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216話:見えてきた正体

 ミレーレは手当ての甲斐あって一命を取り止めた。

 けれど失血が酷く未だ意識不明のままだ。


 この世界、輸血の技術がなかった。

 魔法で補助しつつ少しずつ体が回復するのを待つしかないそうだ。


「…………アーフの姫が、巫女じゃ、ない?」


 私は別荘地にある本家でお父さまと向かい合っていた。

 一緒にいるのはメアリ叔母さま。

 そして密かにやって来たムールシュアとフィアだ。


「私も二人の話を聞いて初めて疑いました」


 マリアが巫女でない可能性を話すと、お父さまもメアリ叔母さまも絶句してしまっている。


「けれど疑ってみればその可能性が高いのです。あまりにも、マリアは私にできることができない」

「確かにシャノンに追い詰められて精霊が巫女に加勢しないのはおかしいわ。精霊は巫女の気持ちに沿って動くことができる。心から願えば力を貸してくれるものよ」


 メアリ叔母さまは私の説明に納得してくれた。

 聞けば能力上昇は優劣こそあれ巫女ならできるもので、対象は心から信じた者なのだそうだ。


 よほどマリアが疑り深くない限り、一緒に危機に陥った誰かが能力上昇の恩恵を受けるはずなのだとか。


「魔石の所有者を目暗ましに…………どうしてそんな簡単なことに気づかなかったんだ」


 お父さまも事態を飲み込んで唸るように呟いた。


「あの者が魔女の資格を有することに変わりはない。だからこそ巫女ではないと思うほうが不自然ではある」


 ムールシュアがお父さまに声をかけると、フィアは思い出すように話す。


「精霊もあの魔女に従ってた。契約せずに精霊従わないと聞いた」

「そのとおりだ。精霊とは本来自らに益ある者とのみ協調する。我々テルリンガー家は益ある者であると認められて魔石の管理を委譲されているんだ」


 お父さまの言い方に情はないけれど、アーチェを思うと現状に即しているため頷ける。


 メアリ叔母さまを見ると肩を竦めるだけで否定はしない。

 どうやら叔母さまのハムスターのような精霊も利害を重視するところがあるらしい。


「精霊は私たちと理が違うのよ。ただし、契約には忠実。だからこそアーフの姫に力を貸すアルティスは契約者の指示の下動いているのでしょうね」

「えぇ。わかりやすい事実にだけ目がいてしまっていました。そしてマリアを隠れ蓑にアルティスに指示を出せるのは…………」


 私が言いかけた時、外からノックの音が割って入る。

 ムールシュアとフィアがいるから、室内には私たちだけ。


 人魚たちは敵モブのフードで姿を偽った。


「どうした」


 人魚の準備を待て問うお父さまに、エリオットが答える。


「失礼いたします。魔法学園レッケル老師から急報です」

「何? 入れ」


 エリオットは入室すると、お父さまの頷きにすぐさま報せを口にした。


「魔法学校側が教員会議の結果、オーエンを図書館司書襲撃の犯人だと断定したと発表することを決定しました」

「なんですって!?」


 遮るように声を上げたのは私だけれど、お父さまたちも驚いている。


「オーエンはどうした?」

「会議の結果を聞くとすぐさま逃亡したと」


 さすが早い! じゃなくて。


「オーエンではありえないわ!」

「だいたいどうして教員だけで決めるの? 王領で起きた事件なら、調べは王室から派遣されてくる調査官が行うはずでしょう?」


 メアリ叔母さまにエリオットは困ったように答える。


「それが、校長に王家から解決を委任する急使があったと言うのです」


 お父さまは眉間を険しくしながら冷静に努め今後の方針を決める。


「まずは情報の裏取りを行う。王家の急使が誰であるかは私が確かめよう。メアリはアーフの姫が契約者ではないことを証明する方法を探してくれ。シャノンは学内で情報収集を。レッケルには教員会議の様子を報告するよう伝えてくれ」

