表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

281/287

24話:王子の目覚め

 クダギツネが魔力炉を中心にした魔術儀式乗っ取りに成功した。

 けれど吸血鬼に攫われた仲間を助けなければ脱出できないことがわかり、すぐさまの解決には至らない。

 地下の部屋には幾つもの魔法陣が光りを放ち、全ての停止には手順が必要なようだった。


「まずは二人!」


 クダギツネが宣言した。

 すると停止して光を失う魔法陣があり、二人という言葉に嫌な予感がする。

 肯定するように、天井近くの壁に吊るされていた体が不穏に揺れた。


 揺れたのはエリオットとウィリアム。

 気づけたのは魔力炉から離れた位置で動いている私とオーエンだけ。


「これはまずいなって、え!? ちょっと!? シャノンくん!」


 私に迷う暇はない。

 二人はすでに落ち始めている。


 私とオーエンの間にあまり殺傷力のない風の魔法の塊を作る。

 発動すると同時に、銀色の縄で繋がれた私たちは一緒に吹き飛んだ。

 そこまでは狙いどおりだったのだけれど、体勢が整えられず助けるどころか二人して壁に衝突しそうになった。


「この! 乱暴だな!?」


 オーエンは電撃を壁に放って方向を調整する。

 そのまま近いほうのウィリアムを落下中に掴んだ。


 私は落ちるエリオットに向けてオーエンへまた風魔法をぶつけた。

 進行方向の問題なので許してほしい。


「うえぇ!?」


 あ、ウィリアムに気を取られていたオーエンのみぞおちに入ってしまったわ。

 ごめんなさい。わざとだけれど、わざとじゃないの。


 心の中では謝りつつ、私たちは落下するエリオットの下に飛び込んだ。


「ぐぅ!? ぐふぉ…………! ひ、酷い目に遭った」


 私と一緒に押しつぶされるオーエンの文句は、申し訳ないけれど聞いている暇がない。


 邪魔者の排除はまだ終わっていないのだから。


「うわ、元気だねぇ」


 銀色の縄で繋がったオーエンは、私の動きに引っ張られる。

 さすがに痛むのかすぐには動かない。

 ただそれが無抵抗故に攻撃対象にはならず、私の重しと化していた。


「ちょ!? お嬢がきたっす!」

「オーエン!」


 ミックの声にお兄さまが気づいて叱責するように呼ぶ。


「はいはーい。ここ無事に脱出できたらお手当欲しいなぁ」


 冗談か本気わからないけれど、私に攻撃する姿勢は本気だ。


 同時に、邪魔者排除の命令で反応が遅れた。

 無抵抗で引き摺られていたオーエンは、排除対象外になることを見越してしていたのかしら?


