↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/287

47話:スイーツ巡り

 スイーツ巡りの日、私とアリスは鏡の前で笑いあった。


「可愛いわ、アリス。そういうふんわりした服装が似合うなんて素敵ね」


 アリスが着てるのはドレープの多い白いドレスにピンクのスカートを重ねている。

 いつもは貴族の子女らしく帽子で飾るところを、今日はシニョンにしてリボンを結んでる。


 商家のお嬢さんにしてはお上品だけど、恰好だけは商家のお嬢さん風だ。


「シャノンもその髪型可愛い。でもボンネットちゃんと被れる?」

「うん、大丈夫」


 私は青いリボンでツインテールにした頭に、幅の狭いボンネットを被った。

 着ているのは黒いシャツに青いスカート。

 さらに上から黒いワンピースを重ねて、腰には大きなリボンを結んでる。


「ばれないかしら?」

「ばれてもきっと大丈夫よ」


 私の不安にアリスは笑う。

 よく考えればお互い目立つ色を生まれつき持ってた。

 私はこの紫の目、アリスはストロベリーブロンドの髪がある。最初からばれないわけがない。


「そうね。変装してればきっとお忍びだとわかってくれるわね」

「えぇ、指摘する無粋はしないわ。みんな優しい人たちだもの」


 そんなことを話しながら、私たちは部屋を出る。

 玄関に向かえば、待っていたエリオットもチャコールグレイの地味な奉公人風のジャケットを着ていた。


「お嬢さま方、一度裏へご足労願います」


 エリオットの案内で、私たちは玄関から出て裏門へ向かう。

 そこには素っ気ない、貴族屋敷には似つかわしくない馬車が停まっていた。


「やぁ、可愛らしい商家のお嬢さんたちだ」


 馬車の横で待っていたオーエンは、商人風の出で立ち。

 濃緑のジャケットにベスト、真っ白なクラバットに、実用的な革のベルトをしている。


 黒幕との行動は警戒しなきゃいけないけど…………ちょっとこのお忍び感、楽しい。

 私は浮かれすぎないよう自制しつつ、四人で馬車に乗り込んだ。


「それじゃ、エスコートは任せてもらおうかな」


 オーエンは胸を張って言いつつ、港へ入る前にベリー系のチョコの新作を売る店に馬車を止めた。


「これ、ホワイトチョコね」

「むむ、知らないと思ったのに良くご存じで」

「今一番新しいチョコよ、シャノン。良く知ってたわね」


 私が目を輝かせると、オーエンは悔しそうに拳を握る。

 アリスも初めて見たんだとか。


 えー? ホワイトチョコって新しいものなの?

 あれ、そもそもホワイトチョコってどうやって作るんだろう?

 チョコレートはカカオから…………どうするのかしら?


