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188話:お話を聞く

 入学から一カ月。

 マリアはゲームどおりの動きをしている。


 と言ってもゲームだったから実際の時間の流れはわからない。

 けれどストーリーどおり人助けを行っている状況だ。


「お嬢さま、如何なさいますか?」


 私の側に控えたエリオットが密やかに聞いてくる。


 今目の前ではマリアが村人を助けていた。

 敵対相手は顔の見えないフードを被った敵モブ。

 その手には村人から強奪したと思われる魔法の素材が入った袋が握られていた。


「様子を見るわ。私が出てもあなたは出ないでちょうだい」

「しかし…………」

「ウィリアム殿下を刺激したくないわ」


 これもストーリーどおりの展開なのだ。

 そして初期メンバーのウィリアムがマリアの側にはいる。

 ウィリアムがいると護衛のルーカスも自然一緒に行動していた。


 三人は村人を助けて敵モブと戦闘になるも、そこは三対一。

 マリアのほうが有利な上に、敵モブも強くない。

 まぁ、そこら辺の魔法が使えるだけの島民なのだから当たり前だけれど。


「ちなみにあの者はお知り合いでしょうか?」

「いいえ、見たことのない者よ」


 属性と適性から判断して、少なくともマリアにやられた敵モブはミックたち顔見知りじゃない。


 ゲームどおりに素材を奪い返して、お礼の品を貰い、さらには素材の取れる場所を教えてもらう。

 うん、ゲームどおりの成り行きすぎて逆になんだか落ち着かない。


「…………おかしいわね」

「はい、そのように思われます」


 エリオットも違和感を覚えたようで、いいことをしたと満足げに学校へ帰るマリアたちを見送る。

 素材探しは明日にするようだ。


「あんなやり方、今までの密輸組織ではしていないわ」

「はい。強奪などしていてはすぐに被害者の訴えで密輸が表面化します」


 今まではあくまで隠れてやっていたのだ。

 その存在は直接見えなくても感じ取れるくらい動きつつ、決定的な尻尾は掴ませない。

 それが密輸組織のやり方であり、お父さまの悩みの種だった。


「乗っ取ってからも同じようにしていたはずよ。いったい今のは誰の命令で?」

「もしかしたら、下の者たちの中には、あのような蛮行で素材を集める者がいたのかもしれませんね」


 密輸組織は元々島民の副業だ。

 島で採れる素材を薪拾いのついでに素材を拾って勝手に売る。

 だから敵モブは自ら素材を探すのが密輸組織のやり方だった。


 隠し港にはそうして集めた素材を種類ごとに分類して在庫管理。

 何を売るかは密輸組織の裁量であり、これが欲しいという客がいても密輸とわかっていて取引をする相手だ。

 真っ当な商売人相手のようには行かず、手に入ったら優先的にというくらいのスタンスで取引をしていた。


「さっきの人の個人のやり方ならいいけれど。いえ、良くはないわね。一度窃盗の訴えを洗ってみたほうがいいかしら?」

「私としてはあの村人も洗ったほうがいいかと」

「どうして?」

「あのように袋一杯に集めた素材を、どうするつもりなのかが気になります」

「確かに。公的な買取はあるけれどそんなに高額ではないわ。だから密輸に加担する者が出るのだし」

「本人が使うようでしたら、逆に資格が必要です。その提示もせず、ましてや一方的に奪われて抵抗もした様子がない」


 言われてみれば、騒ぐだけで無傷だった村人が怪しく思える。


「そう考えると、あの村人は何処の村の者なのかしら?」

「肌も髪も焼けていたように見えました」

「となると港関係者よね。それがどうしてこんな山の中に?」


 ここは魔法学校に近い山林で、初期のフィールド。

 スローブローから定期的に討伐隊が出るので危険な魔物は少ない場所だ。


 逆を言えば定期的に領主の手の者が入っている。

 珍しい素材があれば討伐隊が見つけて領主へ届けるので、素材集めはもちろん犯罪をするには向かない場所のはず。


「…………明日も監視を続けるわ」

「お望みのままに」

「エリオットは自由に学校生活を送ってくれていいのよ?」

「では、私もあの王子が何をするつもりなのかが気になると言えば同行をお許しいただけますか?」


 そう言われると拒否はできないけれど。


 結局私につき従うエリオットとまた翌日も覗き見をすることになった。

 私は魔法で存在を隠蔽し、エリオットは自前の異能で姿を隠す。

 というかこれはもしかして、異能のことを自覚しているのかしら?