「大人しくしてよ、シャノンくん」


 繋がっていないほうの手で麻痺攻撃が放たれる。


 防御をし損ねて私に攻撃が通った。

 そう思った瞬間、オーエンの手を包み込む炎の壁が現われる。

 放たれた麻痺攻撃を燃やし尽くすようにして炎は消えた。


「お嬢さまに何をする気ですか!?」

「熱…………。えー、ここでぇ?」


 意識を取り戻したエリオットが反射的に私を守ってしまったようだ。

 嬉しいけれど、これは喜ぶべきではないわね。


 オーエンはぼやきながら攻撃態勢を整えた私に応戦する。

 エリオットはまだ立ち上がれもしない。

 けれど片腕を伸ばして私を助けようとしていた。


「待て! ルール侯爵令嬢は吸血鬼の配役で操られているんだ!」


 そこにマリアから預言を聞いていたウィリアムがエリオットを止めに入る。


「お嬢さまが!? ではオーエンは止めようと…………?」


 ルールブックだけを読んでほぼ状況がわからず攫われたエリオットは、改めて囚われた仲間や、アンリを押さえてオーエンを咎めないお兄さまを確認した。


「あぁ、こっちのマウリーリオも、たぶんそうだろう。それで、あっちは?」


 耳を押さえて苦しむマオに意識を逸らして、ウィリアムはオーエンの邪魔をしないよう誘導するらしい。

 銀色の縄で繋がれて害がないのは見てわかる。


 ただウィリアムでも判別がつかないのは魔力炉周辺の者たちだ。

 エリオットも言われて、お兄さまを信用できない状態であることに思い至る様子。

 二人の表情には探るような色が浮かぶ。


「左右の二人止めるっす!」


 ミックが端的に答えた。

 遅れて意識を取り戻している姿に気づいたお兄さまが命じる。


「エリオット! シャノンはオーエンに任せろ!」

「え、若さま! こっちも手一杯なんですけど!?」

「シャノンは手加減できているんだろう? 持ちこたえろ!」

「ひとづかいあらいなぁ!」


 オーエンはやる気なさそうに文句を吐く。

 けれど命じられたとおり私を釘づけにして魔力炉へ近づけさせない。


「く…………! お嬢さまに傷をつけることは許しませんよ!」

「だから無茶だってぇ」


 お兄さまに言われてエリオットは、ウィリアムと魔力炉へ走った。

 オーエンの嘆きを取り上げる者はいない。


「ロバートさま、状況は!?」

「ともかくシリルと帝国の殿下をこの魔力炉から引き離せ!」


 適性の相性としては防御のアンリに援護のお兄さまは合わない。

 攻撃のミックのほうがアンリの防御を崩せるけれど、援護のシリル相手に魔法攻撃をするわけにもいかず腕力頼みになっていた。


 そこに防御適性のエリオットと攻撃適性のウィリアムが駆けつける。

 すぐに相性の合うほうへ二手に別れた。


「シリルさま、失礼します!」

「邪魔をしないで!」


 エリオットがすぐに炎上網でシリルの足止めを試みる。

 防御適性の炎はシリルを押しのけるためだけに、一瞬燃え上がって熱波を当てた。

 反射的に目を閉じ怯んだシリルを、ミックと二人がかりで魔力炉から引き離しにかかる。


「押さえ込みますのでその腕の縄を!」

「うっす!」


 ミックが巻き付けていただけの縄をほどいて、シリルのもう一方の腕を縛る。


「それでは私はお嬢さまをお助けに行きます!」

「え、早!?」


 シリルをミックに押しつけ、すぐさまエリオットが私のほうへ走り出した。


 お兄さまとウィリアムはアンリの作る防御を破壊しながらようやく腕を掴んだところ。


「こっちを手伝ってもいいだろう!」

「ここからどうするのか聞いても? 本人は許すでしょうが、見るからに縄目がつくのはあまり良くない」


 お兄さまが文句を言うと、ウィリアムはアンリを傷つけないようにしながら押さえ込みつつ防御適性の魔法を破壊し続ける。


「東方の精霊が魔術儀式に介入している。どうも助かるには捕まっている者たちを解放する必要が、あ」

「落ちる!?」


 二人がかりで余裕のできた中、説明しながらお兄さまがマリアを見上げた。

 ちょうどその時、マリアが束縛から解放されて落下を始める。

 ウィリアムはアンリを放り出して走った。


 マリアが床に叩きつけられる直前、滑り込んだウィリアムが抱きつくように庇って二人揃って床を転がる。


「う、うぅ…………」

「マリア! 大丈夫か?」

「ウィル? ここは…………?」


 どうやらマリアは無事なようだ。

 突然また一人で対処を余儀なくされたお兄さまは、アンリに勝る腕力で抑えつけるしかない。


 そこにミナミが警告を発した。


「もう一人落ちます!」


 クダギツネを守るため動けないミナミの視線はジョーに向いている。


 ウィリアムはすぐに立ち上がって落ち始めたジョーの下へ走った。

 マリアも咄嗟に援護適性の魔法でウィリアムを補助する。

 マリアのお蔭で今度は無茶な飛び込みもせず、無事にジョーを助けることができた。


「シャノンくんを解放するにはどのくらいかかるんだい!?」


 オーエンが聞くと、クダギツネが無情な答えを返す。


「そっちはこの場から脱出しなければ無理だ!」

「辛抱してください!」


 ミナミの言葉にオーエンも苦笑するしかない。

 その顔は間近で起こした爆発や電撃のせいで傷だらけ。


 私は邪魔者の排除のためと理由をつけて、コンディションを整える名目で適宜治せるけれど。

 オーエンが一人、消耗戦を強いられている状態で申し訳なくなる。


「お嬢さま! 失礼します!」


 エリオットが私の背後から三方を炎で覆う。

 動きが止まったところにエリオット本人が炎の壁を突き破って背後に現れた。


 そのまま後ろから抱きついて私を止める。


「痕が残らないようにでしたら麻痺させても見逃します! その無粋な縄を解いてください!」

「ちょっと、嫉妬強すぎない!? シャノンくんの耐性硬いのに!」


 エリオットに睨まれながらもオーエンは攻撃の構えを見せる。

 腕力の差で私は逃げられない。


 攻撃は怖い。

 けれどもう傷つけずに済むと思うと安堵もする。

 気持ちの上では背後のエリオットに体を預けて、私はオーエンの攻撃を甘んじて受けようとした。


毎日更新

次回:排除から抹殺へ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