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199話:イベント強制指令

 マルコにオーエンを疑えと言われた後日。


 私はシリルと一緒にスイーツ巡りをしていた。

 オーエンを添えて…………。


「このアイス、滑らかで美味しー」

「ジェラートと違ったミルク感がいいよね」

「ジェラートならエスプレッソを飲みに行くところだけど、この後は何がいい?」


 オーエンに紹介されたアイスに舌鼓を打っていると、さらにその後のドリンクを聞かれて悩む。


「暖かいものかしら?」

「冷たい物でもいい気がするわ」

「だったら両方飲める個室のお店にご案内するよ」


 私たちの返答を予想していたのか、オーエンはすでに店を取っていた。

 本当にオーエンのこういう手回しの良さには驚かされる。


 連れて行かれたのは貴族専用の店。

 なるほど、オーエン一人では決して入れないけれど、私たちの要望も外さないチョイスだ。

 まず暖かな季節の紅茶をいただいて、エスプレッソに挑戦してみる。

 その後は果物水で口直しをした。

 その間も私たちは上質なお菓子を摘まむ。


「ところで今日、従者くんはどうしたんだい?」

「これだけ楽しんだ後に聞くことかしら?」


 会ってすぐ聞かれても良かったのに。


「エリオットは他の方に誘われて園芸クラブへ行ったわ」

「エリオットが育てた薔薇見せてもらったけどすごく綺麗だったの」


 シリルも知っているエリオットの趣味の園芸。


 元はお母さまが魔法の練習で植物を育てることをしていて、結婚してからも趣味として花を育てていた。

 そしてエリオットが我が家に来てからは、使用人という立場のエリオットと会話の機会を設けるため園芸を教えていたのだ。


「ははは、従者くんは普通に交友を広げているのに、君は僕と出かけているんじゃまた学校側に贔屓されていると言われるね」

「それをあなたが言うの?」

「シャノンの才能を知れば特別扱いしたくなるのはわかるわ。オーエンも特に学内でシャノンを贔屓しすぎているようにも見えないし」


 それだけ他の教員も私を贔屓、もとい、特別視して扱うのは、もう誤魔化しようのない事実だった。


「何故私に偏ってしまっているのかしら? マリアも同じなのだけれど」

「シャノンは備えていた分、力がついているのではない?」

「というか、ルール侯爵家が集積していた魔法が多岐にわたりすぎてるんじゃないかな?」


 どちらにしても私のほうが特別扱いを受けるのは当たり前だと思われているようだ。

 小国とは言え姫であるマリアを差し置いて。

 そういう声が私にも聞こえることがある。


 知っている人はマリアが聖女とも知っており、何故か私が対抗馬扱いにもなっていた。


「学内で問題を起こす気はないのに…………」

「それなんだけどさ」


 オーエンが小ぶりなパイをさくさく食べながら一度言葉を切る。

 甘いチーズカードにレモンの風味をつけたフィリングが入った手間のかかった逸品だ。

 一つをすぐさま食べ終えて、オーエンはまたパイに手を伸ばす。


「学内で問題を起こしてくれないかな」

「はい?」

「いやー、そういう指令がきちゃってね」

「オーエン、それは密輸組織からということ?」


 シリルに頷くオーエンは何処までも世間話のような軽さだ。


「嘘でしょ? どうしてそんな指令が下るのよ!?」

「実は前から君の動向を監視するよう言われていたんだ」

「それで、オーエンはシャノンのことを伝えていたの?」

「いやいや、そこは僕にも表の顔があるから不自然な行動はできない。教員なら誰でもわかってる学内での行動を教えただけだよ」


 オーエンは事務員だけれど、それでも引率を任される腕前を認められた魔法使いだ。

 そして購買員として学生がどんな魔具を手に入れているかを知ることのできる立ち位置にいる。


 立場的に私が学内から何処へ向かうかはわかるし、予想もできる。

 とは言え、教員という括りを口にしたのなら、密輸組織への出入りは報告していないのだろう。


「さらに特記事項もあったね。例のお姫さまを巻き込めと」

「どういうことなの、オーエン? 密輸組織の上が、マリアを巻き込んで私に問題を起こさせろと?」

「密輸組織の上もマリアが自分を追っているとわかったからシャノンとの相打ちを狙って、とか?」


 シリルの予想はありそうだけれど、そんなあからさまな上の動きがあればマルコが先日報告してくれていたはずだ。


「…………その指令はどうやってあなたに届いたの?」

「ひ、み、つ」


 ふざけるオーエンを睨むと、指を立てて振られた。


