人も、素敵な女性もいっぱいいるのに」

「あら?」

「あらあら」

「あらあらあらら」

「何? 三人揃って?」


 侍女たちは顔を見合わせて頷き合う。


「私たちのお嬢さまのかわいらしさを一番わかってない方がこんな所に」

「良い機会かもしれませんね。お茶会の方々にたっぷり褒められるよう髪型はもう少し」

「それより、こっちのリボンつけたほうが可愛いですって! 盛りましょ、盛りましょ」


 盛られるのは回避したものの。

 私は侍女たちの手によって念入りにおめかしをされてしまった。

 ピンク、マゼンダ、パープル、差し色に水色が入ったドレスは、色鮮やかで可愛らしい。

 そしてすでにデザインには必ず蝶が入った装いだ。

 髪の代わりに盛ったのは帽子で、花にレースにリボンにと盛られてる割にドレスに合ったバランスを心掛けられている。


「これは…………馬車を降りた瞬間可愛らしすぎてに攫われたりはしないか?」


 お父さま、真顔で何聞いてるんですか?

 エリオットも頷かない。


「少し派手な気もするけれど、子供の内はこれくらい好きに装わせてもいいでしょう」


 お母さまはちょっと羨ましそうに私を見る。


「シャノン、次にお出かけする時には、白を基調に薄紫水色…………いえ赤を入れてもいいわね。ともかく今度、仕立て屋を呼びましょうね」


 あ、お母さまの琴線に何か触れちゃったっぽい。

 私はお茶会に行く前からたっぷり褒められることになった。


(第二回自分会議ー)

(おー、ドンドン、パフパフ)

(議題、私の両親は親馬鹿!)

(これが当たり前だと思ってたけど、私の記憶あると馬鹿の領域だよね)

(これはこのまま周囲に甘やかされた結果、『不死蝶』に成長してしまうのではないかと思うのです!)

(ありえそうだね。ってことは、調子に乗らないよう成長すればバタフライエフェクト行けるかな?)

(それではあまりにも心もとないわ。だから当初の予定通り、今日会う二人と親睦を深めようと思うの)

(うん、議題はそっちが本題だよね)


 今日お邪魔するお茶会の主催者は、叔母の嫁ぎ先であるウィートボード公爵家。

 お茶会は血縁者や姻戚の身内ばかりが集まる内輪向け。

 その中に、私からすれば大伯母の孫、ウィートボード公爵家からすると当主の従姉の嫁ぎ先であるローテセイ公爵も参加する。


(これ聞いた時、なんのことかわからなかったよ)

(親戚付き合いの薄い社会ならそうでしょうね)

(あと、ゲームには名前と何処の国のなんて地位のキャラか、ってことしか情報なかったからね)

(えぇ…………まさか攻略対象キャラが、『不死蝶』の親戚だったなんて)


 今日のお茶会には私と同じ年の子供が二人参加する。

 それがウィートボード公爵家のジョージと、ローテセイ公爵家のアンドリューだ。


(まだ同じ名前ってだけかもよ? 日本と違ってこっち人の名前の種類少ないし)

(この国、ニグリオン連邦の公爵家でジョージとアンドリューという名前で呼ばれる私と同じ世代はこの二人しかいないのよ)

(うーん、公爵家同士で幼馴染み、その上ライバルってなったら確定かと思ったけど)

(外見の特徴も確認してあるもの。まず間違いないと思うわ)


 今回のお茶会への参加に、私は思わぬチャンスを掴んだ気分になった。

 というのも、早速バタフライエフェクトを起こせる可能性が出て来たからだ。


 攻略対象キャラと思われるジョージとアンドリューは、ゲームを見る限りシャノンと親しくはない。

 シャノンの口車に乗ってイベントの中心人物となり対決することもある。

 けれどイベントの最後にシャノンが断罪されても「自業自得」と見捨てる素っ気なさをみせる。


(その上、アンドリューは主人公側だもの)

(そうそう、ストーリー上の初期メンツ。イベントでも基本的に主人公びいきで。人気投票するとクーデレなアンドリューのほうが上!)

