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226話:嘘と誤解

「危ない!」


 マリアを抱え込んで地面を転がると、起き上がりざま魔力をぶつけてアルティスの魔力の守りを剥がす。


「ルーカス! 殿下の体の動きを止めて! そうすればアルティスも魔法を使えない!」

「わかった! ジョー!」

「おう! アンディ、火の処理任せた!」

「全く君たちは!」


 三人は一緒に魔法訓練をした成果で、息を合わせて突っ込む。


 マリアを庇ってアルティスの守りを剥がす私に、近づく足音があった。

 横目に見ると、深刻な顔をしたアンリが立っている。

 その手には紫真珠と女神のカメオで作ったブローチを握っていた。


「あ…………」


 どうやらさっきの攻撃でポケットから転がり落ちてしまったようだった。

 アンリの持つ物にアレクセイも気づいて駆け寄って来た。


「それ! メアリの! どうして君が持っているんだ、アンリ?」

「今…………、ルール侯爵令嬢が落としたんだ」


 途端にアレクセイが睨んでくる。

 これは不当に奪ったとか思っていそうね。


 ここは最初の手はずどおりモスに毒で自由を奪ってもらおうかしら。

 邪魔をしないようウィリアム周辺にはそうするつもりだった。


「…………君が、メアリなんだね」


 囁くような小さい声ながら、はっきりアンリは言葉にした。

 突然の正解に、私も驚いて否定し忘れる。

 その沈黙でアンリは確信した様子で私を真っ直ぐに見た。


「さっき、モスを呼ぶ声がそのままだった。思えばメアリは決して瞳の色を見せようとはしなかったし、最初から存在しないなら、捜しても見つかるはずがなかったんだ」

「何を言ってるんだ、アンリ? メアリの髪の色とは違うだろ」

「アレク、劇団ゲームでは髪の色を変える薬を使っているそうだ。それを作ったのはモスだとマウリーリオに聞いた」

「おや、ばれてしまったねぇ」


 簡単に肯定するモスに、私は思わず睨みつける。


「いや、この場合もうその人魚から貰った真珠を持って来てた君の落ち度じゃないのかい、シャノン?」

「う、それは…………」

「メアリ? ルール侯爵令嬢が? ありえないだろ、そんなのおかしい」


 信じられないアレクセイに、アンリが困ったように笑った。


「アレク、メアリが一度だけ君に怒った時にルール侯爵令嬢が喋っていたような慇懃な様子でものを言ったことを覚えていないかい? 似てるのは、親類だからだと思ってはいたけど…………自分の目の悪さにいっそ憤りさえ感じるよ」


 アンリはそう言ってカメオを返してくれる。


「あなたが、二人の捜してた恩人…………? どうして名前を偽ってまで?」


 ようやく身を立て直したマリアが事情を尋ねた。


 これ以上誤魔化しは無理か。


「領主家として知らないふりはできない状況でした。同時に、王家と軋轢を抱える我が家が表立って関わっても良いことなどない。ですから…………」

「見捨てるとか見ないふりをするなんて考えないのはシャノンだろうがメアリだろうが同じさぁ」


 モスが余計なことを言うけれど、もうばれたなら止める意味もない。


「アンリ、アレクセイ、嘘をついてごめんなさい。それとありがとう。あなたたちに出会って話せたお蔭で私は今日まで生き残れる手立てを講じられた」


 ずっと言えなかった謝罪と感謝を告げて、私は立ち上がる。


「ここからは、我が国の問題よ。この結界は魔石に流し込まれたアルティスの魔力を使って逃さないようにするためのもの。関係のないあなたたちなら問題なく抜けられるわ。モス、本館のほうまで案内をしてあげて」


