16話:狐と吸血鬼
魔術儀式に十六人で閉じ込められ、エリオット、マリア、マシュ、ジョー、マルコの五人が消えた。
残り十一人は、司祭を名乗るのはアレクセイとシリル。
双子の配役を持つオーエンとフィア。
私にだけウィリアムが巫女の配役であると告げている。
配役がわからないのは吸血鬼二人と術師、魔法使い、そして悪魔祓いもまだいるかもしれない。
「そろそろ吸血鬼一人くらい見つけたいね」
成果のない探索を終えて、オーエンが気楽に言った。
サロンに戻った誰も、その発言に異議はない。
確定の双子が進行を受け持ち、フィアが提案をした。
「司祭に洗礼されてない人、縛る?」
現状、白黒ついてない上に黒と言われる吸血鬼はまだ見つかっていない。
だったら洗礼されていない中に吸血が一人は混じっているだろう。
洗礼されていないのは私、お兄さま、ミックの三人だけだ。
アンリ、ミナミ、マオ、ウィリアムは司祭二人から違うと言われている。
「つまり、どちらかわからない人たちを縛っていなくしてから、司祭の真偽を判断するの?」
「残ったのは僕たち三人だから、一人縛れば次に目覚めた時全員に司祭のどちらかが洗礼したことにできるね」
縛られる可能性のある私とお兄さまで検討する。
こうして考えると、思ったよりも司祭による判別は進んでいた。
色々なことに気を取られ過ぎてやっぱり思考が鈍っているようだ。
「アレクセイが違うと言ったのは、アンリ、ミナミさま、ウィリアム殿下ね」
「シリルはミナミ・ヤマト、マウリーリオ・デ・イルヴェチオ、そしてオーエン」
考えを纏める私にお兄さまも司祭の洗礼結果を上げる。
するとオーエンが手を叩いた。
「兄妹仲がいいのはいいですけどね、あまり進めるとミックが役立たずすぎて縛る確定しますよ」
「え!? …………何も、言えないっす」
聞いているだけしかできなかったミックは、考えても意見がでてこないようだ。
そんなミックを眺めて、シリルが大きく溜め息を吐く。
「役立たずって言ったら私もだよね。吸血鬼当てられないし」
「役立たずよりも悪い、妨害だ」
アレクセイが喧嘩腰に文句を言う。
本物の司祭からすればそうでしょうけれど、二人とも吸血鬼を見つけられていないのでほぼ言いがかりだ。
私から見れば配役を白とどちらも当てているのだけれど、ウィリアムの告白があったせいかアレクセイ寄りに思考が傾く。
シリルよりも言動はアレクセイのほうが怪しいけれど、その分裏がなさそうな気がした。
うがちすぎなのかもしれないけれど。
「洗礼、魔女シャノンと兄をすべき」
フィアが私たちの名前を上げる。
「あぁ、そう言えばミックという彼は操られているようには見えないんだったね。だとしたら、逆に確定のため先に洗礼させるべきじゃないかな?」
アンリが指定の意図を悟って提案をする。
「でも、司祭の二人もそうは見えないのがね。偽物が二人だとしたら洗礼に意味はないだろう。どちらかと言えば僕のことを違うと言ってくれたアリスを信じたいけど」
支持を表明するマオに、劇団の偽名で呼ばれたシリルは手を打った。
「だったらもう先に司祭を縛ることにする? 残り縄が六本でしょう? 吸血鬼かどうかわかってないシャノンたちと司祭を名乗る私たちで四本。吸血鬼一人は確実に縛れて、残り二本だしまだ」
「なんでだ!? 僕は嫌だね。君が縛られたいなら好きにすればいい」
アレクセイが遮るように反発すると、シリルは難しい顔で呟いた。
「ここはみんなで協力しなきゃとは思うし、操られて可哀想と思うけど、なんだかな」
「相変わらず元気に我儘。信用失くすことしてる自覚ない」
「なんだと!?」
一度入学前に会ったことのあるフィアの容赦のない指摘に、アレクセイはまた激昂する。
オーエンが手を振って止め、意見を上げた。
「司祭を縛る前に、配役を伏せている人を名乗り出させるほうがいいと僕は思うんだけど?」
「悪魔祓いは真っ先に狙われる。それは吸血鬼に利するだけだ。名乗り出るのを待つほうがいい」
ウィリアムが反論している間に、ミックが私にこっそり聞く。
「あの王子さま、自分が誰も当ててないも同然なのわかってないっすか?」
ミックから見ればウィリアムも真偽不明なので、双子のオーエンの無実をを当てたシリルが優勢なのだろう。
「アレクセイは自分が正しいと思えば真っ直ぐだから」
