12話:アウトローの攪乱
マルコの突然の告白に、みんなが耳を傾ける。
出ているのは司祭と偽物だけの中、いったいどんな配役であると言うつもりなのか。
「俺が悪魔祓いだって言っておくぜ」
「はぁ!? なんだその言い方!」
アレクセイの言葉はみんなの総意だった。
けれどお兄さまやオーエン、アンリは真剣に考え込む様子をみせる。
ふざけているとしか思えないマルコの発言の真意を計っているようだ。
「俺が縛られるってなってるのに、そこでそんなこと言われると俺が吸血鬼で、庇うために術師が嘘言ってるみたいなんだよなぁ」
ジョーが困ったようにぼやくと、シリルも頷く。
「海賊さんは洗礼してないからわからないし、ジョーを飛び抜かす勢いで怪しくなったよ」
「いや、そうでもないんじゃないかな? けど、これは賭け? うん、でもこうなると…………」
アンリが迷いつつ呟き、尻すぼみになる。
その後をウィリアムが続けた。
「悪魔祓いは吸血鬼からすればすぐに排除したい配役だ。けれど術師であるなら自陣営。残すべき配役になる」
「確かに。吸血鬼からしても怪しい立ち振る舞いとなれば、翻って生贄側という疑いも残るのね」
私の肯定にフィアが疑問を呈す。
「でも吸血鬼、誰が吸血鬼かわかる。違う人間庇うなら、術師じゃないとわかる」
「そこは術師が吸血鬼を把握していないから、矛盾はあっても流せる程度かな。術師は吸血鬼を把握していないんだ。別の者を吸血鬼と目したことがすなわち術師ではないという証明にはならない」
オーエンが言うのはこうだ。
術師のマルコがジョーを吸血鬼だと思って庇ったとする。
けれど他に二人いる吸血鬼は、お互いでジョーが吸血鬼ではないとわかる。
だからと言って、マルコ以外に術師らしい動きをする者がいない。
マルコは生贄側からも吸血鬼側からも、すぐさま排除すべきか迷う位置に躍り出ていた。
「いやいや、この場合、吸血鬼らしい動きのない彼を庇いに出たこと自体がブラフなんじゃないかな?」
マオは吸血鬼を庇いに出たのではないと推測した。
頷いたのはお兄さまだ。
「発展のない場を掻き回すためか。確かに現状は吸血鬼側にとっても判断材料のない膠着状態だ。そうとわかっていて巫女も出て来ていない。ならここで悪魔祓いを騙っても本物は出てこない。出てくれば配役を露出させるという目的は達成できる」
「あ、そうか。本物が出てくるまでは生贄側にも吸血鬼側にも敵か味方かわからないまま。だったらその時までは襲われないっす」
ミックは敵だろうと味方だろうと、マルコのこのカミングアウトが保身になることに気づいて呆れた。
マルコはどの意見も否定しない。
それこそが怪しく、糾弾の手もないのが現状だ。
「なんだよ、姫さん?」
「…………敵も味方も全員攪乱するってどうなのかしらと思って」
「さーて、お前さんが想定する味方は本当に味方か?」
私を攪乱しようとして、意地悪くそんなことを言う。
「ここで不思議なのは、吸血鬼にも狙われる悪魔祓いを選んだことかな。どうしてか聞いても?」
「おいおい、その言い方だと絶対違うと思ってんだろ」
オーエンの質問に、マルコは大袈裟に嘆くふりをする。
「俺からすればらしすぎるそっちの司祭のほうがどうかと思うぞ? 修道士やってた王子に、未来予知できる魔法使いなんてな」
しかも矛先を変えた。
余計に怪しいけれど、疑いをかけられた二人は黙っていられず言い返すことでマルコの手に乗ってしまう。
「あからさまに偽物な海賊に言われたくない! これも姦計を破り皆を導けとの神のご意志! らしすぎて怪しいなんて性根がひねくれすぎだ!」
「マリアが盗賊だったり、人魚の兄弟が敵対する配役とは言え、らしすぎて怪しいなんて言われても困るよ」
ウィリアムはマルコの表情を観察しながら推論を並べた。
「騙るなら、悪魔祓いがやりやすいというのは想像がつく。巫女が完全に口を閉ざしている以上、今出て来る理由付けがいる。また二人一組の双子は騙ることがそもそも無理だ」
「無理ではないんじゃないかな? すでに消えた三人の誰かが双子の片割れだと言えば」
オーエンの悪知恵に私は目を瞠る。
