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39話:占いの魔法

 いつの間にかエリオットが整えたお茶とお菓子を挟んで、私とアリスは向かい合う。


 …………そうか、これがエリオットの隠蔽の異能。いつの間に用意されたか気づかなかった。

 ごめん、エミリー、ブレンダ、ケリー!

 お菓子は美味しくいただきます!


「アリス、あなたはこのエリオットに何も感じない?」

「…………わからないわ。シャノンがそう言うのなら、魔法使いなの?」

「そうよ。エリオットはわかる?」

「お嬢さまのようにはいきませんが、それでも魔力が漏れているのは感じられます。…………もしや、魔法を扱う教育を受けたことがないのでは?」


 頷くアリスに、私は目に力を籠めてみる。

 魔力が漏れてるってなんだろう? ゲームアイコンはしっかり表示されてるけど。


「魔法の素養があるのに、教育が施されないことなんてあるものなの?」

「国外では魔法の師を捜すことが難しくなりますので。僕も侯爵家へ行く前は魔法を使う方を見たことはありませんでした」

「あなたはニグリオン連邦出身ではないの、従者さん?」

「はい、アリスお嬢さま。生まれが国外で、親がニグリオン連邦の者です」


 エリオットの答えに、アリスちょっと考える。


「ニグリオン連邦でどのような教育がなされるのかは知らないけれど、私の両親は魔法使いじゃないの。それでも魔法使いが母の友人にいらして、相談はしていたけれど」

「それはもしかして私のお母さまかしら?」

「たぶん、そうだと思うわ。今日魔法使いの方がいらっしゃると聞いていたから」


 どうやら魔法使い自体が珍しいクラージュ王国では、家庭教師が見つけにくいらしい。

 ましてや属性に応じたとなると、さらに数が限られる。

 我が家の家庭教師のように、研究者の横の繋がりでどんな属性でも対応可能という魔法使いはもはやニグリオン連邦にしかいない。


「アリス、私は相手の属性がわかるのだけれど、あなたは占属性よね?」


 そして援護適性だ。

 私の指摘に驚いたアリスは、迷った末に小さく頷いた。


「自分の属性は自覚しているのね。占属性で家庭教師もいないのは大変でしょう?」

「え…………?」

「力の制御が効かなくて日常生活にも支障をきたすって、えーと、属性について私も色々な文献に当たったことがあるから見たことがあるの」


 実際聞いたことがあるというか、ゲームの占属性のキャラの中で、その力に翻弄されるという攻略対象がいた。

 自分しか知らない未来に苦悩するタイプで、ヤンデレになってるキャラとか。

 逆に自分の力を気軽に捉えるネタキャラもいたので、全員が全員悩んでると言うわけではないだろうけれど。


 ゲームでは占属性は風属性の派生。先制攻撃やクリティカル率アップなど、主力にはならないけれど小器用な属性だった。


「そんな書物が子供の読める場所にあるの?」

「あ、普通高価な本は触らせてもらえないのよね。たぶん我が家だからということはあるわ。魔法関係の文献は多いし、私はちょっと才能があるそうだから特別に読んでいいと言われているのよ」


 もちろん、私が全属性とわかってから許可が出た。

 その上、派生属性に関する書物は半年前から増やされている。


「アリス、占属性に興味がある?」

「もちろん」


 必死ささえ窺えるアリスの同意に、私は痛ましさを覚えた。


「そう、辛かったのね」

「え?」

「わからないことは悩ましいでしょう。悩ましさが続けば苦しいわ。苦しみが積もれば辛くなる。違う?」


 アリスは茫然と私を見つめ、いつの間にか前のめりになっていた体を椅子に戻した。


「…………そう、私、辛かった」


 アリスは呟くと、もう一度椅子から身を乗り出して、私の手を握る。


「嬉しい、私、始めて他人にわかってもらえた気がする」

「アリス…………」

「お父さまもお母さまも、魔法がわからなくて。私が何を見て感じているかが全く伝わらなかった。私だけがわかっていても、誰もわかってくれなくて」

「そう。アリスはどんな魔法を使うの? 同じ属性でも、魔法の発現の仕方は人それぞれなのよ」

「そうなんだ…………。私…………未来が見える」


 おぉ、セオリーだけど悩ましい力だね。

 たぶん何も知らないならすごいとか、便利とか言ってたと思う。けど、今の私ならアリスの辛さが理解できる気がした。

 だって、私も『不死蝶』の未来を知っているから。


 私は勝手にシンパシーを感じてアリスの手を握り返した。


「アリス、私とお友達になってくれないかしら?」

「…………も、もちろん、喜んで!」

「良かった。私、同性のお友達が欲しかったの」

「え…………」


 アリスは驚いたように私の手を離す。

 どうしたんだろう?