「これくらいは自力で調べてほしいな」

「あなたからの試験ということかしら?」

「そうとってもらって構わないよ」

「それは私も参加していいもの?」


 シリルが真剣な表情で迫ると、オーエンは頷く。


「できるなら、ね」

「オーエンはお菓子を食べていないと意地悪なのね。その口を割らせるには特別なお菓子が必要かしら?」


 シリルが冗談めかして身を引くと、オーエンも笑顔で指を立てていた手を開いた。


「甘くない金色のお菓子ならいらないよ」

「そうよ、シリル。手は込んでなくても季節ものの絶対美味しいってわかってるお菓子を目の前で揺らしたほうがオーエンには効くんだから」

「わかったわ、シャノン。オーエン、次は我が家の別荘地に行きましょう」


 シリルの誘いにオーエンはすぐには答えない。


「…………ありがたい申し出だけど」

「今の季節なら何が美味しいかしら? クリームにミントを効かせてもいいわね。パンケーキに季節の果物とカスタードと好きな物を乗せて…………チェリーやアプリコットの蜜漬けもいいわね」

「我が家に来てくれるなら国から連れて来た職人が、クレープに砂糖とリキュールを振って目の前でフランベしてくれるわよ。香ばしいカラメルがベリーとよく合うの」

「うぅ…………なんて卑怯な…………」


 私たちの誘惑にオーエンは拳を作って悩む。半分くらいは本気そうだ。

 そんな様子にシリルは私に向けて肩を竦めた。


「シャノンはオーエンのことをわかっているのね」

「まだわからないことのほうが多いわ」


 茶番はこのくらいにしておきましょう。


 どうやらオーエンはすぐに口を割る気はないらしい。

 それなら目の前のことを解決すべきだ。


「学内で問題を起こせと言っても、何をすればいいの?」

「おや、乗り気なのかい?」

「あちらから接触してきているようなものなのに、逃す手はないでしょう?」

「なるほど、勇敢な君らしい。けれどその辺りはなんとかしろとしか言われてないんだ」

「そんなふんわりした指令がいつも来るものなの?」


 怪しむシリルにオーエンは首を振る。


「それがこんなの今回が初めてでさ。折り返し何をするか指示をと求めたんだけどね」


 オーエンは上とやり取りできることに私は内心盛大に驚いた。

 というか、それなのに乗っ取らせるなんて、本当に何がしたいのかわからないわ。


 上を調べた上で行動しているというマルコの予想が当たっていた。


「それで上の答えは?」

「あのお姫さまを巻きこめる形であるならなんでも、だそうだよ」


 適当すぎて困るとオーエンは大袈裟に天を仰ぐ。

 シリルも不可思議な指令に首を捻った。


「マリアに焦点を当てて、シャノンを動かすの? それにどんな意味があるのかしら?」

「私たちが対立していそうだという話からより激化を狙った?」

「そうかもね」


 オーエンは適当に相槌を打って、バターたっぷりのスコーンを口に運ぶ。

 これ以上は情報をくれるつもりがないようだ。


「マリアを巻き込めば自然とウィリアム殿下たちが関わってくるわね」

「そうなるね。だったらシャノンを通じてルール侯爵との対立を演出する狙い?」

「密輸組織は我が家を隠れ蓑にしている節があるわ。マリアに追われていると知って目を逸らすつもりかも」

「でも回りくどいよね。しかもやり方が適当すぎて上手く事を運ぶつもりがないように思える」


 私はもうオーエンを放っておいてシリルと悩む。


 指名されたのは私とマリア。

 何か巻き込まなければいけない共通点があるかしら?


「あら? そう言えば学内でと言ったわね?」

「そうだね」

「つまり私とマリア、密輸組織を探る両方を学内に釘づけに?」

「そうかもしれないね。でも僕は知らないよ」


 そんな姿勢で指令を果たす気があるのか、疑わしいオーエンの答え。

 文句を言おうとしたら、オーエンの目元が鋭くなり、シリルを見据えた。


 シリルは硬直したようにオーエンを見つめて動かない。


「シリル?」

「…………あ」

「もしかしてこれが噂に聞く予知かな?」


 白昼夢を見るようなとは聞いていたけれどおかしい。

 だってシリルは夢で見るはずだ。


「予知? 今のは予知? わからないわ。…………少し、考えさせて。こんな、見え方、初めてで…………」

「そういうものなのかい? でも、何かわかったら教えてほしいな」


 見るからにシリル自身、今の状況に混乱している。

 軽いオーエンに浅く頷いて、シリルは胸を押さえ考え込んでいるようだった。


毎日更新

次回:朝顔イベント

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