「どっちにしても、今回縛られるのって俺じゃないっすか? いても有意義なことできないっす」
ミックがしょんぼりすると、ミナミが声を上げた。
「では一つ試みましょう」
視線が集まる中、ミナミは銀色の縄に近づき一本を手に取る。
「私は生贄の配役です。ですが、クダギツネという異質な存在を連れて来た、魔術儀式を破壊しかねない異物でもあります」
「精霊が儀式に介入してるみたいだし、そうなんだろうね」
オーエンがルールブックを持ち上げて頷いた。
するとクダギツネが、器用にミナミの肩を移動して話す。
「実はな、我は人間が意識を失っても目覚めているのだ」
「…………え!?」
クダギツネの大変な暴露に、ウィリアムが声を上げた。
「ちょっと待ってくれ! つまり君は誰が吸血鬼か見られるのか!?」
「それが上手くいかぬ故、こうして喋っておる。気が早いぞ」
窘められてみんなは耳を傾けるしかない。
「その、起きてはいてもクダギツネも私と一緒に部屋に収容されてからは部屋を出ることができないのです。今まで吸血鬼が来ないかと待ってはみたのですが」
「確かに良く発言してた。特別なことも隠さなかった。吸血鬼、怖がるから、襲われそうと思った」
フィアの肯定にクダギツネも髭を揺らして肯定する。
「うむ、だが実際はどうだ? 吸血鬼め、怯えて我の元には現われぬ」
「考えられることとして、吸血鬼側が精霊を取り込め切れていないことを自覚している可能性があるのではないかとクダギツネと話していたのです」
「確かに魔術儀式の完成のために襲うのが吸血鬼の配役だ。そこに異物を混入させて魔術儀式事態を壊されるのは避けるべきだろう」
お兄さまの言葉にミナミは指を一本立てる。
「えぇ、ですから一つ実験をしようと思います」
「何をするというんだい? そのクダギツネという精霊も部屋から自由にはなれないんだろう?」
疑うようなマオにクダギツネが前足で口元を押さえた。
「何、向こうから来てもらえばいいだけのことよ。その銀色の縄でミナミを縛ってな」
「う…………わぁ…………」
ミックが呆れたような感心したような声を漏らす。
つまりミナミを餌にクダギツネが吸血鬼の姿を見るというのだ。
なんて反則技を考えつくのかしら。
「ねぇ、それって今まで言わなかった分、何か悪いことあるんじゃないの?」
慎重に聞くシリルに、ミナミは苦笑を返す。
「どう連れていかれるかで、私だけが消えるか、クダギツネも一緒に消えるかがわからないところです。攫われるというなら物理的に私だけなのでしょうが」
「だが、こんなふざけた隔絶空間を作る手合いよ。部屋ごと空間内から切り離す形で攫われては縛られ損であろう」
結果は不明。
上手くいけば一気に解決する。
けれど失敗すれば双子以外で生贄側のジョーカーと言える人物を損なうだけになる。
フィアは素直にオーエンへ委ねた。
「どちらがいいかわからない。でも、早く終わるならそれがいいと思う」
「そうだねぇ。正直そんな反則技できるなら結果に興味がある。ここは多数決にしようか」
オーエンの呼びかけでミナミを縛るかどうかの多数決が行われた。
一人ずつ、賛否と共にそう思った理由を求められる。
オーエンと目の合った私から指名された。
「反対よ。アーチェが脱出方法は示してくれたのだから、安全に行きたいわ」
「私はいいと思うよ。次にはほぼわかって私の仕事も終わるから」
「俺も、特には。やってもいいんじゃないかと。それとも俺が縛られたほうがいいっすか?」
「君はほぼ白だと思う。ミナミ・ヤマトも同じなら、縛るのはどちらも変わらない。僕はいいと思う」
私とは違って賛成するシリル。
ミックは迷いつつ、お兄さまも賛成。
オーエンは次にアレクセイの意見を聞いた。
「もうすこしで見つかりそうなのに、変に掻き回すことされても迷惑だ」
「僕も不安が強いから、反対かな。何が起こるかわからないだろう?」
「そうだね。現状では心配のほうが強くなってしまうかな」
反対するアンリにマオも同意見のようだ。
そこにウィリアムが賛成意見を上げる。
「現状、手詰まりな部分がある。やってみるならいいんじゃないか?」
「反対四、賛成四。おや、同数か。僕はやってみるほうで」
オーエンがフィアを見ると、頷いたことで反対四、賛成六。
ミナミを縛ることに決定した。
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