 …………は!? この年になって友達の一人もいないと思われて引かれた!?


「わ、私、男の子の友達しかいなかったから! その、全く友達がいないわけじゃないのよ!」

「…………ふ、ふふ。大丈夫。私も同性のお友達いないから。それより、シャノンは魔法学校に行くのよね?」

「その予定よ。アリスもそう? だったら入学までの楽しみができたわ。お友達と一緒に学校生活を送れるなんて嬉しい」

「まだ私、ルール島の魔法学校について詳しくないんだけど…………ついていけるかな? 魔法を使う学校というのは、怖い所ではない?」


 あ、家庭教師いないから魔法が不安だよね。

 座学も受けてないだろうし。言語だって違う。


「それなら、滞在中は私が教えるわ」

「お嬢さま…………」


 さすがにエリオットが口を挟んでくる。けど、私だって同じ轍は踏まない。


「大丈夫、強い魔法は教えないから。基礎の、座学的なところだけよ」

「せめて旦那さまからの許可を得てからにしてください。本来、魔法を教えるというのは魔法学校にのみ許された権利ですし、教える者も魔法学校からの認可が必要となります」

「そうなのね。でも私は…………いえ、アリスは後悔しないために学ぶべきだと思うわ」

「後悔しないため?」


 私を制止しようとしていたエリオットも、動きを止めた。


「アリスは、魔法が怖いんじゃないと思うの。何も知らずに何もできずにただ過ぎていく、ただ失うことが怖いんじゃないかと思う」

「お嬢さま?」

「おかしなことを言っているのはわかってるわ。でも、時間は有限だもの。今できることがあるならやっておかなきゃ後悔するでしょ」


 不安そうなエリオットに笑いかけると、アリスは溜め息のように呟いた。


「シャノンは、すごい人ね」

「アリス?」

「後悔しないために魔法を学んだから、船から飛び出せたの?」


 海上の聖女と言われる話に戻って、私は苦笑いを浮かべた。


「違うわ。もっとずっと自分勝手な理由よ。せっかくの家族旅行なのに、大好きなお兄さまが落ち込むのが嫌だったの」


 目を瞠るアリスの反応は、呆れたからかもしれない。

 でも本心だ。もちろん献身的な善意でもない。


「それに助けられると思ったから助けたわ。できないと思ったらやってなかったのよ」

「できると思うだけの研鑽があってこそです、お嬢さま」

「こういうことで褒めないで、エリオット。危険なすぎるとお父さまたちにはお叱りを受けたのだから」

「ではいつお嬢さまの素晴らしさを讃えればよろしいですか?」

「え、うーん…………もっと正しい気持ちで、正しいことをやった時?」


 そんな解答に、私も含め三人で首を傾げる。


「助けようと思ったのは正しい気持ちじゃないの、シャノン?」

「でも、あの令嬢を思ってのことじゃないし、見捨てる選択もあったもの」

「それでも他人を思って行動を起こしています。正しいことを行ったと言えるのでは?」

「他人ってお兄さまよ? そこは自分の気持ちに忠実なだけだと思うわ」


 なんていうか、もっとこう…………なんだろ?


「…………私たち、なんの話をしてるの?」

「お嬢さまが素晴らしいと」

「エリオットは黙って。アリス、もっと楽しい話をしましょ」


 真面目な顔でおかしなことを言いそうなエリオットを制すと、アリスは口元を押さえて笑う。


「ふふ、私は楽しい。でも、そうね。シャノンはどんな話が楽しいかしら?」

「せっかくなんだからもっと可愛い話がしたいわ」

「可愛い話? 可愛い…………うーん、例えば?」

「なんだろう? えー…………恋の話とか?」

「え、シャノンは好きな人がいるの?」


 わー、アリスの目がきらきらしてる。

 そしてエリオット、そんなあからさまに聞き耳立てないで。


「いないのよね。だから逆に憧れるわ」

「そういうもの? だったらかっこいいと思う人の話なんてどう?」

「かっこいい? うーん、お兄さまとか?」

「かっこよくありません」

「エリオット、待機」


 命じたら、エリオットは壁際まで退く。

 そのやり取りを見て、アリスは声を漏らさないよう俯いて笑う。


「ほ、本当に仲がいいのね。すごく、息がぴったり」

「お兄さまより兄弟のように育ったかもしれないわ」

「…………お嬢さま」


 エリオット、なんで落ち込むの?

 そしてアリスが笑って震えてる。涙まで拭いてるよ。何処がつぼったの?


 まぁ、友達が楽しいならいいか。


隔日更新

次回:アリスの見る夢

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