「この島の侯爵が、島民から素材を買い叩いている?」

「そうなんです! ルール島から得られる富は全て己の者にしたいようで」


 まさかの村人再登場。

 しかも適当なことを言っている。


「そんなことが行われていたなんて。この島で産出される素材は我が国の産業にも関わる」


 ウィリアムは悩ましげに考え込む。


「このままルール侯爵の不正を放置しては国に影響が出るかもしれないな」

「そんな大変なことが? どうして今までばれなかったのかしら?」


 マリアも村人の言い分を信じてしまっているようだ。


「侯爵本人は何もしないんです。手下を使ってあくどいことをやらせてるばかりで。私たち下々じゃ何を言っても聞き入れてもらえませんし、証拠もないままじゃ相手にされません」


 村人は哀れっぽく訴える。


「みんな辛い思いをしてるのを我慢してるんです。我慢してどうにか集めた素材を少しでも暮らしにと」

「そんなに辛い暮らしをしているようには見えないが」

「ルーク、辺りの警戒をしておいてくれ」


 ルーカスの疑問に村人が戸惑いを見せる。

 そんな村人の様子に、話さなくなることを懸念したらしいウィリアムがルーカスを遠ざけた。


「ルーカスは誰と比較して辛い暮らしではないと言ったのかしら?」

「ミックではないでしょうか? 最初に会った時には薄汚れたシャツ一枚でしたし、靴も履いてはいませんでした」


 そう言えば。

 二度目以降は継ぎ接ぎはあるけれど上着と靴をちゃんと着ていた。


 けれど村人を名乗る相手はシャツにベスト姿で、真新しいとは言わないけれど継ぎ接ぎするほど傷んでもいない服だ。

 その上ちょっと糊を使ってる?

 確かにこれはミックに比べれば裕福な暮らしをしているだろう。


「エリオット、あなたにはあの人の目の色は何色に見える?」

「灰…………か、青と言ったところでしょうか?」

「私の目には魔法使いではないことがわかるわ。その上で、青に近い瞳。これは島内の出身者である可能性が低いことを表しているように思うの」


 島外の人間と結婚することもあるからいなくはない。

 けれど島の人間で青い目は人魚の末裔であり、魔法使いの素養を持っているはずだ。


 ルーカスを除いてマリアたちはゲームどおり。

 なのにとても胡散臭いのは何故かしら。


「私は困っている人を見ないふりはしたくない」

「マリアの言うとおりだ。私たちでできる限り調べてみよう」

「ありがとうございます!」

「では魔法学校に戻ってシャノンに話しを聞いてみましょう」


 ルーカスのど直球に、私はもちろんウィリアムたちも戦いた。


「待て待て! まずは本当であった場合証拠隠滅の恐れがある。証拠を押さえてからだ」

「本当でない場合、証拠など何も出ないのでは?」

「少なくともこうして被害を訴える者がいる。ならば他にも被害者がいるかも知れない。そうした者たちの声を聞く必要があるだろう」


 ウィリアムがルーカスを説得する。

 何故だろう。ルーカスの空気の読まなさがすごい。

 これ、私を知っているからこうなっているのよね…………。

 なんだか申し訳ないわ。


 そんな言い合いがありながらも、マリアたちは揃って去る。

 見送る村人は緊張を緩めるように大きく溜め息を吐いた。


「さて、もう少しお話につき合ってもらおうかしら」

「だ、誰だ!?」


 村人は振り返ると、私の制服を見て怪訝そうに顔を顰める。

 そして私の目の色に気づくと、指を差してくるものの声が出ないほどに驚いた。


 瞬間、村人が前のめりに地面に倒れる。


「お嬢さまに対してなんと無礼な態度でしょうか」


 私に気を取られた村人の背後から、エリオットが取り押さえたのだ。

 さらには目の前に火を出して暴れるのを阻止する念の入れようをみせる。


 私は地面に倒れ伏す自称村人を見下ろして言った。


「まさか、私が誰だかわからないなどと言わないわね? この島の村人なのですもの。知っていて当然よね? それで? いったい誰が善良な島民から不当に素材を強奪して富を手に入れているのかしら?」


 村人(仮)は答えない。

 けれど地面に頬をつけた顔には激しい動揺が浮かんでいるのがわかる。


「焦らなくていいのよ。時間はいっぱいあるもの。では、もっとゆっくりできる場所へ移動しましょう。そこできちんと、話を聞かせてもらうわ」


 私が指を鳴らすとエリオットは素早く村人(仮)を立ち上がらせた。


毎日更新

次回:気づかぬ再会

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