(今それは関係ないでしょう? ともかく、この出会いで敵に回る可能性の高いアンドリューと交友を深めるの)

(それと、できればジョージとアンドリューが対立しないように仲を取り持つ、だね)

(そうよ。二人の対立からイベントが起こるんだもの。その結果『不死蝶』が断罪されるなら、最初からイベントを起こす要因である仲違いをさせなければいいんだわ)

(死亡フラグ折れる気しないもんね。だったら、最初からフラグ立てさせないようにしなきゃ)

(えぇ、仲の悪いジョージとアンドリューなんて、私にとっての死亡フラグでしかないわ)


 そんな内心の話し合いを終えて、私はウィートボード公爵家へとやって来た。

 馬車でやって来たのは王都のタウンハウス。

 本来タウンハウスは王都における別荘のようなものだけど、王家と近い血縁のある公爵家は違う。

 庭付き一戸建て。屋根には彫像が乗っていたり、外壁を柱が飾っていたりするお屋敷だ。


(これでタウンハウスだから、領地のカントリーハウスはもっと大きいんだよね?)

(まぁ、うちも本家はお城だから公爵家ならやっぱりお城なんじゃないかしら?)

(あ、今の私の家もお貴族さまだった。王都にお屋敷持ってる上流階級だった)

(王家より歴史の古い外様貴族だもの。本家を離れて王都に当主一家が暮らしてるのも、こうして有力貴族と縁を結んでお家を存続するための地位を確かなものにしなきゃいけないからなのよ)

(うわーん、十歳なのに私が可愛げのないこと言ってるぅ)

(可愛げ振りまくだけじゃ、『不死蝶』になってしまうわよ)

(は! そうだった)


 なんて自問自答しながら大人の長話の合間に自己紹介をして、親戚回りをする。

 可愛がられても調子に乗らないよう自制しつつ、私はようやくターゲットを発見した。


「俺はジョージ。こっちはアンディ。お前はシャノンだろ、知ってる。じゃ、これで挨拶終わり。行こうぜ、アンディ」

「ジョー、それはさすがに怒られるよ」

「いいって。どうせ今日も大人はさっさと引っ込むんだろ。俺たちは俺たちでやろうぜ」

「ルール侯爵、非礼をお許しください。ですがこう頻繁にお会いすると僕たちももう話題がないのです」


 そんなことを言って、男の子二人は何処かへと去ってしまった。


「あぁ、こほん。シャノン、金色の髪のほうがジョージ・エドワード・フレデリック・ブレイザー。ウィートボード公爵子息だ」


 お父さまが困ったように本人不在で説明してくれる。

 うん、見た目はゲームの時の面影があるから見分けはつく。


「ブルネットの髪のほうがアンドリュー・アルバート・アーネスト・グルックス。ローテセイ公爵子息だ」

「心得ております、お父さま。…………比べられることが多いと聞きましたが、仲はよろしいようですね」

「あぁ、それはたぶん公爵方のほうのことだろう。あちらも同じでね、幼少から魔法学校を経て今に至るまで不仲で有名だ」


 その不仲な公爵の家に招かれて、誰憚ることなく口にする。

 と言うことは、今さら隠してもいないことなんだろう。

 けれど公爵とは言えまだ継嗣として社交界にも出ていない子供の非礼を、何故お父さまは叱らないのだろう?


「頻繁なお茶会に、何か裏がありそうですね」

「エリオットもそう思う?」


 対外的には従者として気配を殺してるエリオットは、お父さまが私から離れてようやく声を出した。


「エリオット、私はここでお茶を貰っているから、あの二人が何処へ行ったか探ってくれないかしら?」

「あのような礼を弁えぬ者など放っておくべきです」


 従者が口答えするよ。

 うん、エリオット振り返ってみたら目つきが険しい。

 どうやら私以上にジョージとアンドリューの非礼に怒ってるみたいだ。


「お父さまがご指摘なさらないなら、状況を知らなければ下手に動けないでしょう」

「…………承知いたしました」


 普通にあの二人に近づくためにお願いしても聞いてくれないと思ったけど。

 なんでそんな含みのある笑い方するの?

 別に弱みを握って来いなんて言ってないからね?


「それにしてもあの二人…………」


 私はジョージとアンドリューが去っていた方向を見て、短い邂逅で感じた印象を反芻する。

 一方的に言って去ったジョージに、微かな気づかいの見えたアンドリュー。


 …………どうやら、ゲームとは性格が違うようだった。



十話まで毎日、十二時更新

次回:お茶会カモフラージュ

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