 マリアを始め、他国の人間であるマオとマシューも含めてモスに託す。


「おや? 僕ならあの王子さまの体の自由を奪えるよ」

「あれだけ濃密な魔力を纏っている今、すぐには無理よ。魔法をぶつけて削るにしても、反撃される可能性がある以上、怪我をしない内に退いたほうがいいわ」

「君は、この状況にどう決着をつけるつもりなんだい?」


 心配そうな顔のアンリに、私はあえて笑ってみせた。


「あら、これはただの学生同士の喧嘩よ。決着なんて喧嘩両成敗。学外で私有地の中だもの。魔法学校にだって王家にだって口出しはさせないわ」


 エリオットが防御魔法でアルティスの攻撃を阻み、私の目の前に炎の壁が広がる。


「く…………! 早く逃げて! 今のアルティスは溜めこみすぎた力で歪んでしまっている。力の放出のために攻撃を誘発するから、私の側は危険よ!」

「い、いや! 私、ウィルを助けたい! お願い、私にできることを教えて!」


 マリアは自分が戦いには不向きだと今までのことで実感したのだろう。

 だから私に聞いて来た。ウィリアムを助ける方法を。


 私は思わずマリアに笑顔を向ける。


「あなたが私の知っているとおりの人で良かった」


 ゲーム主人公は仲間を見捨てるような性格ではない。


「今の適性は魔力ね? だったら威力はいらないから手数でアルティスの意識を散らして!」


 マリアは頷くと私の指示に従って動き始めた。


「僕も残るよ」

「アンリ!? 何を言っているの!」

「守られてばかりは嫌なんだ。それに、友達を置いて行くなんてできない。この力が誰かを守れるなら、僕は…………」


 アンリは防御魔法でウィリアムの体を囲む。

 アルティスの動きを阻害すると同時に、攻撃を凌ぐ盾としてジョーたちを守った。


「となると、自分たちにできることはこれだね」

「ふぅ、出番があって良かった!」


 マオとマシューは援護と回復を放って、攻撃する仲間を援助する。

 そんな中、ただ成り行きを見ていたアレクセイは拳を握って俯いた。


「僕には、できない…………友人に攻撃なんて。怪我をさせてしまうなんて、嫌だ」

「強力な攻撃適性なのだからしょうがないわ。…………でも、友人だと言うのなら、どうかウィリアム殿下に呼びかけて。アルティスに抗うように。きっと、私ではそれはできないから」


 アルティスと一緒に敵視してきた私が何を言っても怒らせるだけだろう。

 でもマリアたちとは普通に友情を築いていたように思う。

 だったら、きっとウィリアムも耳を傾けてくれるはずだ。


「わかった…………。ウィル! そんな訳のわからない奴にいいように操られるな!」

「ウィル! お願い正気に戻って! こんなのあなたらしくないわ!」


 アレクセイとマリアの声を聴いて、マシューとマオも援助の合間に声をかける。


「あんた立派な王子さましてたじゃないか! 血筋がちょっと遠回りになったくらいで挫けるなよ!」

「秘密を暴かれたのは嫌だろうけれど、その秘密は本当に君が背負うべきものなのかい?」


 攻撃の手が増えてアルティスが押される。

 かと思うと星のようなきらめきが周囲に散り、アルティスの能力が一気に向上した。


 これは私の光りの蝶と同じものだ。

 そして番人を襲った者、顔を隠したウィリアムが纏っていた蛍火の本来の姿。


「ふん、無駄だ。これの心を何よりすり減らしたのは相応しくない己が王子として振る舞わねばならない矛盾。王子として遇する全ての者の態度、言葉が何より神経をすり減らしたのだ」


 王子らしく、王子として相応しく、それはゲームでもあったウィリアムの抱える闇。


 ウィリアムを押さえようとして撥ねつけられたルーカスが叫ぶ。


「殿下、それでもあなたは立派に勤められていたのに!」

「務めるよう、努めるよう、そう強いられてきただけだ!」


 苦しむように顔を歪めて答えたのはきっとウィリアム本人だ。


 そのまま魔法を使うのはアルティスだろう。

 精霊の強化で数の劣勢を押し返す。


「正直、あなたの置かれた状況には常々同情をしていたわ」


 私にはやはり反発するように睨み返すウィリアム。

 光る蝶を出して仲間を強化すると、警戒の色が強くなる。


「それでもこれはあなたが売ってきた喧嘩よ! 買ってあげるからアルティスの陰に隠れるだなんて見苦しい真似はやめなさい!」

「うるさい! お前さえいなければ!」


 ウィリアムの攻撃が私に集中した。

 お蔭で他の仲間がウィリアムに距離を詰める。


「シリル! 今よ!」

「もう! シャノンはすぐ危ないことするんだから!」


 シリルのデバフがウィリアムに刺さる。

 気にせずウィリアムは私に攻撃を続けた。


 それを防いだのはやっぱりエリオットの防御魔法。


「全く、見ていられないほど無様ですね」

「ちょ、エリオット?」


 あなたまで挑発しなくていいのよ!?


 何を考えているのか、エリオットが完全に私を背中に隠す。


「王家の血筋がなんだと言うんです? どれだけ尊貴な血が流れていても、私のようにどちらの王家にも無用の長物扱いされる者もいるというのに、ずいぶんと贅沢な悩みですね」

「うわぁ…………」


 誰が言ったかわからない引きぎみの声。

 けれどその気持ちは痛いほどわかる。


 誰も正面切って言えないことをエリオット本人が言ってしまったのだ。


毎日更新

次回:荒療治

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