「あなた、本当にろくでもない知恵ばかり」
「あれ? もしかしてみんな考えつかなかった?」
私の言葉にオーエンはサロンを見回す。
マルコでさえ呆れた視線を向けていた。
「うーん、ここでこの怪しい海賊を縛るよう持って行ったとして、俺って襲われることを回避できる気がしないな」
「ジョー?」
「シャノン、彼は生贄を明言してる。吸血鬼側の術師とか他に配役があったとしても、今までで生贄側の配役を騙らないのは不自然な状況だ」
お兄さまは、それらしいマルコが出たからこそ余計に、ジョーの反応のなさが結託はないという証明になるという。
つまりジョーが敵側の配役であるなら、この場で何かしらの動きを見せる。
それがないということは、襲っても平気な生贄と目されてしまったのだ。
「え、疑われて身の潔白を主張しても吸血鬼に狙われるんすか?」
「安全に、苦労なく狩れる獲物がいるなら狙う。狩りの基本。でも病気持ちはお腹壊すから注意」
ついて行けていないミックに、海底で狩猟生活をするフィアがたとえて言う。
「マルコかジョーが魔法使いという可能性?」
フィアの示唆を言葉にすると、何人かが悩ましげに唸る。
答えの出ない現状に、視線はマルコへと向かった。
「そう、見えるね」
アンリが困ったように肯定すると、状況を理解したミックが思わず素で吐き捨てた。
「え、うわ、めんどくせ」
「おいこら、真面目に考えろ。俺は悪魔祓いだ。ここで縛るなんてのは不利になるだけだぜぇ」
ふざけて親指を立てるマルコはいっそ楽しそうね。
もう場がマルコに持って行かれているわ。
縛られる予定だったジョーも霞むレベルで。
「そういうなら今度はちゃんと悪魔祓いとして答えてほしいな。そうそう、君の部屋にはどんな道具があったのかな?」
マオが探りを入れると、さすがに今度は言い逃れできない雰囲気で全員の視線がマルコに圧をかける。
マルコは少し考えてから、アレクセイを見た。
「悪魔祓いってどんな道具使うんだ?」
「僕に聞くな!」
アレクセイの怒りはもっとも。
「あ、あれはどうだ? 聖書?」
「なんかもう悪魔祓い騙る気ないように見えるんだけど?」
シリルが苦笑する。
けれどマルコは懲りた様子もなく、堂々と嘯いた。
「俺以外に悪魔祓い出てねぇだろ。だったら俺が悪魔祓いでいいじゃねぇか」
「良くない!」
アレクセイが余計に怒る中、フィアが気づいたように手を打った。
「もしかして、部屋見た?」
「フィア?」
「悪魔祓い、もう攫われてる。だから悪魔祓い出てこないと知ってて名乗った可能性」
「そうなると、部屋の位置としてはベルンガ子爵の子、辺りかな?」
オーエンが部屋の近い私を見る。
「わ、わからないわ。マシュは自分から出て来て…………。もしかしたら蝶番のあるドアの隙間から中が見えた、なんてこと、あるかも?」
マルコはマシュの隣の部屋だ。
マシュが出て来る時は二人ともドアから離れていなかった。
「あの、お嬢。そうなると結局、マルコさんはなんになるんすか?」
「術師、なのかしら? 魔法使いならあえて偽物とばれる所を選んで縛られる方法が楽だと思うし」
私がミックに答える様子を眺めて、マルコは他人ごとのように笑っている。
「何? 誰のせいで悩んでいると思っているの?」
「いやぁ、これだけ身分の高い奴ら集まって、俺の言葉一つでこうも騒ぐのを見るのは愉快、愉快」
「性格悪いな! 知ってたけど!」
アレクセイの怒鳴り声さえ楽しげに、マルコは椅子にふんぞり返った。
お兄さまは進行として今後の方針を上げる。
「怪しい。怪しすぎて、縛るのは難しい。これは司祭と同じだ。でも、縛るには惜しい配役でもある。なので多数決を取る。今夜縛る者を選んでくれ。これは全員で助かるために必要なことだ」
お兄さまに反対の声はなし。
そして月が沈む前に縛られたのはジョーだった。
「ったく、度胸がねぇな。さーて、月が沈んだら仕事だ仕事」
マルコがあからさまに、全員を煽る。
けれど、次に目覚めた時、消えていたのはマルコだった。
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