「この後も食べるのですから皆さんほどほどに」


 考えながらチョコを口に運ぶ私に、エリオットが注意を促す。

 ホワイトチョコの店を後にすると、もう一つオーエン一押しのアーモンド入りチョコの店に行ってから港へ到着した。


「せっかくのスイーツ巡りがチョコばかりじゃ面白くないからね」


 そう言うオーエンは、港ではピスタチオのパイのようなものを食べさせてくれた。


「これは大陸の東から伝来したお菓子で、ピスタチオ、アーモンド、ヘーゼルナッツがふんだんに使われているんだ」


 オーエンのうんちくを聞き流して、私は頬を押さえて堪能する。


「うーん、美味しい! 私これ好きよ」

「コーヒーに合うね。ナッツの香ばしさがいいなぁ」


 小さなカップで濃いめのコーヒーを飲むアリスは、可愛い見た目とのギャップがちょっとかっこいい。


「…………甘すぎませんか?」


 すでにエリオットは胸を摩ってた。


「変わり種の次は馴染み深い物にしよう。そう、クリームたっぷりのシフォンケーキだ!」

「素敵! 紅茶はあるのかしら?」

「あ、もしかしてチョコレートクリームを添えるあそこ?」

「はっはっは、ご名答!」


 オーエンは生き生きと私たちを次のスイーツに案内する。

 比例するようにエリオットは店を回るごとにげんなりしていた。


「君、本当に甘いもの駄目だったんだね」

「僕は普通です」


 気づいたオーエンに、エリオットは渋面で言い返す。

 笑って流したオーエンは、そんなエリオットを引き摺るように次の店へと向かった。

 龍の踊る門構えは中華風…………。


「不思議なお店。もしかして、東の海に近い国のお店?」


 どうやら中華はアリスに馴染みがないらしい。


 ゲームには中華系キャラがいた。

 だからこの世界にもそういう国があることはわかっていたけど、こんな中華街の門みたいなものがあるなんて。


「ほーら、さすがにお嬢さま方もこれは知らないだろう? 餡子という豆を甘く煮たお菓子だよ」

「豆を甘くするんですか?」


 エリオット、見るからに拒否反応を示してる。

 こっちではスープとかに入れるしょっぱいもののイメージなんだろうね。


 ただニグリオン連邦だとお米は甘いプディングにするから、私からすると…………うん、そういうこともあるんだと思っておこう。


「いただくわ」

「シャ、シャノン?」

「お嬢さま…………」


 何故か固唾を飲んで見守られる。

 いや、二人も食べようよ。

 見た目は月餅っぽいし。たぶん普通に食べ物だよ。


 私は見られながら最初の一口を咀嚼した。


「う…………く…………」

「お嬢さま、吐いてもいいですよ」

「いえ、ちょっと、口の中の水分を取られてしまって」

「あ、ごめん忘れてた! すいません、お茶!」


 オーエンも慌てて店員に声をかける。

 貰えたのはウーロン茶?

 あ、ペットボトルのウーロン茶とは全然違う。美味しいしさっぱりする。


「これ、餡子の中にクルミが入ってるわ」

「シャノン、食べられる? 私、この舌触りと豆の匂いがあまり…………」

「そうなのね。私は甘くて美味しくいただけるわ。あ、エリオットも無理に食べなくていいわよ」

「面目ありません、お嬢さま」

「餡子が駄目ならこっちの蓮の実どうぞ」


 合わないエリオットとアリスに、オーエンはめげずに甘納豆みたいなものを出して来た。

 説明によると、豆ではなく本当に蓮の実というものらしい。


 そんな寄り道を繰り返して、ようやく私たちは目的の船の見える商館へとやって来た。


「全力で楽しんじゃった…………」

「お嬢さま…………完全にあの不審者の掌の上ですよ」


 商館から船を見て、私が思わず呟くと、エリオットが力なく答える。

 アリスが商館でお土産を選ぶ間、オーエンに任せて私はエリオットと外に出ていた。

 甘い匂いがきついというエリオットを誰も疑わない。まぁ、実際顔が渋いしね。


 というわけで、ここにきてようやく私たちはオーエンの目から逃れたのだった。


「あら、あれは…………」

「旦那さまとロバートさまですね」


 どうやら今日も港の視察を行っているらしい。

 俯きがちに話し合う姿に、私は無言でエリオットと頷き合うと、気づかれないよう二人に近づいた。

 言葉にしなくてもわかってくれる安心感に、私はお父さまとお兄さまの声を拾おうと集中する。


「…………あぁ、少なくとも子供のことに関しては本気なのだろう」

「だからこそ、高度な魔具を欲して、とも考えられますが」


 普段私に聞かせることのない真剣な声で話す二人。


「だがなんの証拠もない現状、問い質しては友情を壊すだけになりかねない」

「疑ったままつき合うのは辛いと、お母さまもおっしゃっていたでしょう」


 お母さま?

 友情ってアリスの母親との?

 つまりお父さまがいう子供はアリスのこと?


「わかっている。ルール島を預かる者として、不正な手段での持ち出しを許すわけにはいかない」

「まだここが一時的な経由地として利用されている可能性も残っています」


 これは…………!

 やっぱり密輸が起こってるの? ゲームに繋がる事件が今まさに起きてるの?


 私は耳を済ませながら迷う。

 密輸を止めるとゲームの本編が始まらない可能性がある。そうなると、私に残された道は死亡フラグの乱立するイベントばかり。

 けど真剣なお父さまとお兄さまを見ないふりなんて…………。

 いや、そもそもオーエンがいるのが…………。


「あ! そこにいた!」


 突然上がったオーエンの大声に、私は跳び上がった。

 もちろん、お父さまもお兄さまも私とエリオットに気づく。


「もう、いなくなるからどうしたのかと! あ…………」


 オーエンもお父さまとお兄さまに気づいて、気まずそうな声を漏らす。


 気づいた時にすでに遅く、私の盗み聞きとオーエンの職務怠慢がばれました。


隔日更新

次回:海上の聖女の荷物改め

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。