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197話:未来の変化

 私は週末を待って隠し港へと向かった。

 身に纏った足先まで覆う黒い外套は、敵モブのフードと同じ機能を有している。


 責任者の部屋へ向かうと、室内にいるのはマルコだ。

 結局ここに居座ったのは、大伯父家からの新たな責任者が来ていないから。

 新しく就任はしたけれど、お父さまに捕まることを恐れて隠し港に出入りしていないのだという。


「なんだかさまになって来たわね」


 自ら外套を脱いで、私はマルコへ声をかける。

 エリオットはもちろんついて来ているのだけれど、部屋の外で見張りをさせていた。


「組織乗っ取るわ、そんな魔具作るわ、お前さんのほうが手慣れてて嫌になるぜ。だいたいなんだよ、その隠れる気のない白い服」


 来て早々ファッションに文句をつけられた。


 着て来たのは紺色のシャツに金縁の白いベスト。同色の上品なスカートには繊細な金刺繍で彩り、差し色で薄い青紫の布地を使っている。

 髪には青いリボンと金と白のコサージュ。白いクラバットを飾るのはカメオと紫真珠で作ったブローチだ。


「軽装にしたつもりだけれど。久しぶりの再会に気合いを入れすぎたかしら」

「そのようなことはない。さらに美しくなった君に再会できたことを嬉しく思う」

「ありがとう。会いたかったわ、ムールシュア」


 褒めてくれたのは、マルコと共に部屋で待っていた人魚のムールシュア。

 布を巻いたような人魚らしい服に、怪我もなく雄々しい戦士の肉体も健在のようだ。

 私の目には以前会った時より溌剌とした姿に映った。


「僕も魔女メアリに会いたかった。魔女メアリは?」

「もちろんあなたとの再会も喜んでいるわ、フィア」


 たぶん同じくらいの歳のフィアは、言葉が慣れたのか以前のたどたどしさがない。

 けれど何処か可愛らしく成長した姿はゲームにあるとおりだった。


「け、何が会いたかっただ。律儀に入学待たずにさっさと会ってりゃ良かったのによ」

「入学後に会いに行くと約束したのだから早く会うのでは意味がない」

「魔女メアリは運命に抗う手助けを必要としてた。それがわからないなんてどうかしてる」


 悪しざまに口を挟むマルコに、ムールシュアとフィアも言葉に棘がある。

 けれど以前ほどの敵意がない気もした。


「なんだか仲良くなっている気がするわ」

「なるか! こいつら紫真珠三粒売り払っただけで船乗り込んできやがって!」

「まぁ、それはいつのこと?」

「お前を降ろして一年様子見た後だよ。あれには一粒ずつ探索魔法かけてやがったんだ」


 そこまで危機感を持っていたのに、人魚の仕込んだ魔法に気づかずマルコは紫真珠の売買が即バレしたらしい。

 再会を約束したのだから、私がいる場所がわかるように仕込みをしていてもおかしくない。

 そのせいで、どうやら知らないところで海賊と人魚の関係性ができあがっていたようだ。

 マルコの船でたまに私のことを聞いていたらしい。


 想像してちょっと笑ってしまう。

 ムールシュアとフィアに向き直ると、私は裾を摘まんで淑女の礼をした。


「改めまして。私はかつてのルール王国の末裔、ルール侯爵の娘、シャノン・メイヴィス・メアリ・テルリンガー。シャノンと呼んでちょうだい」


 改めて名乗った私は本題へ入る。


「ムールシュア、あなたが生きて私に会いに来てくれて本当に嬉しいわ。これで、未来を変えられると信じることができる」

「今この時にも君に死の影が迫っていると言うのなら、私は君に報いるため力を振るおう」

「ここに、いる。魔女シャノン、いつでも僕たち頼って」

「こいつらはここの海底にある昔の住処の整理したいんだと。こいつら以外にも三十人くらい海中にいやがるぜ」

「まぁ、そうだったの? 何か手伝えることはある?」

「いや、ここにいる人間でも知らせているのはこの船長だけだ。君も内密に頼む」

「えぇ、もちろん。あなたたちも見つからないようにね」

「その心配は無用だ。このフードを被ればどうやら我々も人間の振りができるらしい」


 なんと、敵モブのフードは異種族だともばれない性能があったようだ。


「魔女シャノン、予知はどう? 痛いことない?」

「大丈夫よ、フィア。今のところ、順調、なはず、だもの…………」

「おいおい、締まらねぇな。何がどうなってやがる」


 マルコが雑に聞いて来た。


「そうね、私が見た未来は何通りもあるの。その中で私が死ぬことはないルートがあって、それに向けて行動をしているつもりよ。同時に、そのルートを辿っても突発的に私が死ぬ可能性のある未来が発生もするわ」