「わかったわ。今日のところはこれで失礼させていただくわね」


 メアリ叔母さまはムールシュアとフィアに断りを入れると退出していく。


 お父さまも人魚たちに頭を下げた。


「慌ただしくて申し訳ない」

「いや、手伝えることがあるなら言ってくれ」

「魔女シャノン、助ける」


 フィアのやる気にお父さまは微笑む。


「では、可能な範囲でいいのでオーエンが海を渡ろうとしたら捕まえてほしい」

「お父さま?」

「本当に委譲されていた場合、オーエンが犯人であるという発表は国王の言葉となる。その時には、公に庇うのは難しい」


 だからオーエンは私たちにも告げず密かに島を出る可能性がある。


「請け負った。捕まえてどうする?」

「匿ってくれ」


 お父さまの答えにムールシュアは笑う。


「いいだろう。それではすぐに海に警戒網を敷こう。我々もこれで失礼させていただく」

「またね、魔女シャノン」


 ムールシュアとフィアも去り、私はエリオットを見上げた。


「戻りましょう、エリオット」

「はい」


 私はお父さまの指示に従い魔法学校へと戻った。


「マリアたちが追って行った!?」


 教えてくれたのは教員会議当時学内にいたジョーとアンディだった。


「俺たちも何があったかわからなくて、ともかく色々話集めてはいたんだが」

「やっぱりちょっと乱暴にでも止めるべきだったかな」

「…………いいえ、アンディ。発表には王家からの委任があってのこと。下手に止めなくて良かったわ」


 ここで力尽くは、王家にたてついて罪人を庇う悪手でしかない。


 学内では図書館でのミレーレ襲撃がすでに噂となっており、犯人はオーエンであると事実のように語られているそうだ。


「私たちがいたことは誰も言っていないのね?」

「あ、シャノン!」


 私の姿に走って来たのはシリル。

 顔色が悪い。


「私、悪い夢見て、それで、オーエンが…………!」

「シリル、落ち着いて。オーエンは簡単に捕まったりしないわ」


 そう簡単には捕まらない。

 それは私が良く知っている。


(シリルが予知してる? やっぱりこれって、イベント始まってるよね?)

(ミレーレが襲われた今、この後はオーエンが島中を逃げ回るんでしょうね)

(けど犯人オーエンじゃないのに、どうしよう? これってストーリーイベントだけど止められないのかな? 止めたらストーリー変わっちゃうのかな?)

(わからないわ。少なくとも表面上はストーリーどおりよ。ねぇ、『不死蝶』はこの時動かないのよね?)

(うん、ミレーレが死んだ後に第一発見者のゲーム主人公に詰め寄って、今までオーエンに操られていたことを自覚するの)

(そしてショックを受けてフェードアウト。ストーリーには出て来なくなる…………)


 私が望んでいた筋道はこれだ。

 けれど今、この道は成立しなくなっている。


(今にして思えば、学内の事件なんてルール侯爵にも捜査権はないのよ。『不死蝶』が関わらないことに不自然さはないわ)

(王子さまがいる主人公チームのほうが犯人追う大義名分があるんだよね)

(えぇ、騙されていたとわかれば関わっても損しかない話よ)

(けど、今は嘘があるのはオーエンじゃないって私、知ってるよ)


 そう、これは違う。

 望んだ結果ではない。


「オーエンはやってない」

「シャノン…………」


 私は断言してシリルに笑いかける。


「私とエリオットはオーエンと一緒にいたの。それをマリアたちは見ているのよ」

「え、そうなのか? 噂だとオーエンが襲ってるところをマリアたちが発見したって」


 ジョーの現実と違う言葉に、私はエリオットと顔を見合わせる。


「いいえ。虫の息の司書を見つけ、お嬢さまがマリアたちの手を借りて蘇生しました。その後別荘地の施療院に搬送しています」

「寮にいなかったのはそういうことかい。だったら余計に学校とマリアたちの行動はおかしいな」


 アンディは本当に私たちが事件に関わったことを聞いていないようだ。


「ここだけの話、犯人はオーエンではないわ。目撃者がいるの。顔は見ていないけれど男子学生よ」


 実は図書館にいたジャンヌは犯人を書架の隙間から見ていた。

 エリオットがその可能性に気づいて嘘を吐いたため、証人を魔法学校より早く我が家で保護することができている。


 ジャンヌが見た犯人は制服姿で、私たちの話し声が聞こえて窓から逃げたそうだ。

 そしてミレーレの名前で呼ばれていたオーエンが現われたけれど、ジャンヌはミレーレから来訪者があることは聞いていない。

 これはどう見ても罠であり、オーエンをはめることはできても私の行動を制限できない者の企みであることがわかる。

 どうやら敵の正体が見えるところまで来たようだ。


毎日更新

次回:最悪への備え

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