 ストーリーを進めてもイベントはなくならない。

 だからストーリーを進めつつイベントを潰す。

 そんな流れをゲーム関連の単語を言い換えてなんとか説明した。


 聞き終えるとフィアが私に抱きついて来る。


「魔女シャノン、辛い。どうしてそんな苦難ばかり」

「お前さん、死ぬ可能性が多すぎねぇか? すでに十以上もその可能性潰してまだあるのかよ」

「その時になるまで本当に潰せているかどうかがわからないのが問題なのよ。イースターの時のように起こる行事自体を潰すわけにはいかない。失敗だったとしてももうやり直しは効かないし、対策は打っているつもりだけれど」


 フィアは慰めるように私を軽く叩きながら聞いている。

 ムールシュアは腕を引っ張ってフィアを回収した。


「君が進みたい未来の道筋において、現状変わっているところは?」


 自らもまたバタフライエフェクトとして存在するムールシュアに、私は初期メンバーの違いについて話す。


「ただ予知で全てがわかっているわけではないから、こちらの打った手が予知とどれくらい違うのか断定はできないの」


 番人の強さももしかしたらゲームどおりという可能性がある。

 弱らせる何者かは、ゲーム主人公の目に映らない所で動いていた可能性だ。


 けれど今のところマリアは密輸組織を追う方向で動いている。

 同時にアルティスの目的である魔石集めもしている状態だ。

 ストーリー上の方向性は合っているはず。


「だったらお前さんから見て、その王侯貴族の子弟以外に確実に変わってるのは何処だよ」

「…………オーエンが私の味方をしていることかしら?」


 オーエンを知らないムールシュアとフィアに、マルコが説明をした。


「不実な男だな」

「怪しいと思う」

「否定はできねぇな」


 ムールシュアとフィアの感想にマルコは大きく頷いた。


「だいたいお前さん、どうやってあいつ引き込んだんだ? 脅しすかしじゃなびかねぇだろ」

「私の予知に最初に気づいたのはオーエンだったわ。だから、今のままでは死が待っているということを告げたのが最初ね」


 そう話すとマルコの目つきが変わる。


「あいつが死ぬ? いったいどんな強敵とかちあったってんだ?」

「それほどの腕の者か?」

「腕っていうかやり口だな。あいつは生き残りに重点を置いてる。逃げる時には全力で逃げるし、殺ると決めたら卑怯な手も辞さない。自分しか信じてない奴だ」


 マルコ評に悪意を感じるものの、確かにそんな雰囲気はある。


「敵ではないわ。追い詰められての自死よ。追い詰めたのは私と敵対する小国の姫と大国の王子たち。悪事が露見し自殺の名所の崖から身を投げるの」


 マルコは納得いかない顔をして考え込んでしまう。


「そう言えば、一人ここに来て船長が長く話していた相手がいたな」

「あぁ、あれがオーエンだ」


 どうやらムールシュアは一度オーエンを見ているようだ。


「自死を選ぶような繊細な人間には見えなかった。どちらかと言えば生きぎたない」

「元はこの組織にいた。なのに裏切って魔女シャノンを引き入れた。これは悪?」


 フィアの質問に答えられず私は困ってしまう。

 悪の組織を裏切ったなら正義だけれど、確かに裏切りと言われれば悪だ。


 マルコは顎を掴んで唸るように呟く。


「あの崖か…………つまりは死体が上がってねぇんだな? その後どうなった?」

「えぇ、そうなの。死後は小国の姫がオーエンの残した手がかりでさらに密輸組織を追うわ」


 私が知っているのはその情報からこの隠し港を見つけるまで。

 ゲームでストーリーはそこまでしか進めていなかったのだ。


 マルコとムールシュアは目を見交わす。

 思った以上に仲良くなっているようだ。


「それよ、オーエンの奴死んでねぇんじゃねぇか?」

「何がしかの手を打って死んだように見せかけ、その小国の姫を操っているのでは?」

「わからないのよ。予知ではそこまでは…………」

「それ、オーエンという人間信じた?」


 フィアの質問に私はまた困ることになった。


「…………何か、本人には心当たりがあるような顔をしていたように思うわ」


 自信のない私の答えのせいもあるのだけれど、マルコもムールシュアも懐疑的な反応だった。

 けれどオーエンが寝返ったとしか思えない現状、他に私につく理由は思いつかない。


「予知で言えば確実にオーエンは行動を変えているの。何度も私の所へ忍んでくるし、公にも会いに来るし」


 ゲームでオーエンは『不死蝶』を困った生徒だと言っていた。

 そこに親しみはなく、ゲーム主人公に愚痴るような形で。

 演技であることを否定はできないけれど、見る限りゲームほどマリアと親しいわけでもない。


「あぁ、驚くほど仲いいよな、お前さんら」

「親しい相手を疑えないということか。ふむ、これからは紫真珠を常に持ち歩くようにしてくれ。異変があればすぐに駆けつけよう」

「そうじゃないわ。警戒もしてるし、いっそ全力で疑っているのよ。けれど、向こうが上手でいつも私のほうが口を割らされてしまうの」

「僕、魔女シャノン守る! 怪しい人間いるなら呼んで! 女神のカメオに祈れば聞こえる!」


 フィアのやる気を無碍にできず、私は紫真珠を常時持ち歩くことに頷いてしまった。

毎日更新

次回:動き回る人魚

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